戦後の国際秩序を否定したトランプ政権の安保戦略
http://kenpo9.com/archives/3023
2017-12-20 天木直人のブログ
トランプ政権が18日、はじめてその安保戦略を発表した。
これまで発表されてきた米国の安保戦略は数多くあるが、ここまで明確に軍事力強化を強調し、軍事力に頼る安保戦略を打ち出したものはない。
報道されるその要旨を見れば、第3章「力による平和の堅持」の中に、次のような言葉がある。
「米国は軍縮を進めてきたがそれは誤りだった。国際的な脅威や競争が複雑さを増すなか・・・軍事力拡大に舵を切る」と。
これは、その前に書かれている米国を脅かす脅威(中国、ロシア、イラン、北朝鮮、テロ)に勝ち抜くことを表明している部分とあわせ読むと、米国第一を優先し、その実現のためには軍事力を行使すると宣言したことに他ならない。
これは、第二次大戦の反省に立って作られた国際平和秩序、つまり、国際連合による平和維持体制を、真っ向から否定するものである。
すなわち国連憲章は第6章「紛争の平和的解決」で、いかなる紛争もまず平和的解決に努めることを謳っている(33条)。
まさしくトランプ政権の安保戦略は戦後の国際秩序の否定だ。
同時にそれは、国連憲章を前提として作られた憲法9条の精神の否定でもある。
確かに戦後の国際政治の現実は、国連による平和維持とは程遠いものであり続けた。
しかし、どの国も、いや、トランプ以前の米国でさえ、建前は崩さなかった。
ところが、今度のトランプ政権の安保戦略は、建前そのものを否定したのである。
さすがに今日の各紙の社説は批判的だ。
私が驚いたのは日経と産経の社説の好対照だ。
すなわち日経は、こんな米国だけに頼らず幅広い安保網をつくれと書いた。
日経ですら、日米同盟一辺倒では危ういと言い始めたのだ。
トランプ政権の暴政が、いやがおうでも日米同盟最優先の日本の国是に見直しを迫る事になる。
その一方で産経新聞はこれを評価し、それどころか、有言実行を求めている。
いくら何でもこの社説はないだろう。
トランプ政権とともに一刻も早く退場することが日本のため、いや世界のためである(了)
米だけに頼らず幅広い安保網づくりを
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO24844210Q7A221C1EA1000/
2017/12/20 日経新聞社説
トランプ米大統領が国家安全保障戦略を発表した。本来ならば世界秩序の指針たるべき文書だが、持論の「米国第一」を繰り返すにとどまった。日本の安保政策の基軸が日米同盟にあることに変わりはないが、これでは心もとない。安倍政権は自由主義・市場経済を掲げる国々と幅広く安保ネットワークを構築する必要がある。
同戦略は歴代の米政権が数年ごとに策定してきた。テロとの戦いを重視したブッシュ政権が打ち出した「先制攻撃論」はイラク戦争へとつながった。
オバマ政権は中国やインドなど新興国との協調を模索し、G20首脳会議を「最高レベルの協議の場」と位置付けたが、思い通りにならなかった。
今回の戦略の特徴は、軍事力を強化し、「力による平和」を目指す考えを示したことだ。オバマ政権の国際協調主義を全否定し、冷戦期に戻ったかのようだ。選挙公約の「偉大なる米国の復活」に沿った形だが、問題は実現性だ。
いまの米国にひとりで世界の警察官を務める国力はもはやない。だからトランプ氏は「米国第一」の名の下に経済力を回復し、国際紛争とは一線を画する姿勢を見せてきたはずだ。
仲間に引き込むつもりだったロシアとの関係改善は、ロシアゲート疑惑で滞っている。中国との貿易交渉は進展を見せない。さまざまな事情があるとはいえ、これでは駆け引きとしてもお粗末だ。
中ロも「競争勢力」と名指しされたぐらいで動揺しまい。むしろ、米主導の世界秩序の落日を印象付ける結果となった。
日本はどう対処すればよいだろうか。中ロとの抜本的な関係改善は容易ではない。だとすれば、日本と同じように米国と同盟関係にあるが、トランプ政権の振る舞いには困惑している国と手を組み、国際秩序のルールづくりを主導する役回りを担うことだ。
その意味で先週、ロンドンで行われた日英の外務・防衛担当閣僚協議は有意義だった。「グローバルなパートナーシップ」の拡大をうたい、準同盟国として協力していくことで合意した。
トランプ氏がアジア歴訪時に表明した日米とオーストラリアやインドとの関係強化も重要だ。ひとつひとつの連携はさほど強くなくても、あらゆる機会を捉えて縦糸横糸を通し、しっかりした安保網をつくりたい。