電気自動車の成否 自動車業界は成功体験を捨てられるのか 金子勝の「天下の逆襲」
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2017年11月21日 金子勝 慶応義塾大学経済学部教授 日刊ゲンダイ 文字お越し
よく言われることだが、過去の成功体験や仕組みに固執すればするほど、大きな失敗を招く。
東芝が典型例だ。3.11福島原発事故が起きた時、もはや“原発ビジネス”に将来性がないことに誰もが気づいたはずである。ところが、原発は1基建設するだけで巨額の儲けになるという成功体験に縛られ、東芝は原発ビジネスから撤退できなかった。
その結果、損失を拡大させ、将来有望なセンサーや医療機器、さらに虎の子の半導体にいたるまで売却に追い込まれた。おそらく、失敗を認めず「成功者」として終わりたい老害経営陣たちが、将来性ある有望分野への転換を妨げたのだろう。
電機メーカーも同じだ。スーパーコンピューターがスカラー型に転換していったのに、動きに乗り遅れ、競争力を失っていった。
次は自動車産業の番かもしれない。日本の自動車メーカーの強みは、2万点を超える部品について、見事にサプライチェーンを組織し、カンバン方式、ジャスト・イン・タイムなどで在庫の部品を抱えることなく、また、すり合わせの技術の高さで高品質な製品を完成させられることだ。ハイブリッド車も見事に成功させた。そして、この強みを生かせる燃料電池車にこだわってきた。
だが、世界の潮流は、電気自動車に向かっている。果たして、日本の自動車産業は、ガソリン車やハイブリッド車から一気に電気自動車に舵を切れるのかどうか。
新しいイノベーションの特徴は、スタンダードが変わった瞬間に市場が一変してしまう点にある。あっという間に固定電話から携帯電話に変わったのが典型例だ。
日本の問題が根深いのは、産業戦略を立てるべき経産省が過去の成功体験にしがみついていることだ。今も高度成長期の成功体験にのっとって組織がつくられ運営されている。業界団体ごとに結びつき、経産省が利害調整し、経産官僚が天下るという仕組みだ。ところが、この仕組みは、経産官僚が既得権益を守り、イノベーションを阻むことになっている。
経産官僚はスーパーコンピューターの転換に失敗し、原発の転換に失敗し、いまだに水素ガスステーションにこだわり、電気自動車への転換も失敗しそうな状況だ。