トランプ政権とメキシコの対立エスカレート−貿易戦争の足音
Austin Weinstein、Eric Martin、Justin Sink
2017年1月27日 14:04 JST
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メキシコのペニャニエト大統領はトランプ氏との首脳会談を中止
ホワイトハウスはメキシコからの輸入品への20%課税案で応酬
米国とメキシコの関係は26日、新たな混乱状態に陥った。数十年にわたる友好と経済協力を台無しにしかねない貿易戦争に両国は近づいている。
トランプ米大統領が北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉とメキシコ国境への壁建設という選挙公約の実行に動き出したことから、メキシコのペニャニエト大統領はこの日、訪米中止を発表した。これに対しトランプ政権は、メキシコからの輸入品に20%課税する案で応酬した。
米国のシンクタンク、インターアメリカン・ダイアログのマイケル・シフター会長は、「米国とメキシコの関係にとっては極めて悪い日であり、記憶の限りにおいては最悪の日だ」と述べ、「手に負えない状況に陥る本当の危険がある」と指摘した。
世界屈指の貿易関係が破綻に向かっているとの懸念が強まり、メキシコ・ペソは急落。米株式相場は伸び悩んだ。
トランプ大統領がメキシコに不満を持つにせよ、両国経済は深く結び付いており、国境沿いの州では特にその傾向が強い。それだけに深刻な政治・経済の動揺を招かずに両国を引き離すことはほぼ不可能に近い。自動車や同部品、農作物、繊維、食品は全て両国間を自由に行き来しており、それに支障が生じた場合、双方の国に経済的な悪影響が及ぶ恐れがある。その打撃はトランプ氏を大統領に押し上げたラストベルト(脱工業化の中西部から北東部にかけての地域)も受ける。
最大の打撃を受けるのは自動車産業だろう。フォード・モーターとゼネラル・モーターズ(GM)、フィアット・クライスラー・オートモービルズはいずれもメキシコに組立工場を構えている。ホンダや独フォルクスワーゲン、マツダなどの外国メーカーもメキシコ工場から米国に自動車を輸出している。北米自由貿易協定(NAFTA)で恩恵を受けている米国企業にはワールプールやゼネラル・エレクトリック(GE)などもある。
首脳会談の中止前には、ペニャニエト大統領はNAFTAに関して来週ワシントンで交渉を開始すると見込まれていた。トランプ大統領は米国の労働者にとってより良い取引をまとめられない場合は見捨てることも辞さない姿勢を取っており、NAFTAは「最初から一方的な取り決めだった」と26日にツイッターに投稿した。
原題:U.S. Edges Toward Trade War as Trump Clash With Mexico Escalates(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-01-27/OKF4V06JTSE801
メキシコ、トランプ氏の保護主義策で恩恵の公算−米シティCFO
Dakin Campbell
2017年1月27日 14:44 JST
メキシコは労働力で非常に大きな強み−ガースパッチ氏
ペソ安がメキシコの競争力を一段と高める可能性−同氏
米銀シティグループのジョン・ガースパッチ最高財務責任者(CFO)は26日、トランプ米大統領の保護主義的な通商政策でメキシコが恩恵を受ける可能性があると指摘した。ペソ安でメキシコ経済の競争力が一段と高まる見込みであることを理由に挙げた。
ガースパッチCFOは債券投資家向けの四半期電話会議でアナリストから質問を受け、「メキシコは強みを多く持っており、米国との貿易で何が起ころうとも、こうした強みは一国の経済として続くだろう」と分析。「メキシコ国内には労働力で非常に大きな強みがなお存在し、これは世界で競争する機会をもたらすと考えている」と述べた。
トランプ氏が昨年11月8日の米大統領選で勝利して以降、メキシコ・ペソは対ドルで13%超下げた。メキシコはシティにとって米国外で最も大きい市場となっており、メキシコ部門のシティバナメックスは約1500支店を有する同国2位の銀行。
ガースパッチ氏は「ペソ安はメキシコの競争力をさらに高める可能性があり、われわれはメキシコに関して選好する材料は数多いと考えている」と話した。
原題:Mexico Could Benefit From Trump’s Protectionism, Citi CFO Says(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-01-27/OKF86H6JTSEB01
トランプ大統領の壁、地球にとって良くない−科学者らが警告
Anna Hirtenstein、Joe Ryan
2017年1月27日 13:27 JST
メキシコ国境沿いの壁に必要なコンクリートはフーバーダムの倍以上
コンクリートの主な材料であるセメント生産の際にCO2排出
トランプ米大統領のメキシコとの国境沿いに壁を建設する計画は巨額費用がかかるほか、メキシコとの外交関係に既に亀裂を生じさせた。だが、それだけではなく、地球にとって良くないと科学者らは言う。
ニューヨーク大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のエンジニアによると、コンクリート利用で温室効果ガスが排出される可能性があるが、今回の壁に使用するコンクリートの量は米フーバーダム の倍以上を必要とする。
全長1000マイル(約1600キロメートル)の壁建設には2億7500万立方フィートのコンクリートが必要と見積もられ、それによって排出される二酸化炭素(CO2)は最大190万トンとの試算をコロンビア大学地球研究所の科学者、クリストフ・メインレンケン氏が出した。これは、米ピッツバーグの全ての住宅から1年間に排出される量を上回るという。
米環境保護団体シエラクラブのアリゾナ支部でコーディネーターを務めるダン・ミリス氏はインタビューで、「あれだけの規模の壁のCO2排出量は巨大になる」と語った。
