東京管理職ユニオンの設楽清嗣さん
会社は「カルト集団」。過労死はなくならない
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161221-36738791-bpnet-life
nikkei BPnet 12/21(水) 10:12配信
■企業内労組は経営と完全に一体化
今回と次回は、会社や経済界などに厳しい姿勢で臨むことで知られる労働組合・東京管理職ユニオンの設楽清嗣さんに取材を試みたやりとりを紹介します。
設楽さんは、「労働運動の闘士」と呼ばれ、55年以上最前線で闘い続けてきました。今も、多くの会社員らの労働相談に対応しています。
テーマは、電通の過労自殺。
今回は、電通の社内にある労働組合や、社長以下、役員、管理職らの今回の事件への対応などについて伺っています。
Q 電通の社内には、労働組合があります。労組がありながら、なぜ、今回のような問題が起きたのでしょうか?ユニオンのリーダーとして、どのようにお考えでしょうか?
電通に限らず、企業内にあるカンパニー・ユニオン(企業内労組)は、我々、ユニオンとは価値観が違うのです。カンパニー・ユニオンは、正社員の多くが入る、いわゆる企業内労組です。
電通では過去にも過労死・過労自殺の事件があり、最高裁まで争うことが起きています。ところが、カンパニー・ユニオンは、その都度、経営陣に厳しい姿勢で対決していなかったはずです。労組として、抗議を繰り返していたならば、今回のようなことはまず起きなかったでしょう。
日本の多くの企業のカンパニー・ユニオンはもはや、経営と完全に一体化しています。労組として、経営陣へのチェック機能を果たしているとは言い難いのです。
■電通の企業内労組は世論を敵視
たとえば、今回の過労自殺について厳しい世論があります。電通のカンパニー・ユニオンは、それを「敵」とみている可能性があります。この「敵」から、自分たちの会社を守らなければいけない、と思っているのではないか。そのあたりの認識も、経営と一体化しているのではないか、と私は考えています。
本来、この厳しい世論をバックに、社長たちに厳しい抗議をしていくべきなのです。しかし、報道などを見聞きしていても、カンパニー・ユニオンからその姿勢を感じることができません。
電通の正社員の収入は、全業種の中でも相当に高い水準です。この生活を維持していくことができるのは会社があってこそ、なのです。その認識は、カンパニー・ユニオンも経営陣も共有しているはずです。
当然、社長以下、役員、管理職の多くも、厳しい世論を「敵」とみている可能性があります。我々のような労組を「反社会的勢力」とみていることもありえます。
電通の正社員は、我々のところへ労働相談に来ることはまずありません。広告業界の、ほかの大手・中堅企業の社員は正規・非正規を問わず、来ます。
ちなみに金融機関でいえば、メガバンクの正社員も相談に来ることはほとんどありません。ほかの大手・中堅、中小の金融機関の人は来ます。電通やメガバンクのような会社は、「反社会的勢力に近寄るな」という教育を受けているのかもしれませんね。
■問題意識が全く欠如している社長、役員、企業内労組
Q 今に至るまで、電通の社長は公の場でお詫びもなければ、釈明もしないですね。
そもそも、罪の意識はさほどないのではないか、と私は思います。あるならば、何らかの説明を公に向けてするでしょう。会社として記者会見を開くとしたら、「世間をお騒がせした」ことに対しての釈明はあるのかもしれませんが、そこから先のことにはまずふれないと思います。
例えば、このようなことです。
「今回、新入社員が過労自殺をした。過去にも繰り返されている。これは労務管理などに大きな問題があるからであり、遺族をはじめ、関係者の皆様に誠に申し訳なく思います」
今回は、過労自殺が社会問題化したから、社長として管理職たちに「労働時間の管理」を呼びかけたに過ぎないのだと私はみています。自殺した高橋まつりさんの事件は、昨年の暮れに起きているわけですから、取り組むのが1年近く遅いといえます。
結局、大きな社会問題になったから、ようやく、労働時間の管理に向かい合ったと思わざるを得ないのです。
カンパニー・ユニオンの役員らも、「自分たちが労組として機能していない。その結果として、高橋さんを守ることができなかった」とは痛切に感じていないでしょう。恥ずかしいとも思っていないでしょう。そこまで真剣に考えるならば、はるか前に行動をとっていたはずです。経営と一体化している以上、その意味での、強い問題意識など持ち合わせていないのだと思います。
■過労死や過労自殺が繰り返される会社の体質
Q 高橋さんの上司や、その上にいる役員たちは、社長から厳しい処分などを受けるのでしょうか?
社長や役員が、高橋さんの上司たちを、今回のことで叱責することはないと思います。降格にすることも、厳しい処分にすることも、可能性としては低いでしょう。そんな自浄作用が働くならば、同じことを繰り返しません。
「バカヤロー!社長の俺の顔に泥を塗りやがって!」とは、さすがに社長は言わないでしょう。むしろ、「騒動に巻き込まれ、大変だったな」と、高橋さんの上司たちの労をねぎらうようなことを言っていることが考えられます。
Q 労をねぎらう?
