10月13日に記者会見した神鋼の川崎博也会長兼社長(右)。川崎氏が社内の調査委員長に就く予定だったが、それに代えて外部の調査委員会を設置することになった (c)朝日新聞社
日常品が続々対象に…懸念長引く神戸製鋼の改竄問題〈AERA〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171023-00000088-sasahi-bus_all
AERA 2017年10月30日号
取引先は国内外500社。神戸製鋼から納入された製品が契約を守っていないとわかった。自動車、鉄道、航空機……。影響は多方面に及ぶ。まだ安心できないようだ。
そのメーカーには9月下旬、一報が入った。
「弊社の製品に問題があります」
そう告げたのは神戸製鋼所だ。
「御社との契約に適合しない製品を納めたと判明しました」
社内は大騒動になった。神鋼の製品を疑った経験がなかったからだ。定期的に一部を抜き取って、目視で表面に傷がないか、超音波装置で内部に問題がないかを確認するだけだった。
契約に適合しないのは、どの製品か。納入開始はいつか。順次届く回答で特定できた製品から調査に取りかかった。
10月8日になって、
「記者会見をやっているぞ」
ある事業部は知らなかった。別の事業部に連絡すると、
「神鋼さんから事前に聞いたよ」
どちらの事業部も神鋼の同じ工場から仕入れていたが、神鋼は片方に伝えなかったようだ。
「まさに混乱だ。大丈夫かな」
神鋼は、この記者会見で昨年9月〜今年8月に出荷したアルミニウムや銅製品の一部で、納入先との契約に適合したように強度や寸法などのデータを改竄していたと発表。管理職を含む数十人が関与するなど組織ぐるみだった。加えて11日には鉄粉や合金(ターゲット材)、13日には銅管をはじめ9件、20日には1件の改竄を発表した。すでに納入先との間で問題を解決した4件も含まれる。改竄が10年以上にわたる製品もあった。
問題解決の4件を合わせて、出荷先は国内外500社に達する。自動車、自動車部品、航空機、重機、鉄道、造船、電機……と、業種も幅広い。安全性に疑いが生じれば、重大事故を避けるのに一刻も早く改修を迫られる製品も含まれる。信用調査会社・東京商工リサーチによると、改竄に関与した神鋼グループの国内7社の販売相手は産業機械や鉄鋼の商社、自動車部品など583社。それらの会社が加工などして販売する先は2689社にのぼる。
納入先の各社は検証を急ぎ、徐々に結果が出てきた。たとえばトヨタ自動車ではアルミ板をボンネットやバックドアに使う車で、安全性や耐久性の関連法規や独自基準を満たすとわかった。日立製作所でも新幹線のボディーや台車、通勤電車のボディーにアルミ製品を使う。神鋼から受け取った正しいデータをもとに強度に問題はないと確認。鉄道会社に詳細を説明している。
もちろん、これで一件落着ではない。まだ検証が続く製品は多そうだ。トヨタでは銅管、鋼線などを確認している。
そもそも該当製品を探すにも、
「商社から買ったものもある。製造元をたどるのは一苦労です」(造船会社の中堅幹部)
別のメーカー関係者は、まだ検証に十分なデータが神鋼から届いていないという。
「待つしかありません」
さらに懸念が長引きそうなのが「危険度が段違い」とメーカー幹部が漏らす航空関連だ。飛行中に事故が起きれば、ただちに人命を左右しかねない。
いまのところ、このメーカーが関係する航空機が問題視されたことはない。運航は続き、神鋼のデータを見ても、「それほど重要な箇所ではなさそうだ」。
それでも幹部を悩ませるのが耐久性だ。実際に使い続けてみなければ、本当の「答え」はわからない。もし製品寿命が設計よりも短ければ、部品交換や点検の頻度を上げるなど整備マニュアルを改訂する必要もある。
「どんなに軽くても事故が起きれば、製造から販売までかかわった会社すべてが、少なくとも道義的な責任を負う」(同)
神鋼は改竄発覚以降、契約に適合した製品を出荷していると表明していた。しかし10月20日、アルミ製品の一部で管理職を含めた従業員が自主点検で不適合品を報告せず、発覚を免れたと発表。どうすれば、神鋼は納入先、ひいては消費者の安心と安全を取り戻すのに全力を尽くすのだろうか。(編集委員・江畠俊彦)