トランプは「普通」になったのか
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10806
2017年10月20日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
9月19日付のワシントンポスト紙で、同誌コラムニストのイグネイシャスが、トランプ大統領の国連演説は非常にまともなもので安心した、トランプの「ブランド替え」のようにも思えたと述べています。主要点は次の通りです。
過剰なレトリックを除けば、トランプ国連演説の最も驚くべきことは、非常にまともなものだったということだ。人権と民主主義を支持し、ならず者国家を非難し、強い、主権的な国家から成る国際社会を支持した。
トランプ一流の発言もあった。北朝鮮を厳しく非難し、金正恩を「ロケット・マン」と呼び、彼は自殺行為をしようとしていると述べた。そして北朝鮮が米国や同盟国を攻撃すれば「我々には北朝鮮を壊滅する以外にない」と激しく警告した。それは、今までの米国の核抑止政策を再確認したものだった。トランプは中国とロシアの外交支援に感謝し、もっと協力するよう求めた。イラン核合意は「当惑」だと述べたが、廃棄するとは言わなかった。強硬派の考えを代弁したものだが新たにコミットするようなことは避けた。
就任演説ではトランプはぶち壊し屋のようだった。今や違う言葉で語っている。ケネディのようなフレーズもあった。演説はミラーが書いたと言われるが、これはミラー2.0のように見える。演説はトランプ新版のように思えた。
演説はナショナリズムと自己利益を強調した。彼は国際的な共同行動を「グローバリズム」よりも主権と相互主義に基づくものだとした。
トランプは介入主義者の側面も見せた。北朝鮮とイランを非難しただけでなくキューバやベネズエラのような非民主的なならず者国家も非難した。人権の話までした。リベラルな世界秩序の礎石であるマーシャル・プランへの言及さえ行った。
トランプの演説を聞いて、自分(イグネイシャス)はトランプが合理主義の枠内で動いていることを知りやや安心した。先週の民主党リーダーであるシューマーやペロシとの超党派のやり取りのようなトーンが見られた。
これまでの9か月はトランプにとり負けることばかりだった。彼は勝ちたいと思っている。それには極右層だけを相手にしていてはできないことを悟ったものと思われる。特に国連の重要性に何回となく言及した演説は、トランプの「ブランド替え」を見るように思えた。
トランプ演説で心配なことを強いて言えば、演説が余りに通常のものだったことだ。トランプが北朝鮮対処に成功するためには今までとは違った枠で考えることが必要だ。イランとより良い関係を望むのであれば、イランやその国民とかかわっていくことが必要だ。国連を問題解決の場にするためには米国も国連改革に関与していく必要がある。「偉大な壊し屋」は国際社会を復活したいと言う。そうであれば大統領に是非それをやって見せて貰いたい。
出典:David Ignatius ‘The most surprising thing about Trump’s U.N. speech’ (Washington Post, September 19, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/trumps-strikingly-conventional-un-speech/2017/09/19/876cb41a-9d75-11e7-9c8d-cf053ff30921_story.html?utm_term=.02203f859003
イグネイシャスは、トランプの国連演説の最大の驚きはそれが非常に通常のものだったことだ、新生トランプを打ち出そうとしたものだと論評しています。その限度において恐らく前向きに評価しているように思われますが、確信はしていないようです。トランプにやってみせて欲しいと言います。
これまでトランプはグローバルな協力や多国間の協力、国連などに対し極めて否定的な態度を取って来ました。40分に亘る9月19日の国連演説は、随所にトランプ節(主権の強調等)はありますが、イグネイシャスの言うように「通常のもの」になっています。世界での米国の役割や国際社会の介入などを否定してもいません。習近平やプーチンの演説かと思われるような段落もあります。数か月前には国連総会を欠席しても驚かないようにさえ思えましたが、国連の重要性の強調等は様変わりです。演説の中の世界観もこれまで思われたほど極端ではありません。世界の現実から来る必要性がそうさせているのでしょうか(北朝鮮問題などでは安保理抜きには考えられません)、学習の結果なのでしょうか、側近の影響なのでしょうか。
北朝鮮の部分は、驚くほど強硬です。言葉は信頼できるように使うことが重要ですが、北朝鮮はそのメッセージを間違わないできちっと理解すべきです。なお日本人の拉致にも言及しています。また安保理等での中国、ロシアの協力に言及し、感謝すると述べています。トランプ流です。
その他気づきの点を挙げれば次の通りです。
(1)戦後70年の世界秩序を議論しそれを総体的に肯定しています。今までのトランプの言動からすると大きな違いです。
(2)世界の主権国家が相互尊重を基礎に協力することが重要だと述べています。中国のような言いぶりです。調和と友好が大事だとも述べ、「米国は共通の目的、利益、価値に基づく原則を持ったリアリズムの政策を取っている」と述べています。
(3)主権に対する脅威の問題として、ウクライナや南シナ海に言及しています。
(4)アフガニスタン政策にも言及し、今後は政治家による恣意的な日程などは設けないとしています。オバマ批判です。
(5)イラン核合意に係る不満やイランへの不信は変わっていません。トランプの危ういところです。19日に演説したマクロン仏大統領は、イラン核合意は「平和にとり不可欠だ」とトランプに異論を唱えています。なお今年の総会にメルケル、習近平、プーチンなど主要首脳が欠けていることが気になります。
(6)シリア難民との関連で、ヨルダン、トルコ、レバノンに言及し、その役割を感謝するとしています。
(7)米国の国連分担金は22%以上で不公正な負担をしていると述べています。
(8)貿易については大型の貿易取決めや紛争処理などが最善の方法だと言われてきたが、米国では多くの雇用が失われてきたと述べています。