米雇用統計と中央銀行の役割
http://blog.livedoor.jp/analyst_zaiya777/archives/52856526.html
2016年10月07日 在野のアナリスト
米国の9月雇用統計が15.6万人増と、市場予想を下回りました。ただ平均賃金は2.6%上昇しており、新規失業保険申請件数も低位に留まることから、これは人手不足により雇用者数の伸びが限定されている、という形にもなります。これはもう金融緩和ではどうしようもなく、移民を増やすなり、政策対応でしか解決できない問題です。となると12月利上げも現実味を帯びますが、現時点での市場の受けとめは利上げに傾きすぎたこの一週間の巻き戻し、になっています。ポンドの急変動といい、市場の受けとめが最近、一定しません。
例えば市場ではトランプ銘柄と呼ばれる一群の株価が堅調です。それはトランプ大統領を予想したもののようですが、為替はむしろトランプ氏が大統領になるとドル安を志向しやすくなります。FOMCにトランプ氏は口出しできませんが、日本でもそうだったように、政府の関係者を会議に送りこみ、意見を反映する、などはトランプ氏ならしかねない。元々ハト派と目されるイエレン議長も、利上げを急ぐ理由がなくなります。それをこの雇用統計で織りこむのか? ただし、世論調査と市場観測と、最近では整合がつかない動きも目立つ。そこに中央銀行の役割という問題がからみ、今は非常に複雑になっています。
ワシントンで開催されるG20に出席する黒田日銀総裁は「金融政策は絶対的な限界ではない」と述べ、新たな枠組みを説明するとします。「物価2%達成まで強いコミットメント」とも。しかし今、世界の潮流は確実に黒田氏の語るものとは逆、つまり金融政策には限界があり、今の低金利による貸し出しが増えるといった効果はない。マネーフローを拡大しても、インフレには影響しない。日銀の政策を全否定するような議論がされています。
インフレは貨幣的現象には違いないが、それ以上に構造的現象であり、人口動態的現象である、と述べる人もいますが、個人的には「インフレはその国の経済全般の一つの指標でしかない」と考えています。構造的問題、経済政策全般に跨る問題、金融政策の問題、その総合的な形が景気であり、その景気の一つの指標がインフレです。景気がよいからインフレでもなく、悪いからデフレでもない。経済という大枠を考えるとき、今が景気が良好なのか、悪いのか、そのときインフレなのか、デフレなのか、で対応が変わるということです。安倍ノミクス、黒田バズーカはこの時点で、根本的に間違えているといえます。
それでも黒田氏を非難するとことはないでしょう。それはどこかの国のどこかのバブルを崩しかねないから。裏ではバブルを抑制するよう、日銀にも今の緩和策を手仕舞いするよう圧力はあるでしょう。総括的検証で、量から金利に移行したのなら、もっと大胆に量を絞れ。日銀の施策によって、バブルを弾けさせるな、むしろ日銀の方針転換でバブルがはじけるようなら、一気に日銀に対する批判も高まりかねなくなるのかもしれません。
債券運用大手のCEOが「今は株も債券もバブル」と発言し、波紋が広がっています。不動産市場ばかりでなく、株も債券もバブルなら、もう投資先はない。いくら低金利でも、お金を借りても投資先がない。バブルに付き合う自信があるなら別ですが、多くがそうは考えません。日銀がいくら下支えしようと、株式から投資家が消えていく。これは債券市場も同じです。世界全体が高齢化による貯蓄にまい進し、身を守るために身構えています。
悪貨は良貨を駆逐する、グレシャムの法則とも呼ばれますが、金貨、銀貨、銅貨などの含有率を変えて質を落とせば、財政上は助かりますが、人々は質の悪い通貨しか使用せず、良貨は貯めこみ、市場から姿を消すことになります。今の世界経済は、まさに財政の大盤振る舞いで悪貨が増える一方、良貨が姿を消してしまっているのが現状でしょう。このグレシャムの法則、人に対しても用いられます。質の悪い人間がでてくると、その誘惑に圧されて良い人間までダメになる。安倍政権が誕生し、同意人事などを通じて、質の悪い人間がNHKや日銀などにも蔓延してしまった。まさに悪人によって善人が駆逐されてしまったのが、現在です。グレシャムは英国の財政を立て直しましたが、日本ではそういう傑物の誕生は、悪人が駆逐されるまで待たなければいけないのでしょう。コミットメントどころか、すでにコミック(喜劇)ばりになってきた黒田日銀、世界にむけて恥をさらしに行く。G20という場で、一人だけドジョウ掬いを踊るような滑稽さになってきているのでしょうね。