日銀の債券大量保有と、民間銀行への債券保有規制の矛盾
http://diamond.jp/articles/-/132441
2017.6.21 宿輪純一:経済学博士・エコノミスト ダイヤモンド・オンライン
日本銀行の量的・質的金融緩和政策によって、金融資産の大量購入が続いている。注目を集めやすい株式・国債のみならず社債もその対象となっており、日銀が大量に購入するため中央銀行が市場を支配し、機能不全になるといった異常事態が続いている。ちなみに日銀は“異次元緩和”以前から、社債を公開市場操作(オペレーション)として買い入れていた。
現在、日銀は株式についてはETF(株式上場投資信託)の形で購入している。平均値で大量購入するため、良い会社の株が買われる本来の市場メカニズムを停止させるとして内外からの不満も大きい。一方、社債はリアルな現物として持っている。つまり、中央銀行が個別企業の信用(倒産)リスクを負っている、という事態になっているのだ。その社債残高は、約3兆2000億円もある(数字は平成28年3月末、以下同)。
日銀が保有する「東芝社債」というリスク
そんなリスクのある社債の最たるものが「東芝」である。以前は日本を支える上場企業として、社債買い入れオペ(公開市場操作)の対象となっていた。ECB(欧州中央銀行)と違い、日本銀行は買い入れた社債の銘柄を公表しないので詳細は不明だが、1社当たりの上限は1000億円だ。今回の騒動の前の時点で、東芝は社債を5000億円程度発行していた。
東京証券取引所は東芝を債務超過と見越して、8月にシャープと同様に二部に格下げする。一部上場のままだと株価指数に東芝が入ることも理由の一つだ。債務超過の場合、2018年3月に上場廃止となるスケジュールも想定されている。上昇廃止になると株主責任を問うために原資が実施されて、日本航空のように株価がゼロになるケースもある。経営不振が極まって会社更生法などで法的整理に追い込まれた場合などである。東芝株は現在でも監理銘柄として注意喚起されているが、上場廃止ならば整理銘柄となる。
株式市場と同様に社債市場においても(倒産や債務不履行にならないと考える市場参加者も多く)、社債債券価格は微妙に安定している。上場廃止の場合株価はゼロになるが、社債は一般的にゼロにはならない。そうはいっても、保有している東芝の社債で日銀が損失を被る(資産が毀損する)可能性がある。実際、最近の東芝の社債(3年物)は元本割れして、利回りは約10%である。この地合のなかで、米国投資会社がジャンクボンド(ハイイールド債)として盛んに購入している。
社債よりもさらに大きい国債のリスク
しかし、日本銀行におけるリスクは、前述の社債の信用リスクよりも、大量の国債、約417兆8000億円を保有しているリスクの方が大きい。1%金利が上昇すると、評価損は約4兆2000億円増える。
現在、金融庁は「債券保有規制」をメガバンクや地銀に導入しようとしている。金利が1%上昇させたときのリスク(金額)が、自己資本の20%を超える債券保有は許されない。実際に多くの地銀が米国債やフランス国債を売却している。
日本銀行には、約3兆7000億円の自己資本がある。債券保有規制で使われる金利を1%上昇させるシミュレーションで、日銀はすでに自己資本の20%を超え、なんと桁違いの約114%の日本国債を保有していることになる。確かに日本銀行は中央銀行であり、債券保有規制は金融庁が民間銀行に行う。とはいえ、日銀の債券保有は民間銀行に課している規制とまったく関係がない、でいいのだろうか。日銀も銀行の一種である。金融庁が検査に入ることはないのか。
ちなみに国債残高は毎年80兆円ずつ増えていく。リスクも毎年8000億円(21.8%)ずつ上昇するということだ。
(経済学博士・エコノミスト 宿輪純一)