コンクリートによるCO2排出の大半は主原料のセメントによるもの。セメントは石灰石を分解して生産するが、その際にCO2が発生するほか、セメント1トンを生産するのに約181キロ相当の石炭が必要になる。地球研究所によると、セメント業界からのCO2排出量は世界全体の約5%を占める。
原題:Scientists Warn Trump’s Border Wall Will Be Bad for the Planet(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-01-27/OKF5OI6TTDS001
【コラム】浮かび上がったトランプ米政権の経済政策手法−エラリアン
コラムニスト:Mohamed El-Erian
2017年1月27日 15:46 JST
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トランプ政権とメキシコの対立エスカレート−貿易戦争の足音
日本株3日続伸、円安と業績改善期待−原油関連高い、エムスリー急伸
東芝:メモリ事業3月末めどに分社化、外部資本も−原子力損失で
三井住友F:英バークレイズから20人採用へ−超富裕層業務を拡大
トランプ米政権発足からまだ日が浅いが、大統領が志向する経済政策の手法が徐々に明確になってきた。誕生1週間の政権の言動で浮かび上がった主な特徴を幾つか列挙する。
「輸入代替プラス」とも言うべき政策立案手法と共に産業政策の諸要素を活用し、高成長と雇用創出加速を目指す
トランプ政権は従来型の輸入代替型戦略をほうふつとさせるやり方で、海外から米国内市場に出荷している米企業の生産施設を本国に引き寄せようとしている。そして、それに「プラス」する形で、海外市場向けの国外生産拠点も米国に移転させるよう目指す。雇用や賃金への望ましい効果を増幅させるため、政権は自動車など特定のセクターとのやり取りで産業政策の諸要素を追加している。
マクロとミクロの両面での取り組み
こうした重点の置き方は、政権が追求するマクロとミクロの介入の組み合わせを浮き彫りにする。マクロレベルの中心は規制緩和、税制改革、インフラ、インセンティブの変更を通じた国内生産と米製品・サービスの消費の優遇という4点だ。ミクロでは、セクターごとの重点と道義的説得の選択的適用をリンクさせ、特定プロジェクトを結び付けるケースもある。
経済政策手段としてのシグナルと語り掛けの積極活用
普通のエコノミストはこうしたミクロ措置の全般的な影響を否定しがちだろう。だが、語り掛けや期待、行動をもっと一般的なレベルで変えていくというインパクトによって、シグナル効果は極めて大きなものとなると指摘するエコノミストもいるだろう。トランプ大統領が雇用について何度も強調するとともに、ツイッター投稿も含む多様なコミュニケーション手段を積極的に活用していることで、このような効果は増強される。
アメとムチの哲学が支え
アメとムチに支えられながら、政権と産業界との間で展開する暗黙の契約によって、メッセージは増幅される。とりわけ、規制緩和や減税のインセンティブと、「米国第一」の警告に十分反応しない企業に恥辱を与えたり罰したりするという脅しが挙げられる。
国境を越える関係については、米経済政策の立案における何十年もの常識をひっくり返すことも辞さない政権
この手法は、国境を越える関係を支配してきたずっと前からのルールや慣行から逸脱する用意がある点にも及ぶと受け止められる。ドル高けん制発言や環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)解体の脅し、世界貿易機関(WTO)の下でのコミットメントに合致しない関税の賦課といった形を取っている。その過程で、他国との交渉戦略の一環として、トランプ政権は必要と判断すれば、深くしっかりと根付いた国際的な経済運営の原則に疑問を呈し、ひっくり返す用意があるとの立場を示唆している。
政策的な意図の多くが、発表の段階から詳細な立案や継続的な実行の段階にまだなかなか移行できずにいる現状を特に考えれば、事態がどう収束するかは依然として分からない。さらに、議会にもこのプロセスの中で発言権がある。それでもエコノミストの一部は既に、展開されつつある米国の経済政策手法を中南米でポピュリスト政権が追求したものになぞらえている。開発経済学に精通した人々は特に、アルゼンチンやブラジルなどの国々が一度ならず追求した輸入代替型成長モデルを想起させられている。
しかし、そのような比較は時期尚早で、誤解を招くものでもあるかもしれない。その理由は米国で支配的な経済、金融の初期状態が極めて異なっている点に限られない。
トランプ大統領の手法が今後も続けば、世界経済との相互作用の在り方の取捨選択を含め、米経済の内部の動きや方向性の変化を大きく超えて、その影響は拡大するだろう。米国が国際金融システムの中心にある点を踏まえれば、米国で起きることは一国だけの問題にとどまらない。それは他の国々からの反応も誘発する可能性が最も大きく、ルールに基づく世界システムの従来の機能を揺るがす可能性もある。
各国の国内および世界における責任のバランスを図る協力的な方法で、うまく運営できれば、その帰結は高水準で一層包括的な成長の持続と、真の金融の安定性の実現に不可欠な全般的な政策の改革といった類いのものとなる可能性がある。だが、国際的なまとまりや協調を欠いた形で進められれば、世界経済は分裂が増す方向に傾斜するだろう。そうなれば、現在と将来の成長と繁栄を減じ、金融の不安定性を招くリスクが増大することになる。
(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)
原題:Trump’s Economic Approach Is Taking Shape: Mohamed A. El-Erian(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-01-27/OKF8KT6JTSE801
http://www.asyura2.com/17/hasan118/msg/374.html