アムネスティのシリア「人間屠殺場」報告書(ネット上の批判記事から) 私の闇の奥
2月7日付けのアムネスティ・インターナショナルの「人間屠殺場」報告に6日遅れをとりましたが、ヒューマン・ライツ・ウォッチの方も、負けじと「アレッポでのシリア軍の化学兵器使用」を非難する長文(動画、詳細地図つき)の報告を、2月13日、発表しました。
https://www.hrw.org/news/2017/02/13/syria-coordinated-chemical-attacks-aleppo
この二つの代表的人権擁護団体は、正しくは、反人権擁護団体と読んで然るべき団体であり、これに対する痛烈な批判を下の記事が与えています。
http://www.blackagendareport.com/shamnest-international-human-slaughterhouse
(藤永茂 記)
今回のアムネスティの報告には、すでに批判の声があがっています。シリア報道で信頼のおけるジャーナリスト、エヴァ・バートレット(Eva Bartlett)さんやヴァネッサ・ビーリー(Vanessa Beeley)さんも、いちはやくツイッターで「フェイク(虚偽)」だと批判しています。
https://twitter.com/EvaKBartlett/status/829613789993648129
https://twitter.com/VanessaBeeley/status/829427975271677952
以下に、ネット上で確認できたいくつかの批判記事をご紹介します。
21st Century Wireのこの記事には、多くの関連記事のリンクが貼られており参考になります。批判記事のプラットホームとしてご参照ください。
報告書への疑義が箇条書きされています。要点は以下のとおりです。
「アムネスティには調査方法の原則があり、それによると、アムネスティのスタッフ自身が現地で実地に調査すること、収集した証拠は多様な見地から検証し、対立する立場からのクロスチェックと裏付けを経ること、などとある。今回の報告書は、そうした原則をすべて無視している」
「スタッフ自身の調査・一次証拠・物証などがなく、すべてが匿名の証言というあいまいなものに基づいている。しかも証言はトルコ南部でなされたとあるが、この地はシリア紛争に直接介入している地域である」
「証言者との接触をお膳立てした団体がすべて反政府側に偏っている。Syrian Network for Human RightsはシリアへのNATO軍事介入を求めた団体であり、The Commission for International Justice and Accountabilityは西側からの資金を得てシリアのアサド大統領を刑事告発した団体である」
「刑務所や裁判の様子を知る者からは「報告書は実態と違う」という声があがっている。アムネスティは本来、こうした証言との間でのクロスチェック・裏付けをすべきだった」
「報告書は衛星写真を示し「墓が増えたのは絞首刑が増えたから」とするが、そもそも、シリア国軍兵士の殉職者を埋葬する墓地に、処刑された者を埋葬することはありえない。墓が増えたのは、紛争でシリア国軍兵士の死者が増えたからだ」
「逮捕された大半が政権に反対する立場の一般市民だったというのも虚偽である。誤認逮捕の可能性はどこの国にもあろうが、セドナヤ刑務所の95%が一般市民だったというのは馬鹿げた主張だ」
「報告書は、大ムフティー(イスラム法最高位)のアハマド・バドレディン・ハッスーン(Ahmad Badreddin Hassoun)師が一般市民への死刑執行を許可している、と批判する。しかし、このハッスーン師は、イスラム過激派に息子を殺害された後も、赦しと暴力の停止を呼びかけている人物であり、報告書は確かな証拠もなく、こうした苦しみの中にある人を糾弾している」
「報告書は、政権が「人々を絶滅させる行為」を実行していると批判するが、東部アレッポ解放以降、90%の住民が政権支配側での生活を希望したという事実と矛盾する」
「報告書は、平和的手段で政権に反対する市民を投獄し処刑していると批判するが、シリア国内には何万人もの暴力的な過激派が入り込み、自動車爆弾・迫撃砲その他の方法で連日市民を攻撃しているという事実を無視している」
「報告書は、政権が残酷に市民を弾圧しているというが、過去数年間、政権から反対派民兵に対して、武器を捨てれば恩赦を付与し平和的に社会に包摂するという「和解プロセス」の呼びかけがなされてきた事実とも矛盾する」
「報告書は、「シーザー」という偽名の人物が提供したという「証拠写真」に依拠しているが、その信憑性には疑いがある」
「シーザー」写真の問題点については以下の記事をご参照ください。
The Caesar photo fraud that undermined Syrian negotiations
