銀行のリストラがアベノミクス経済改革の切り札になる理由
http://diamond.jp/articles/-/151578
2017.12.6 宿輪純一:博士(経済学) ダイヤモンド・オンライン
11月10日に金融庁から「金融行政方針」が提示された。これはいわゆる森金融庁長官の行政方針「森ドクトリン」の集大成ともいえるものだ。そして、これをじっくり読んで、最近の銀行経営の動きを分析すると、まさに総選挙で大勝した安倍首相の経済政策・アベノミクスにおける、本格的な日本経済改革のスタートであるとわかる。
金融行政方針において、特に銀行に対する大きな行政方針は以下の2点である。
(1)統合の推進や事務の改革等による銀行のリストラ
(2)銀行員の企業への参加による企業支援・育成(新産業育成)
とくに(2)は、銀行の人材を他の企業に供給し、彼らを中心に企業を成長させ、また起業や産業育成を推進させようとするものだ。この動きは、日本経済・社会のさまざまな問題への対策となる。その問題とは以下のようなものだ。
・社会的成長産業(企業)が不足
・特に起業が不足
・地方経済が沈滞
・当局主導の育成は今一歩
・大企業・衰退産業が人材を抱え込み
・企業の人手不足
さらに、今回の金融行政方針の進め方がすごい。「見える化」とされているが、金融機関の行動がポイント化されて、成績が付けられ、一覧表方式で発表される。特にターゲットは106の地方銀行(第2地銀を含む)だ。しかも、すべての銀行が生き残るとは限らない、としている。
また、先日、検査局を廃止して監督局と統合し、銀行経営の指導を強化した。いままで経営改善命令は、自己資本比率が4%を切ったところで、ある意味機械的に発動されてきたが、今後は予防的に発動し指導できる。免許の許認可権を握っているだけに、その力は大きい。
さて、2つの行政方針による具体的な施策をそれぞれ簡単に分析しよう。
(1)統合の推進や事務の改革等による銀行のリストラ
現在、毎日のように銀行の統合・合併のニュースが、新聞紙面を賑わせている。統合・合併は、不況産業では当たり前の経営方針だ。
さらに、メガバンクも万人レベルの事務量(人員)削減が報道されている。メガバンクで働いていた経験からいって、現在以上の事務の削減は、店舗閉鎖の本格的な推進や、事務を根本的な発想から改革することが必要不可欠となる。事務の改革は筆者が銀行勤務を始めた30年前から銀行が取り組んできたテーマだ。現在の考え方(哲学)ではもう限界に近い。そもそもの考え方を変えないと無理なのだ。
たとえば、筆者が考えている事務量の削減法は、現在の印鑑による取引ではなくて、AIによって預金者の状況を判断し、極端にいうと生体認証によって取引を成立させるものだ。生体認証は様々あるが2つを組み合わせればよいレベルと考える。本人確認データを積み上げ、その人によって、項目を絞ってチェックをするのである。これは入管(パスポート・コントロール)の考え方に近い。
そして、米国などの銀行のように、なにか事務上の問題が起こったならばそれは保険でカバーする。割り切って、このパターンで減らすのが基本と考えている。またこのようなAIの使い方こそ、すぐに実現可能なフィンテックと考えている。
(2)銀行員の企業への参加による企業支援・育成(新産業育成)
その事務の軽減で浮いたマンパワーで、人材(銀行員)を企業に参加させ、経営改革の他、企画・営業を担当させる。はっきり言えば、貸金を自分で作るのである。さらには起業の支援として、その時点から貸し出し、あるいは出資をさせるとしている。これが、日本銀行金融機構局金融高度化センターが中心となって推進している「金融高度化」である。
銀行は通常、何年分かの決算書をもとに、貸し出しの審査をする。しかも、中小企業の場合、一般的に社長などの資産(不動産など)を担保とすることが多かった。起業時にせよ起業後にせよ出資も可能としているが、銀行にとっては出資の方がむしろ非常に難しい。
このようにして銀行からの出向者に企業の育成、産業の支援をさせて、日本、特に地方の経済を活性化させようとする。地方経済の成長率までも評価のポイントに入る。
また、銀行はそれらの企業を上場させるとポイントが高い。そのため、すでに証券取引所の上場審査部と連携して、上場準備を進めている地銀もある。 支店長経験者も、そのさまざまな経験がさらに活かせるともいえる。
このように銀行を中心として、日本経済の成長が図られる。メガバンクをはじめ何万人もの事務量削減は、この大規模な出向のためなのではないか。銀行業界は人材を抱え込んでいるともいわれていたが、その人材が企業において活躍し、成長させることになるわけだ。しかも、それが政府の指導ではなく、民間の企業それぞれで行われるのだ。
見た目には分かりにくいが、この金融行政方針こそ、様々な日本経済・社会の問題点を解決に向かわせるアベノミクスの切り札ではないかと考える。この銀行を中心とした日本経済改革のスキームとその成功を、銀行出身者としても心から応援したい。
(博士[経済学] 宿輪純一)