指をパチンと鳴らすように一瞬で 情報共有できる世界はすぐそこに ―― アーロン・レヴィ Box 共同創業者兼CEOに聞く
http://diamond.jp/articles/-/134107
2017年7月14日 ダイヤモンドIT&ビジネス ダイヤモンド・オンライン
日本法人の人員を
1年以内に倍増する
Boxのアーロン・レヴィCEO(写真提供:Box Japan)
――Boxにとって日本市場はどんな位置づけですか。
アーロン・レヴィCEO(以下・レヴィ) Boxはグローバルで業績が大きく拡大していますが、その成長には日本市場が大きく寄与しています。日本の成長率は目覚ましいものがあります。新たに、コマツ、任天堂、JFEスチールなどの大企業がBoxのクラウドを使ってコンテンツマネジメントを始めています。これらの企業では、コンテンツの管理をクラウドに移すことで、仕事の在り方を変えようとしています。日本では、従来の伝統的なドキュメント管理システム、シェアリングの仕方をBoxに変えようという大きなうねりを感じています。
個別地域の業績数字は公開していませんが、日本は他の市場よりも抜きんでて急速に拡大しているということは間違いありません。
――どうして日本市場が急速に伸びているのでしょうか。
レヴィ 生産性を向上させなければいけないという社会的な要請の中で、ワークプレイスをもう再構築する必要性が生じているということでしょう。その基盤として、Boxなどのクラウドを使っていただくことが有効であるということに、日本企業の経営者は気づき始めたのだと思います。
市場の拡大に対応するため、ここ数年日本チームの人員を増やしてきており、現在50名です。そして今後12ヵ月のうちに、さらに2倍にする計画です。日本でクラウドのリーディング企業の1社になることを目指しています。
――新しいユーザー企業の事例についてお聞かせください。
レヴィ 日本では第一三共、JFE、楽天などでは、プロジェクトごとの社内外のメンバーと情報を共有する基盤として使っていただいています。また、グローバルに見ますと、メディア企業でも利用が広がっています。例えばディズニー、CBS、ドリームワークスなどでデジタルコンテンツの共有に使われています。
――デジタルデータの管理では世代(バージョン)の管理が重要になると思いますが、Boxではどのような技術で事故を起こさない管理を実現しているのでしょうか。
レヴィ 世代の管理は非常に重要です。Boxは製薬業や医療機関でも広く使われていますが、こうした業界では世代の管理を間違えば重大な事故を起こしてしまいます。コンテンツのガバナンスとセキュリティは、最優先に確保すべき機能です。
技術者が挑戦できる環境づくりが
優れたサービスの原動力
――2年前のインタビューでも、なぜBoxは管理機能とセキュリティの評価が高いのかとお聞きしました。その時の答えは、「どこよりも技術者に投資をしている」ということでした。その方針は、今も変わっていないのでしょうか。
レヴィ ソフトウェア企業として高い技術を維持するためには、当然、優秀な技術者に働いてもらわなければいけません。ですが、単に報酬が高いだけでは有能な人材は企業に定着してくれません。私は企業の「文化」が非常に大事だと思っています。
――どんな文化であれば、優れた技術者が集まるのでしょうか。
レヴィ それは「最も難しい問題に取り組んでいる企業である」ということでしょう。ここにいれば常に最先端の挑戦ができる、自分に刺激を与えてくれる企業であるということが、優秀な技術者にとっては何より優先されるのではないでしょうか。そのうえ、1人ではなく、難問にチームで取り組み、解決していく環境であることです。
Boxで働く人々は出身やバックグラウンドはさまざまですが、挑戦という意味で共通の価値観を持ち、ともに学び、働くことができます。それが企業の文化です。その環境を整えることが私の仕事です。
コラボレーションは
一瞬で可能になる
――Boxは今後、どう進化するのでしょうか。
レヴィ 我々のミッションは、世界の人々が仕事を協業する基盤を作って支援することです。そのために、「協業」「人工知能」「セキュリティ」の3つのテーマでさらなる革新を起こしていきます。