記事によれば、写真の信憑性にお墨付きを与えたのは、英国の弁護士ピーター・カーター=ラック(Peter Carter-Ruck)の法律事務所が中心の調査チームでしたが、この事務所は、シリア紛争で反政府側を支援しているカタールから報酬を得ているほか、かつてトルコのエルドアン大統領の代理人も引き受けました。調査チームには米国人の大学教授デイヴィッド・クレイン(David M. Crane)も参加しましたが、彼は国防総省や国防情報局にもいた人物です。クレイン教授の活動“Syria Accountability Project”はシラキュース大学が拠点ですが、この大学にはCIAの資金が流れており、学生の反対にもかかわらずCIAへのリクルートも盛んです。「シーザー」写真にはCIAの関与が疑われています。こうしたことから調査チームによる「検証」の公平性が疑われます。しかも調査はきわめて杜撰で、写真には、反政府側に殺害された政府軍兵士や市民が多数含まれているほか、通常の戦死者の写真を拷問や処刑によるものと偽っています。
この記事も、アムネスティの調査方法や証拠に疑義を呈しています。掲載された1枚の死亡診断書も、それが拷問・処刑で死亡した者の診断書だという根拠がない、と。そして、アムネスティは事実と証拠に基づいて報告書をまとめておらず、そうした証拠の欠如を糊塗するために、映像クリエーターを雇い3Dアニメと効果音からなる動画を制作したのだと批判しています。ちなみにこの動画の制作には、ロンドン大学・ゴールドスミスカレッジが協力したそうです。
この記事が呈している疑義は以下のとおりです。上の記事との重複する点は略します。
「報告書は、シリア政府と反政府派とで和平協議が行われるタイミングを狙って発表されたものであり、現に“背広を着たテロリストたち”が「この報告書も協議の議題にしろ」と叫んでいる」
「和平を呼び掛けている穏健な大ムフティーのアハマド・バドレディン・ハッスーン師は、イスラム教スンニ派のコミュニティで教徒の案件において判断を述べることしかしない(カトリックの司教のように)。また、政府の側から宗教指導者にこのようなこと(死刑判決)に関して諮ることもありえない。そもそも、世俗派でアラウィ派のアサド大統領がスンニ派の大ムフティーの意見に従おうとするだろうか。アムネスティの“専門家”は、シリアが世俗国家だということに無知だったか、あるいは、人々は騙されやすいのでそういう細かいことは問題ないだろうと思ったのかもしれない。反対派にくみする証言者たちも、自身の生活全般が宗教権威に支配されていることに慣れすぎていて、(世俗国家)シリアに関する証言の中に、そうした(自身の)カルチャーを持ち込んでしまったのかもしれない」
この記事には、シリアの人権活動家でセドナヤ刑務所にも収監されたことがあるというニザール・ナユーフ(Nizar Nayyouf)氏による批判が紹介されています。ナユーフ氏はフランスに亡命後もシリア政府を批判し続ける一方、オランダ紙のインタビューでは「イラクの大量破壊兵器は米国のイラク侵攻直前にシリアに運ばれて隠された」などと主張しており、どこまで彼の言うことを信じてよいのか迷うところです。ただ、こうしたアサド政権に対立する人物からもアムネスティの報告への批判が出ているということはご紹介しておきます。
共同通信が「少なくとも1万3千人を処刑」と書き、報告書の人数すら正確に報じていない点を先にご紹介しましたが、AP通信も同様の見出しを付けていたことがここには指摘されていました。この記事があげた報告書の疑義は以下の点です。
「証言は誇張や不確かなものばかりである。例えば、「寝ていると下の階から、定かではないが、「ゴボゴボ」という音がした」という証言に、世の裁判所は「どこかの部屋でシャワーが流れていた」という事実認定の証拠に採用することはあるかもしれないが、「処刑(絞首刑)」があったということの証拠として採用するだろうか? 話しぶりからは、自分が実際に処刑を目撃したのか、誰かから聞かされたことを話しているのかも、はっきりしない」
「(関係者から提供されたという)95人の名前−実際に処刑されたかどうかも不明−、アムネスティが名前をあげることができるというのは、わずかこれだけである。処刑されたと主張する全体の人数の1〜2%にも達していない」
「(証人とのコンタクト調整に関与した)Syrian Network for Human Rightsという団体は、イギリスの情報機関や怪しい資金源とのつながりが疑われる。この団体も犠牲者数の杜撰な算定方法が指摘されており、武装民兵すら市民としてカウントしているのではないかと疑わしい。この団体も、刑務所の囚人(大半が市民だという)が死亡していると主張するのだが、処刑によるものとは語られていない。シリアの犠牲者数の情報源としてメディアで頻繁に引用される団体が、アムネスティが算定した5千人から1万3千人の被処刑者に関する記録をなんら把握していないということがありうるだろうか」
Syrian Network for Human Rightsの怪しい素性については以下の記事をご参照ください。
「シリアの憲法や法律の中に、軍法会議や刑事司法手続における大ムフティーの役割を規定しているものは見当たらない」