ええ、それは十分に考えられます。社長や役員たちも管理職であったころに、部下に長時間労働や過密労働をさせていた可能性があるのです。そして彼ら自身も、長時間労働や過密労働の中、猛烈に仕事をして、役員にまで勝ち上がっていったのです。今回のようなことが起きたとしても、部下に厳しくは言えないのではないか。そんな問題意識に乏しいのではないか、と思えてならないのです。
だから、過労死や過労自殺が繰り返されるのでしょう。これが、こういう会社の体質なのです。そのことに疑問を強く感じる者は、辞めていかざるを得ない。長く残る社員の多くは、疑問には感じていないと思います。賃金も高く、生活水準も高い。自分が犠牲にならない限り、疑問に感じる必要がないのです。
世間の感覚とは違う次元で動いているのが、会社なのです。これは、日本の企業社会で広い範囲で見られるものです。会社はある意味で宗教団体であり、会社教です。そこで働く人の多くは会社病になっていて、つまりは、会社は「カルト集団」なのです。特に、「一流」などといわれる立派な企業で、この傾向が強いように思えます。世間は、こういう会社は高く評価し、称えてきたのです。
■部下のうつ病に思いを巡らせる上司は少ない
Q 報道によると、高橋まつりさんは亡くなる前、精神疾患になっていることを上司らに報告はしていたようですね。その後、仕事は多少、減ったようですが、なおも働いていたという報道もあります。なぜ、電通は、こういう病の人を働かせていたのか、とご想像されますか?
それでも働かざるを得なかったところにも、今の日本企業が抱え込む、大きな問題があるのです。
我々が労働相談を受けると、うつ病になる人はたしかに増えています。しかし、企業の側がそのことに疎いのです。人事部の管理職には、うつ病の社員が増え、さらには、潜在的なうつ病の社員が増えていることを憂いている人がいます。潜在的なうつ病の社員とは、すでに発症しているが、それを上司などに報告していない人のことです。あるいは、発症していると思われる社員のことを意味します。
私は最近、ある会合で、20〜30社をこえる人事部の管理職に聞き取りをする機会がありました。彼らのほぼ全員が、こう話していました。
「全従業員の10〜15%gは、すでにうつ病になっている。潜在的なうつ病の社員を含めると、20〜25%にまで膨れあがるはず」
しかし、現場の管理職たちは、人事部の管理職とは違う論理で動いています。
現場の管理職の中では、部下がうつ病になり、心から心配し、早急に何らかの対策をとる人は少ないのではないか、と私は思います。むしろ、部下が戦力外になり、その仕事を誰にさせるか、とか、部署全体の仕事をどうするか、ノルマや業績はどうなるか、といったことを最優先に考えていると思います。
部下のうつ病の状態や体調のことを真剣に考え、今後のことに思いをめぐらす、立派な管理職は一流企業であろうとも、今はほとんどいません。
部下が上司に、うつ病などの診断書を提出することすら、できない雰囲気が多くの職場にはあるのです。うつ病であることを隠し、働き続けているのです。病院などで薬をもらい、それを飲み、仕事をなんとかしている人が少なからずいます。
■時間内で終えられないほどに仕事量が多い
Q 1歩間違うと、危険なことに思えますが…。
危険すぎることです。ところが、上司などは大量の仕事を与え、長時間労働をさせます。結果として、その社員は心身ともに疲れてしまいます。うつ病の状態がさらに悪化し、最悪の事態になることもありうるのです。ユニオンに相談に来る人の中にも、そのような人はいます。
なぜ、精神疾患になった人は、そのことをきちんと上司などに言えないのか。仕事を大幅に減らしてもらえないのか。休むことができないのか。休業などを早急に申請できないのか。本来、このあたりのことを考えるべきなのです。
しかし、会社の中にある、カンパニー・ユニオンの役員などは関心があまりないようです。少なくとも、経営陣に対し、厳しい姿勢で改善を求めていない。周囲の社員たちも関心がない。世の中も反応は鈍い。
だから、誰にも言えずに抱え込み、長時間労働・過密労働の中、生きていかざるを得ない。そして、過労死・過労自殺は繰り返されるのです。
時間外労働で、私が最近、労働相談を受けたケースを紹介します。ドラッグストアで、経営陣とカンパニー・ユニオンとの間に労使協定がありました。1か月の残業時間の上限を、50時間と決めてあります。それで仕事を終えることができない場合は、その日はタイムカードを押して「退社した」ことにして、その後、仕事を続けるのです。あるいは、家に持ち帰り、仕事をするのです。
カンパニー・ユニオンの役員らは、組合員である従業員たちに、「50時間以内で残業を終えるように」と言います。ところが、時間内で終えることができないほどに仕事の量が多いことを経営陣に説明し、改善を強く求めていないようなのです。
言いやすい組合員には強く出るが、言いにくい役員たちには抗議をしない。これでは、我々、ユニオンとはまるで違う価値観で動く組織であり、労組とは言い難いと思います。
結局、このドラッグストアの長時間残業の問題は残ったままなのです。