まず協業ですが、今後は現在語られているコラボレーションとは全くレベルの異なるスピードとパワフルさで、あらゆる情報が共有されてくることでしょう。5年後には、メールにファイルを添付するなどということは仕事の現場では全く行われなくなるかもしれません。
例えば、今この部屋にいる5人のメンバーでリアルタイムに仕事をしたいという時に、今ですとどうしてもいろいろな設定が必要になりますよね。それが将来は、パチンと指を鳴らした途端に、あらゆるデバイス間で情報を共有して作業に取り掛かれる、そんなイメージです。
――セキュリティの強化については、日本企業の独自の要望もあると思いますが。
レヴィ クラウドのファイル共有サービスの中でBoxが支持されている理由に、セキュリティとコンプライアンス対応力の高さがあります。各国や地域への法令対応は定評あるところですが、今後もしっかり行っていきます。また、新しいサービスである「Boxゾーン」(Box Zones)は、データの物理的な保管場所である「データレジデンシー」を保証することで、金融や医薬などの業界事情にも対応するものです。すでに日本の顧客企業でも、金融、公益、航空などの業種で高い評価をいただいています。
――Boxゾーンは、来年EUが施行する「GDPR」(EU個人データ保護規則)にも適合することになりますか。
レヴィ Boxでは、ファイル保管や共有の領域で、2018年5月のGDPR施行までに、完全に対応できるように取り組んでいます。また、これから施行までの期間に詳細部分の規定が発表される見込みで、それらにも対応していきます。ただ、GDPRの要件は幅広く、Boxゾーンのサービス単体を使うだけで、その企業がGDPRに対応完了というものではありません。
一方、セキュリティでは「予測」の技術を取り入れていきます。たとえば、利用者が通常どのようにふるまうかを観測し、それから外れる行動をしているときに何らかの理由でセキュリティ侵害が発生していると予測し、警告するような機能です。
Boxが考えるAI活用とは
――AIについては、さまざまなソフトウェア企業が実用段階の技術を発表しています。Boxが考えるAI活用の姿とはどういうものになりますか。
レヴィ Boxが企業から預かっている膨大なデータファイルには、さまざまなナレッジが組み込まれています。個々のファイルの種類や内容を、人が分類するのはもはや量的に不可能です。しかし我々がAIの技術を使い、企業に代わって分析して体系化することができると考えています。そうすることで、例えば過去のファイルをキーワードから簡単に呼び出せるなど、データから新しい気付きを得ることができるようになると思います。
――そのような技術は、分析のもとになるデータの量が多いほど精度が高まります。例えば、Boxが預かる膨大な企業データの全体を匿名化して傾向を読み取ることで、その分析結果を個別企業に提供するようなサービスができれば、大きなビジネスになるのではないでしょうか。既存のAIサービスは、過去に記録されたデータを大量に読み込むことで先行していますが、Boxには日々蓄積される新しいデータがあります。生々しいライブなデータをもとにしたAIというのは競争力があると思いますが…。
レヴィ Boxはあくまで個別企業ごとのデータを保管することで契約していただくサービスです。ですから、いかなる場合でも、仮に匿名化できたとしても、複数の企業にまたがったデータを処理するようなことはしません。あくまで個別企業ごとに蓄積したデータだけが、分析の対象です。
それと、我々はAIの活用については、各ソフトウェア企業が提供している技術と競合するのではなく、協業する立場です。すでにマイクロソフトのクラウド「Azure」のAIとその学習機能が、Boxのプラットフォーム上で統合できるという提携を発表しました。各社のAIのサービスを利用するための基盤としてBoxを使ってもらいたいということです。Box自身のAI戦略については、適切なタイミングで発表させてもらいます。
――最後に、日本でまだBoxのようなクラウドサービスに踏み出せない企業の経営者に対してメッセージを。
レヴィ デジタルデータの共有やコラボレーションは、業種や規模を問わずこれから企業に必要不可欠なパワーです。その力を手に入れるために、ぜひ一歩を踏み出してほしいと思います。
(取材・文/ダイヤモンドIT&ビジネス 指田昌夫)