アメリカ、クリミアと偽善の危険性
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2017年3月 4日 マスコミに載らない海外記事
武力による領土変更に関するワシントンの実績は極端に乏しい
Ted Galen CARPENTER
2017年2月27日
クリミア問題に関して、トランプ政権は前任者の政策を継続している。アメリカ国連大使ニッキ・ヘイリーは、この点を確認する最新の高官だ。2月2日の演説で、モスクワが半島をウクライナに返還するまで、アメリカ合州国は対ロシア経済制裁を継続するつもりであるとヘイリーは強調した。“クリミアはウクライナの一部だ”彼女は単刀直入に述べた。彼女は2月21日、国連安全保障理事会での発言でワシントンの断固とした姿勢を繰り返した。
この姿勢はオバマ政権の政策とほぼ同じだ。ジョン・ケリー元国務長官は、最初からロシアの行動を非難していた。“21世紀には、まったくでっち上げの口実で、他国を侵略するような19世紀風行動をしてはならない”といきまいた。“ロシアはウクライナの主権を侵害している。ロシアは国際的義務に違反している。”
クリミアに対するトランプ政権の姿勢が、いかに現実主義外交政策からの大統領の素早い退却の縮図であるかを私は随所で書いている。しかし、クリミアの例は、露骨な二重基準を平気で使うというアメリカ外交政策積年の問題の好例でもある。
過去何十年にもわたり、無数のアメリカ人高官が、軍事力によって実現された領土変更は違法であり、ワシントンは、そのような行為は決して容認しないと主張してきた。クリミアは、この政策の最新例に過ぎない。ジョージ・H・W・ブッシュは、イラクによるクウェート侵略と占領に関して、断固とした姿勢をとり、オバマやトランプ政権と違い、結果を覆すために戦争までしかけた。アメリカのペルシャ湾戦争参加を正当化するため、両院合同会議で演説して、彼はこう述べた。“外部から押しつけられた傀儡政権は受け入れられない。武力による領土取得は容認できない。”
ところが、アメリカ同盟国による同様な振る舞いに関するワシントンの姿勢は全く違う。例えば、アメリカ合州国は、一体いつ、イスラエルに、ゴラン高原をシリアに返還するよう要求するのだろうと聞きたくもなる。シリアとエジプトが、このユダヤ人国家に対する攻撃を準備しているように見えたため、イスラエルが先制措置として始めた紛争である1967年代の六日戦争時に、イスラエルがこの地域を占領したのだ。テルアビブには、ゴラン高原を持ち続けたい、確実な安全保障上の理由がある。そこに配備されたシリアの火砲が、高原下方の渓谷にあるイスラエル人社会を再三脅かしてきたのだ。
とは言え、これが軍事力によって実現された領土変更であることは明白で、テルアビブが後にこの地域を併合したので、それが決してシリアには返還されまいことは確実だ。ところが、クリミアに関するアメリカ政策とは好対照に、ワシントンはイスラエルには決して経済制裁を課していない。逆にその後、二国間関係は極めて親密になっている。
1974年のトルコによる北キプロス侵略と占領も、同様なはなはだしいアメリカの二重基準だ。この場合には、有力な安全保障上の正当化の口実も無かったのだ。アンカラは、ギリシャ系キプロス人の、トルコ系キプロス人に対する暴力という散発的事件をas国の約37パーセントを占領する口実に利用した。ワシントンは、トルコの侵略に対して、当初ゆるい経済制裁を課したものの、これらの措置は間もなく解除され、忘れさられた。トルコは更に、傀儡北キプロス・トルコ共和国を樹立した。占領を強化するため、アンカラが、トルコ本土からの十万人以上の入植者を集団脱出させることを画策した際、この組織には意味ある主権が欠如していることが明らかになった。
クリミアにおけるロシアの行動は、一体なぜ、アメリカが厳しい経済制裁を課する理由となるほど、こうした先行する事例より酷いものなのかと尋ねたくもなる。併合に対するモスクワの安全保障上の根拠は、ゴラン高原についてのイスラエルの状況ほど強力ではないにせよ、到底些細とは言えない。とことん反ロシアの政権がウクライナに出現したため、クレムリンがロシアの極めて重要なセヴァストポリ海軍基地の将来を恐れたのももっともだ。おまけに、ロシア幹部は、民主的に選ばれた親ロシア派大統領ヴィクトル・ヤヌコーヴィチを任期満了二年前に打倒したキエフでの抗議行動に対するアメリカとヨーロッパのあからさまな支持でいらいらしていたのだ。
しかも、1780年から、ソ連指導者ニキータ・フルシチョフがウクライナに支配を移譲した1954年まで、クリミアはロシアの一部であることをロシアは指摘している。ウクライナとロシアはいずれもソ連の一部だったので、当時、この決定はさほど問題にならなかったが、ソ連が崩壊したため、極めて重要な軍事基地を外国に保有していることがロシアにとって懸念となったのだ。アメリカ政治指導部や政策決定者に、機能不全な国の共産党独裁者が出した恣意的命令を、一体なぜそれほど尊重して扱うのかと、現在ロシアが問うているのももっともだ。
最後に、アメリカ合州国とNATO同盟諸国は、彼ら自身、武力による領土変更も行っている。1999年、セルビアのコソボという不安定な地域を、ベオグラードの支配から切り離すため、NATOは七日間、セルビアに空爆をしかけた。その後、2008年、コソボの一方的な独立宣言の産婆役を果たすべく、ワシントンと同盟諸国は、国連安全保障理事会(とロシアの拒否権)を回避した。これは決定的前例となり、モスクワは、その年、ジョージア共和国に対する戦争でこの手口につけこんだ。あの紛争は、南オセチアとアブハジアという二つの地域の分離主義者たちが、トビリシの支配から自由になる助けになった。
露骨な二重基準の複数例からして、強引な領土取得に対するワシントン政策の道徳的基盤はきわめて薄弱だ。しかもクリミアに関する現在の厳しい姿勢は、実際的見地からも意味をなさない。アメリカ指導部は、ロシアがクリミアを手放さない現実を受け入れる必要がある。セルビアがコソボを取り戻すことも、orシリアがゴラン高原をイスラエルから取り戻すこともできまい。何十年にも及ぶ定期的交渉の最新の回にもかかわらず、キプロス政府が、北部地域を巡る主権を取り戻す可能性も低い。
ロシアにクリミアをウクライナに返還させる頑固で無益な要求に固執しても、アメリカの利益にはならない。(アメリカ合州国自身を含む)欧米列強による同様な領土占領に対するアメリカがとってきた態度を踏まえれば、この問題に関するワシントンの偽善が、この姿勢を一層不快なものにしている。
記事原文:http://nationalinterest.org/feature/america-crimea-the-dangers-hypocrisy-19601?page=show
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