2018年・堅調の世界経済で見逃せない「米国リスク」の話 金利政策ひとつでそれは…
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2018.01.04 真壁 昭夫 信州大学経済学部教授 現代ビジネス
2017年年末の時点で今後の世界経済の展開を予想すると、米国では緩やかな景気の回復が続く可能性が高い。リーマンショック後の世界経済の中でも、米国経済はまれにみる好調さを維持している。中国経済もおおむね安定している。それに支えられ、世界経済全体が緩やかな回復基調を維持する可能性がある。
反対に言えば、米国経済の減速懸念が高まる場合には、世界経済の先行き不安は高まる可能性がある。様々なリスク要因がある中で焦点を絞ると、連邦準備理事会(FRB)の金融政策がどう運営されるかは世界経済に無視できない影響を与えるだろう。もし、景気の過熱感を警戒してFRBが金融引き締めを急ぐ場合、米国の減速懸念は高まりやすい。
中国経済も安定基調
2018年の世界経済の展開を予想した時、政治面では、トランプ政権の政策によって米国が国際社会から孤立していくだろう。欧州では独伊などの政治動向が不透明だ。地政学リスクでは、中東情勢、北朝鮮問題などが不安材料だ。それらがどのように経済に影響するかは読みづらい。英国のEU離脱、米国大統領選挙のように、結果を見なければわからないことは多い。
それに比べ、経済の先行きは予想が行いやすい。なぜなら、各国の経済政策、消費動向などが一朝一夕に大きく変わる可能性が低いからだ。ある程度、これまでの展開やトレンドをもとにして、その延長線上で景気の動向などを予想することができる。現在、米国を中心に世界経済は緩やかな回復基調を維持している。よほどのことがない限り、このトレンドは続きそうだ。
米国の潜在成長率は2%台半ばといわれる。2017年7〜9月期の実質GDP成長率は前期比年率換算ベースで3.2%だ。GDP成長率がプラスであり、かつ、潜在成長率を上回っていることから、米国の経済は好調と評価できる。大型ハリケーンの到来は復興需要を高めた。今後の気象状況等にもよるが、米国は緩やかな回復を維持する可能性がある。
中国経済も安定し、FRBが金融政策の正常化を慎重に進める考えを示していることもあり、新興国地域全体で金融市場と経済は安定している。一部のアジア新興国で利上げが模索されるなど、ファンダメンタルズ=経済の基礎的条件は改善している。それがユーロ圏、わが国などの景気を支えている。2018年の半ばころまでは世界経済全体で回復が続きそうだ。
見逃せないリスク
世界経済全体の回復は、主要国の中央銀行が緩和的な金融政策を続けてきたことにも支えられている。世界経済の中でも景気回復が顕著な米国では、リーマンショック以前の回復局面に比べて政策金利の水準が低い。これを、市場参加者はFRBが金融引き締めを慎重に進めようとしていると解釈している。低金利環境は株式市場への資金流入(株価上昇)を支えた。それは、家計の消費回復にも重要だ。
2017年12月の連邦公開市場委員会にて、FRB関係者は2018年も3回の利上げを想定した。労働市場が完全雇用に到達した中、FRBは賃金の増加が物価上昇につながる局面を忍耐強く待とうとしている。ただし、この金融政策のスタンスは変化する可能性がある。なぜなら、2018年、金融引き締めに積極的な地区連銀総裁がFOMCで投票権を持つからだ。
FRB全体の意見がタカ派に傾いた場合、米国の短期から中期の金利は上昇するだろう。それは米国家計の利払いコストを増加させ、可処分所得を減少させる。新車販売台数の推移を見ると、ハリケーン後の復興需要は一巡した。
販売台数は高水準で推移しているが、その伸び率は鈍化している。iPhoneXの販売が想定よりも少ないとの見通しが出るなど、一段の需要拡大は見込みづらい。
実際に米国の金利が上昇すれば、米国の消費には下押し圧力がかかりやすい。利益確定のために米国を中心に株式を売却する投資家も増えるはずだ。それが、世界経済を支えてきた米国経済の下振れ懸念と、世界的なリスクオフにつながる恐れがある。新興国市場からは資金が引き揚げられるだろう。円キャリートレードの巻き戻しも進み、ドル安・円高が進む展開も考えられる。