フランス大統領選「まさかの結末」が世界経済を揺るがす!? ルペン女史当選でEU離脱の可能性も
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50963
2017.02.13 真壁 昭夫 信州大学経済学部教授 現代ビジネス
■極右政党のルペン党首が当選する可能性
金融市場では各国政治への警戒感が高まっている。米国では中東などからの入国制限を発動する大統領令が出された。それは、賛否両論、国を二分する議論になっている。トランプ政権がインフラ投資など経済政策の具体的な内容を示していないことも重なり、今後の政策動向への懸念は強い。それがドル安につながっている。
欧州では、フランス大統領選挙への懸念からユーロが軟調に推移している。ポイントは極右政党である国民戦線のルペン党首の当選する「まさか」のシナリオが排除できないことだ。
photo by gettyimages
背景には、有力候補と考えられた右派・フィヨン元首相の不正疑惑がある。世論調査では、最終的にルペン女史は大統領に当選しないとの予想が多い。しかし、自国第一を目指す主要国の政治、ユーロ圏の先行き不安などを考えると、決め打ちはできない。
■フランス大統領選の混迷
4〜5月にかけて実施されるフランス大統領選挙について、第1回目の投票では過半数を取る候補が出ず、フィヨン氏とルペン女史が決選投票に進むとみられてきた。その結果、フィヨン氏に票が流れて当選するというのが一般的な予想だった。
しかし、1月下旬、フィヨン氏が親族を架空に雇用し、1億円超の公的資金が親族に支払われた疑いが浮上した。これを受け、フィヨン氏への支持が低下したことは言うまでもない。
そこで、決選投票にて極右のルペン女史と中道派のマクロン氏(オランド政権下での前経済相)の一騎打ちになる公算が高まった。これは、“保革共存(コアビタシオン)”によるフランスの政治が途切れる可能性が高まったことを意味する。今回の大統領選挙を境に、フランスの政治はこれまでに経験したことのない、新しい時代に向かう可能性がある。
マクロン氏は、左派でもなく、右派でもないことを標榜している。オランド政権の不人気は顕著だ。最終的にマクロン氏と社会党が歩み寄るかどうか、わからない。この時点で、保革共存の流れからマクロン氏に票が流れ、ルペン女史が負けるという構図は想定しづらくなる。
また、同氏の公約は、ビジネスフレンドリーで福祉重視と、新鮮味に欠ける。一方、ルペン女史は憲法に自国第一に関する規定を明記することなどを目指している。
世論調査、専門家の意見を見ると、決選投票でマクロン氏がルペン女史に勝つとの見方が多い。その背景には、これまでの政治の流れに沿って大統領が選出されるという考えが働いているようだ。ただ、英国の国民投票、米国の大統領選挙のように「まさか」の展開が近年の政治にはつきものである。
■「まさか」を警戒する金融市場
フィヨン氏の疑惑と支持率低下を受け、金融市場ではフランス大統領選挙への懸念が出始めた。フランスの金利上昇圧力は高まり、ユーロも軟調に推移することが増えている。
背景には、一般的に言われているほど、ルペン女史が大統領に当選する可能性は低くないとの警戒がある。ルペン女史が当選すればフランス経済の復興のための財政出動が増え、フランスがユーロから離脱する可能性が高まる。
米国を中心に各国の政治は自国第一の考えを優先している。EU単一市場からの離脱市場を表明した英国のメイ首相はトランプ大統領との関係強化に動いた。EUの連携は弱まり、自国第一を標榜する国同士、シンパシーを感じやすくなっている。
それに加え、IMFとドイツはギリシャの債務減免を巡って意見が一致していない。IMFがギリシャへの融資に参加しない可能性もある。そうした状況が続くと、ギリシャ国内で反緊縮のデモが起きやすい。
それは追加的にフランス世論を欧州懐疑主義に向かわせるだろう。その結果、フランス国内ではEUから離れて、厳格に国境を管理し、司法権の回復を目指すべきとの考えが増える。大統領選挙までにこうした展開が実現するかは不透明だが、社会全体の雰囲気として、自国第一を主張する政治は有権者の心に響きやすくなっている。
photo by gettyimages
こうした流れの中で、ルペン女史、マクロン氏、どちらの主張が民衆の心に響きやすいか。英米の有権者は、グローバル化の進行ではなく、それに逆行し、目先の利益を重視することを選択した。
それは、これまでの政治家が所得の増加につながる政策を進めることができなかったからだ。従来にはない主張が支持を集めやすくなっており、フランス大統領選挙が、「まさか」の展開になる可能性は排除すべきではない。