「シリアの法律には重い凶悪犯罪に対する死刑が規定されてはいるが、2011年以前に実際に執行されたのはきわめて稀で、多くが死刑を減刑されていた。2011年以降は、武装テロリストを処罰できるよう法改正があったとされており、重大な犯罪を犯したテロリストに死刑が宣告された可能性は十分に考えられる。シリア政府は、大量殺人その他の虐殺行為で知られるIS(イスラム国)やアルカイダその他の過激派組織と戦っており、一部に死刑が適用された可能性はあるだろう。しかし政府は、武装解除した何万人もの者たちに恩赦を与えてもいる」
この記事は以下の点に疑義を呈していました。
「報告書がいうとおり完全に秘密裡に処刑されるのだとすれば、セドナヤ刑務所の囚人たちが実際に処刑されたのか実はまだ生存しているのかについて、関係者は何も証拠立てて語れないはずである。それなのに複数の家族(22の家族がアムネスティに証言)が自分の身内がセドナヤ刑務所に囚われているとどうして知ることができるのだろうか」
「報告書はダマスカスに秘密の集団墓地があるとしつつ、アムネスティとしては現地にアクセスできないので独自に真偽を検証できなかったとある。情報源となったという人たち、とりわけ刑吏に写真一枚撮ってきてもらうこともできなかったのだろうか」
「verify(実証する・確認する)という重要な単語がようやく二番目に出てくるのが報告書の40頁(訳注:48頁からなる報告書の終盤)だが、この節は非常に短いもので、(アムネスティが)どのように実証したのかについては書かれておらず、375人の囚人が拷問死したとSyrian Network for Human Rightsが主張していることを根拠にセドナヤ刑務所内の死亡事例を確認(verify)した、とだけある」
「Syrian Network for Human Rightsは、375人の囚人が拷問・虐待で死亡したとはっきり言えるほどセドナヤ刑務所内での出来事を把握できていたとすれば、つまりこの団体にセドナヤ刑務所をモニタリングする能力がそれだけあったのだとすれば、13,165人もの囚人をいったいどうして見失ったのだろうか(訳注:13,165人とは、アムネスティの「推定(estimate)」最大値13,540人から「verify(実証・確認)」できたという375人を差し引いた人数)」
「アムネスティは、自分の監房で目撃したという元囚人から、拷問・虐待で死亡したという者の名前36人分をさらに入手したという。つまり、アムネスティが面会や電話で接触した人物は、何らの裏付ける証拠もなく36人の名前を提供してきたということである。そのうえ、秘密裡に処刑された者は推計で1万3千人になるという主張まで、我々に信じろというのだろうか」
「(報告書に協力した)シリアの拘禁事情に詳しいという内外の専門家たちはなぜ匿名でいる必要があるのだろうか。もしも彼らが本当に専門家であるならば、実名で仕事をするはずだし、そうすることで専門家の評価は可能になる」
今回の報告書に関する批判記事のご紹介はここまでにします。重複するポイントは省略しても、これほどまでに様々な疑義が提示されていることがわかります。対立する者がいる場合(シリアでは紛争の当事者同士)、一方の言い分(または一方に近しい者の言い分)だけを元に結論づけるのは調査方法のイロハに反することですし、検証不可能な匿名の証人による曖昧な証言をもとに「推定」を膨らませていくという手法も問題です。より根本的な問題としては、そもそもシリアの紛争は、現代の国際法では許されない「主権国家の政権に対して外国が軍事力をもって干渉してその転覆を図る行為」(=侵略)を、欧米・トルコ・サウジ・カタールなどが共同で実行しているというものです。しかも藤永先生が詳述してくださってきたように、アサド政権を弱体化させるために、そして、シリアの国土を破壊するために、利用できる好都合の道具とみて、IS(イスラム国)などに裏で様々な支援をしているのも、実はそうした国々です。アムネスティ報告書の問題点は、シリアの地で起きている最大・最悪のそうした不正義・犯罪には触れず、シリア政府だけをピンポイントで攻撃している点です(しかも上述のように杜撰な怪しい報告書をもってして)。
桜井元 (2017年2月23日)
’人権擁護’という、錦の御旗を隠れ蓑にし、いいがかりをつけた先を陥れる別働隊といったところでしょう。 国境なき医師団の全部あるいは大部分が、フランス諜報部門の出先だったり(シリア国連大使「『国境なき医師団』の病院は、仏諜報機関の支部」 と シリア大使 病院を空爆したのは米主導の有志連合)、近年のカラー革命が、CIAとそこに協力したシリコンバレー謹製だったりしたのと同じ構図、似非も似非。
どうせ、また、上記引用記事についても、アムネスやヒューマンウォッチの似非声明を嘘つきCNN(トランプが会見で「CNNは偽ニュースだ!」と激怒した本当の理由 と マスコミやジャーナリストの使命は何でしょうか共に抜粋)あたりが喜んで垂れ流すのでしょうね。
http://www.asyura2.com/17/kokusai18/msg/387.html