大手企業の「リストラ転職」で割を食う人・食わない人
http://diamond.jp/articles/-/153876
2017.12.25 丸山貴宏:株式会社クライス・アンド・カンパニー代表取締役 ダイヤモンド・オンライン
当初は歓迎されたのに
市場の飽和で「もういいよ……」
先日、みずほフィナンシャルグループが構造改革案を公表し、AIなどで効率化を推進して業務量を減らし、2026年度までに従業員数を約1万9000人削減する方針を打ち出しました。また、三菱UFJフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループも業務量削減の方針を明らかにしています。
都市銀行の低迷で、エリートイメージのあった銀行員がこれからたくさん転職市場に出てくることが予想されます。実際、すでに転職市場には某大手都市銀行出身者が出始めています。
似たような状況は東日本大震災後にもありました。人員削減に追い込まれた某大手電力会社(以下A社とします)の社員が大量に転職市場に出てきたのです。
A社出身者に対し、当初は企業からの人気は非常に高いものがありました。原発事故を起こす前は就職難易度の高い優良企業で、優秀で学歴も高い人が多かったからです。ところがある程度時間が経過すると「A社出身者はもういいよ」という雰囲気が市場に漂うようになりました。需要が満たされて飽和したのです。
A社を辞めるのが遅かった人が人材として魅力がなかったわけではありません。むしろ、最初の頃に退職した人たちよりもはるかに責任感が強く、自分がやるべき仕事を終えてからでなければ転職などできない、という人たちもいました。しかし、転職市場の状況との関係で割を食ってしまった面があるわけです。
チャンスを嗅ぎつけるのは
「機を見るに敏」な目ざとい人
冒頭の大手都市銀行の人たちも、しばらくして転職市場にたくさん出てくるようになると、A社社員と同じ道を辿ることになりかねません。
ですから、ハッピーな転職をするには「機を見るに敏」という目ざとさも必要と言えます。今のところ大手都市銀行の場合、会社が人員削減するといっても希望退職を募ったり整理解雇されたりするわけではないので、最初から転職を目的にする必要はありませんし、そうすべきでもありません。
ただし、いざ思い立って転職市場に出てみたら自分を高く売れるタイミングではなかった、という事態を避けるには「機を見るに敏」、少なくとも「遅きに失しない」目ざとさは持っておいたほうがいいと思います。
また、銀行がリストラを始めるからといっても、そこで勤務している人の先行きが真っ暗というわけでもありません。従来の銀行業務が低迷する一方で、IT企業でお金を扱うビジネスが拡大しています。
いわゆるフィンテックの領域で、ここでは金融が分かる人材のニーズが発生し条件も高騰しています。金融のキャリアを持つ人に新たな可能性が開きつつあります。こうしたチャンスをいち早く嗅ぎつけた人だけが、転職市場が飽和する前に抜け出せるのです。
流行の後追いでは遅い
チャンスは社外で生まれている
とはいえ、銀行員なら誰でもすぐにフィンテック企業に採用されるわけではありません。業務でその領域と直接関わっている人以外はあまり関係がなかったりします。ではどうすればそうしたチャンスを発見し、掴むことができるのでしょうか。
たとえば、フィンテックに将来性や勉強の必要性を感じた人が、社外で開催されるセミナーや勉強会に通っているうちに講師や同じ興味を持つ人たちと緩くつながっていき、フィンテック企業から声をかけられたり、「今度辞めようと思っているのですが……」と相談したら「じゃあうちに来ませんか」と誘われたり。そんな流れでチャンスが開けることがあると思います。
つまり転職において「機を見るに敏」であるということは、普段から自分の興味・関心を大切にして、社外に出て情報を集めたり学んだりしながらその分野の人たちとの信頼関係を築いていき、いざ自分が動こうとするときに自ずとチャンスが向こうから舞い込んでくる人です。
逆に、メディアで得た情報だけでその時々の流行テーマを表面的に追いかけて転職活動をする人は、たいていの場合、遅きに失します。まだ「海の物とも山の物ともつかない」感があるうちはよいのですが、世の中の大多数がそのテーマを認知してから動いても、すでに重要な席は埋まっているものです。
この数年内で就職した人は別として、10年前、20年前に都市銀行へ新卒入行した人は、終身雇用的な感覚で入行した人が多いと思います。そういう人は自分の銀行の中だけで完結してしまう人が多いのです。
これは都市銀行に限ったことではありません。日本のビジネスパーソンは自社オンリーの人が多く、会社の仕事や研修を通じていろいろなことを学んでいくという感覚が強いのです。しかし、それではもはやビジネスの進化に追いつきません。
今やたくさんチャンスが生まれているのは社外であり、チャンスは社外からしかやって来ません。それなのに社内で閉じこもっていたらジリ貧に陥るばかりです。自ら社外のセミナーや勉強会などに出ていくことが、よいチャンスを掴む必須条件と言えます。ところが、社内の閉じた世界に住み慣れた人には意外とこれが難しいようです。
一方で、ずっと社内に閉じこもっていた人が社外の世界に出たとき、社外の世界の住人からは「非常に世間知らずで甘ちゃん」だと思われることがよくあります。やはり社内や業界村のローカルルールが身に染みついていると、一般的な世界からはズレているところがたくさんあったりするのです。
その意味でも社内の閉じた世界に留まらず、意識して社外に出て世間の風に身をさらしていく必要があります。それには前述したようにセミナーや勉強会への参加のほか、転職市場にエントリーして、社外における自分の価値を確認してみるのも一つの方法です。
(株式会社クライス・アンド・カンパニー代表取締役 丸山貴宏)