不動産価格はまだ上昇するのか? 「トランプ相場」の裏を読む
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161130-34999034-bpnet-brf
nikkei BPnet 11/30(水) 9:43配信
■米大統領選の結果で大きく揺れた日本のマーケット
トランプ相場なのか、トランプラリーなのか、トランプバブルなのか…。米国の次期大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が就任すると決まった瞬間から、マーケットは大きく揺れました。米大統領選挙の開票をにらみながらの東京株式市場では、11月9日の日経平均株価が919円84銭安と一気に急落したものの、翌10日には急反発し、1092円88銭高。トランプ次期大統領への不安と期待が入り混じった相場展開となりました。
株式市場だけでなく、11月は他のマーケットも激しく変動し、「円安・株高・金利高」という3つの現象が同時に起きています。円安・株高の現象は、アベノミクス相場が誕生した2012年秋以降から顕著になりましたが、今回はそこに「金利高」も加わった点が大きな特徴と言えます。
金利については、日銀が2013年4月4日に異次元の金融資緩和政策をスタートさせ、その後、今年1月29日に開催された日銀金融政策決定会合にて「マイナス金利」の導入を決定。9月21日の会合では、金融緩和強化のための新たな枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。
この「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策のうち、『イールドカーブ・コントロール』という金利政策は、長期金利を一定範囲内に押しとどめる目的を掲げています。
つまり、日銀は日本の長期金利(10年物国債の利回り)を常に0%程度に誘導するということになります。
その証拠に、トランプ期待効果により米国の長期金利上昇につれて日本の長期金利も上昇傾向にあった11月17日に、日銀は初の「指値オペ」を実施し、金利が上昇すれば日銀が抑えるという、強い意志を示しました。
低金利下の金融市場では、不動産投資に注目が集まります。最近では、ワンルームマンションからファミリー向けマンションに至るまで、様々な不動産投資に関する広告を目にするようになりました。
■不動産の「異次元緩和バブル」が発生している
不動産といえば、1990年代初めまで、いわゆる「土地本位制」のもとに不動産・土地が日本経済の基盤を形成していました。土地を持っていれば必ず値上がりするという神話があったため、企業も個人も、土地を担保にしてまた別の不動産に投資したり、株式投資をしたりと、資産運用に熱狂していた時代がありました。
ですが、1990年代初めのバブル崩壊によって土地の価格は大きく下落し、企業も個人も損失を抱え、金融機関が多額の不良債権を抱えてしまう時代に変わっていきます。この経済低迷の時代は長く続きましたが、公的資金の導入などを経て、現在では不動産を金融商品の対象とする考え方が広まってきました。
つまり、不動産も株式や債券、FX(外国為替証拠金取引)と同じような投資対象であるという見方です。その不動産投資ですが、最近は特に活況となっており、今や不動産バブルが起きているとまで言われています。
先日取材させていただいた、国内外の資産総額1200億円を取り扱う不動産コンサルタントの福田郁雄氏によれば「今は、不動産の異次元緩和バブルが発生している」とのことです。この不動産バブルの現状については、福田氏の新著にも詳しく記されています。【「不動産バブル崩壊!その時こそがチャンス!5%の勝ち組投資術」(集英社)より抜粋】
毎年1月1日時点における全国約2万5000地点の地価を国が調査する「公示地価」において、東京23区の商業地の最高価格(銀座)はバブル期やリーマンショック前のピークを超えました。一方、他の主要都市の地価は、はるかに低い水準で低迷したままです。 また、首都圏の新築分譲マンションは平均価格が5000万円を大きく超えてきており、特に都区部では6000万円台(2016年7月は6687万円)となっています(株式会社不動産経済研究所調べ)。普通のサラリーマンにはとても手が出ない水準です。
福田氏がなぜ今の不動産市場を「異次元緩和バブル」と呼んでいるのかといえば、先述した日銀による異次元の金融緩和が不動産価格に大きく影響しているためということになります。
そもそも、異次元の金融緩和は長年に渡って日本経済を苦しめてきたデフレ脱却を目的とし、2%(消費者物価指数)物価目標の達成を目指していけば、企業活動も活発化し、個人消費も増加していくであろう――という青写真を描いたものでした。
■不動産バブル崩壊の兆候はすでに表れている?
