「異次元の金融緩和」も…なぜ物価は上がらないのか?
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2017年10月2日 日刊ゲンダイ 文字お越し
うなくいかない(黒田日銀総裁)/(C)日刊ゲンダイ
安倍首相は冒頭解散を表明した会見で「アベノミクスの3本の矢を放つことで、日本経済の停滞を打破した」と言った。はたして、これは本当か。今週は、安倍政権の経済政策を検証する。
アベノミクスの3本の矢で、第1の矢とされるのが大胆な金融緩和だ。それを担ったのが、日本銀行の黒田総裁である。2013年4月に就任した黒田総裁は、「異次元の金融緩和」の採用で、2年程度のうちに物価上昇率2%を実現すると胸を張った。
はたして、その約束はどうなったか。本来であれば2年前にインフレになっているはずが、8月の消費者物価指数はいまだに前年同月比0・7%増と低空飛行を続けている。目標達成の時期は6回も先送りされ、今では「2019年ごろ」と来年4月の黒田総裁の任期も越えてしまった。
いったいなぜ、物価は上がらないのか。経済評論家の斎藤満氏は「日銀はマネーの種をまくことはできますが、市中のマネーを直接増やせるわけではないので、そもそもインフレを起こすのは難しい」と解説する。
“マネーの種”とは、日本銀行が金融機関に供給するお金のことだ。黒田総裁の就任以降、日銀は金融機関から国債を買いまくっている。当然、日銀は金融機関にお金を払わなければならない。これが“マネーの種”となるもので、金融機関が日銀に持っている当座預金に振り込まれる。その残高は、ざっと370兆円。2013年3月末の58兆円から6倍以上に膨らんだ。種は十分にまかれた状態である。
「問題はその先で、いくら当座預金の残高が増えても、それが民間企業などへの貸し出しに回らなければ、市中のマネーは増えません。ただし、そこは日銀が直接関与できないところ。日銀は“種”を増やす仕掛けまではつくれますが、金融機関の貸出量を増やして“実”まで付けられるわけではないのです」
貸し出しが増えるかどうかは、主に企業の資金需要にかかっている。多くの企業が借金をしてまで投資をする意欲があれば、自然と貸出量は増えるもの。だが、今年7月の「主要銀行貸出動向アンケート調査」によると、企業の資金需要の強さを示す「資金需要判断指数」は、前回4月調査から1ポイント悪化してプラス3だった。前々回の1月調査からは4ポイントも悪くなっている。
「資金需要が拡大するには、やはりベースとなる景気の回復が必要です。政府は先日、いざなぎ景気を上回ったと発表しましたが、経団連の調査によると大企業の夏のボーナスはマイナスです。景気が回復しているというのは極めて怪しいし、だから企業は値上げにも踏み切れない。280円均一の低価格を売りにする居酒屋チェーン『鳥貴族』が一律298円に値上げしてニュースになるのは、それだけ珍しいケースだからです。実際、最近になってもイオンや西友は値下げを発表。インフレどころか、デフレの流れは全然変わっていません」
消費者のマインドもデフレに拍車をかけている。内閣府の消費動向調査(8月)によると、1年後の物価に関する見通しで、最も多かったのが「上昇する」(35・6%)の回答だった。物価が上がりそうだと思えば、普通なら「今のうちに買っておこう」となるのだが、8月の家計調査では消費支出は前年比0・6%しか増えていない。
「先行きの物価上昇を懸念して『節約しよう』という意識が働いているのでしょう。異次元の緩和に物価を引き上げる効果はありません。いくら必死に走っても、進む方向が間違っていたら、目指すゴールには着かないのです」
アベノミクスの第1の矢は完全に折れているのだ。