急げ、社会保障改革! さもないと「消費税率30%の世界」に!?
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180105-00000003-sasahi-soci
週刊朝日 2018年1月5−12日合併号より抜粋
日本銀行本店。「円」の通貨としての価値を守るのが使命だ。(c)朝日新聞社
福祉政策の実行可能領域(週刊朝日 2018年1月5−12日号より)
給付先行型福祉国家の運命(週刊朝日 2018年1月5−12日号より)
「2025年問題」という言葉をご存じだろうか。団塊の世代約800万人が75歳以上の後期高齢者となり、年金・医療・介護の社会保障費が急増。財政が破綻するリスクを指摘するものだ。
どの制度も前途多難だが、巨額の財政赤字の積み上がりは、いったい何を意味しているのだろうか。
慶応大学の権丈善一教授によると、日本は国民の負担を増やさないまま、赤字国債を発行することで社会保障給付を拡大し続けてきたという。
「いわば、どの国もマネできない『給付先行型』の福祉国家をつくり上げてしまったのです。ものすごく議論を簡略化して言いますが、給付を先行させるとどんどん国債が積み上がっていきます。積み上がった国債には国債費(利払い費と償還費)を支払う必要があるため、負担が同じままだと福祉の給付に使える部分が少なくなっていきます。つまり、時間がたてばたつほど、高負担なら高福祉、中負担なら中福祉とはならず、高負担だったら中福祉、中負担だったら低福祉になるわけです。それに、金利が上がれば国債費が増えますから、高負担でも低福祉になりかねません」
「福祉政策の実行可能領域」を図にしてみると負担増を先送りするほどに、「実行可能領域」は右下方向にシフトしていく。
「増税できたとしても、今度は困ったことになります。増税の相当部分は財政再建に回さなければならないため、増税分すべてを社会保障給付に使うことはできません。普通の人は財政事情のことなどわかりませんから、すぐ『増税するのに、なぜ社会保障が増えないんだ』と怒り始めます」
増税のタイミングと社会保障機能強化の取り分を見ると、今度は時間がたてばたつほど、社会保障の取り分が少なくなり、国民の不満が出やすくなる。まさに、今も起こっていることだし、これからの日本では深刻さが増しそうなことだ。権丈教授は、
「いったん給付先行型になったものを、はたしてこの国で元に戻せるのか、皆さんには、そこのところをよく考えてほしい」
と警告するが、とはいえ、財政危機を抑えるためには増税は避けて通れまい。小黒一正・法政大学教授が強調する。
「何もしないままだと、消費税率30%の世界になります。だからこそ社会保障の改革を急がなければならないのです」
増税とセットになる費用削減についての提案はさまざまだ。
「入院外の医療費を見ると、5千円未満のものが件数では約4割を占めています。風邪など軽いものは公的保険から外していく手があります」(小黒教授)
「現在は認められていない、自由診療と保険診療を組み合わせた混合診療を解禁すればいい。すると価格破壊を狙って診療費を値下げする医者が出てきて、健保も患者をそちらに誘導しますから、医療費が減ります」(医療ガバナンス研究所の上昌広理事長)
「年金も考え方を変えるべきです。『支給開始年齢の引き上げ』と言うから、抵抗が強くなる。デンマークやオランダ、イタリアなどでは、平均余命の伸長に応じて支給開始年齢を自動的に引き上げる措置がすでに決められています。これに似たもので、年金額の調整はあるものの、一定年齢の幅でいつからもらってもいいようにして、負担と給付の関係で保険数理上、損得がない年齢を『フル年金支給開始年齢』と呼ぶようにしてはどうでしょうか」(小黒教授)
お金の話ではないが、国際医療福祉大の高橋泰教授は、「今後は介護そのものが必要なくなっていく」と、驚くべき予想を口にする。
「今の日本の介護は『オムツ交換』や『食事介助』が中心ですが、欧米では無理やり行う食事介助は虐待と考える人が多く、自分で食べられなくなったら寿命と考え、あきらめるというスタイルが一般的です。日本でも80歳より下の人に、『オムツや食事介助をされても、生き続けたいですか』と聞くと、7〜8割の人が『まっぴらごめんだ』と答えます。こういう高齢者が急増して、介護のありようが大きく変わると見ています」
ところで、15年9月の財政制度等審議会に、財務省が興味深い資料を提出している。「我が国財政の変遷」をたどる中で、先にも触れた、現在と同じGDP比約200%あった終戦直前の債務残高が、主にハイパーインフレーションによって「克服」されたと分析しているのだ。
それによると、卸売物価上昇率が1946年度432.9%、47年度195.9%、48年度165.6%と暴騰し続けると、債務残高対GDP比は46年度56%、47年度28%、48年度20%と急減した。預金封鎖などもあったため、国民の窮状は大変なものだったが、国家財政の観点ではわずか3年で問題がないレベルに下がったのである。
ハイパーインフレーションが起きると財政危機が一気に解決することを資料は教えてくれるが、問題は資料を出した財務省の意図である。単なる分析なのか、「こうなっては、いけない」とする警告なのか、それとも……。(本誌・首藤由之)