しかし、企業は積極的に資金を設備投資などに回したわけではなく、個人消費も盛り上がらず、行き場を失ったマネーは結局、不動産市場に流れ込んでしまったというのが現状です。
不動産価格上昇の背景には、このように日銀による異次元の金融緩和があったと言えるのです。
その不動産の「異次元緩和バブル」について福田氏は、「上がったものは必ず下がるため、不動産バブルは崩壊する」と断言していました。実際、その兆候はすでに表れているようです。【「不動産バブル崩壊!その時こそがチャンス! 5%の勝ち組投資術」より抜粋】
東京都心3区における中古マンションの成約平方メートル単価と在庫戸数を見ると、成約平方メートル単価はなお高い水準にありますが、すでに在庫戸数は2年ほど前に底を打って急増しており、リーマンショック後の水準に並んでいます。 在庫が増えれば、市場に出回る売り物件も増えていきます。売れ行きが落ちれば価格調整が始まるでしょう。 また、不動産投資のひとつとして新築アパートの建設があります。2015年1月から相続税が増税になったことで、地主などによる新築アパートの建設が活発になっていますが、その裏では空室が急増しています。空室率の増加はやがて賃料の引き下げにつながり、収支の悪化をもたらすでしょう。
こうして、不動産に関する経済指標を確認すれば、今後、不動産価格が下落するであろうことが想像できます。
また、福田氏は経済指標と共に、日銀短観(全国企業短期経済観測調査)からも不動産市場の今後を読み取ることができると述べています。日銀短観とは、日銀が3カ月ごとに全国1万社の企業を対象に行うアンケート調査です。
■今のトランプ相場は「ハネムーン期間」の前倒しか
各企業は、自社の業況や売上高、収益、設備投資など事業計画の実績と予測値の他、経済環境の現状や先行きについて、日銀短観のアンケート調査項目に答えます。その中に、「金融機関の貸出態度」があり、さらに「不動産業向けの貸出態度指数」という調査項目があります。
この「不動産業向けの貸出態度指数」は、地価の値動きにほぼ連動しているのです。
金融機関が不動産会社に多額の資金を貸し出せば、不動産を買う動きが活発化し、不動産価格も上昇します。一方、金融機関が不動産会社に貸し出していた資金を引き揚げれば、不動産業者は返済するために不動産を売り始め、価格が下落します。直近では、地価に連動するこの「不動産業向けの貸出態度指数」の結果が頭打ちになっているのです。
次回の日銀短観は12月14日に公表される予定ですので、「不動産業向けの貸出態度指数」が落ち込んでいるのかどうかを確認し、今後の不動産市場の動向を見極めたいと思います。
福田氏によれば、「不動産価格も他の金融商品と同じように、上がったものは必ず下がる。上がった時に売り、下がった時に買うのが鉄則。不動産投資においては、利益の80%は売買のタイミングで決まる」とのことです。
次期米国大統領のトランプ氏は、総資産額が数十億ドルの不動産王でもありますが、本業である不動産事業においては、低金利の方が有利であるにもかかわらず、大統領選挙に勝利して以降は、金利が上昇するという皮肉な結果が生じています。
また、新政権発足後の100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれ、マスメディアはこの100日間は新政権に対し批判的な報道を控え、野党もこの期間は新政権も見守る姿勢であるため、マーケット、特に株式相場は堅調に動きやすいとされています。
ただ、新政権発足後の100日間とは、来年1月20日の大統領就任式からの100日間であり、今の大統領選挙後のトランプ相場は、早めに「ハネムーン期間」がやってきてしまったのかもしれない……との声も、市場では少なくありません。
日銀短観が公表される12月14日は、米FOMC(米連邦公開市場委員会)が開催され、米国(FRB)が一年ぶりに利上げを行うかどうかにも注目が集まる日です。来年の株式、為替、債券、不動産、各マーケットの動向を見極める上で、12月中旬に公表される日米の経済指標や経済ニュースは、特に注視したいと思います。