「保育園時代はまだまし。小学校に入ったらもっと大変」という声も(※イメージ写真)
やりがいある仕事と子育ては両立可能か? ワーキングマザーのホンネ〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160902-00000238-sasahi-life
AERA 2016年9月12日号
4月に女性活躍推進法が施行された。だが、ワーキングマザーが十分に活躍できるようになったとは言い難い。
子育てしながら働く女性4人が集まり、現状や改善策を本音で徹底的に語り合った。
【参加者】
Aさん(39):子どもは4歳と5カ月の2人。2人目の育休中。広告会社勤務。「フルコミットしなくても、時間制約があっても、活躍できる仕組みが必要」
Bさん(45):子どもはもうすぐ2歳になる男の子。金融系会社勤務。ポイント稼ぎのために育休を切り上げた経験あり。いまは在宅勤務を活用して働く
Cさん(45):子どもは来年小学校に入学する5歳。会社では広報職で残業もあり、現在は体調不良で休職中。子育てと仕事を両立するには「小1の壁」が心配
Dさん(33):子どもは4歳と2歳。金融機関勤務。出産後もバリバリ働きたい派で、育休後もフルタイム復帰。だが、「家庭が破綻する」という悩みも
* * *
Aさん:私は4歳と5カ月の子どもがいて、今は第2子の育休中です。第1子の育休復帰を機に時短勤務を選択し、事業開発部門から総務部門に異動しました。長時間労働が当たり前の会社環境の中で、ワーキングマザーが成果を出し、上司や同僚と足並みをそろえていくことの難しさを実感しています。
Bさん:私は金融系の会社でダイバーシティー推進担当として働いています。40代で出産して、もうすぐ2歳になる男の子がいます。保活激戦区といわれる東京都世田谷区でなんとかポイントを稼いで保育園に入れたのはいいのですが、勤務地まで片道2時間近くあって復帰直後に「これは持たない」と。上司にかけあって導入されたばかりのテレワークを活用し、今は週2、3日は在宅で働いています。
Cさん:来年小学校に上がる5歳の子どもがいます。産後に転職活動をして、サービス会社の広報として採用されましたが、部署内に私以外に時短勤務をしている社員がおらず、上司からの風当たりも強くて息苦しさを感じています。体調不良で一時休職中です。
●同僚は制限なく働ける
Dさん:金融で働いていて、4歳と2歳の子どもがいます。もともとは子どもを産んでもバリバリとやっていきたい気持ちが強くて、第2子の育休が明けた時も時短ではなくフルタイムで復帰しました。会社に入って10年以上経ち、それなりに成果を上げてきたし、年次的にも昇進が目の前にぶらさがっているので頑張りたかったんです。上司の理解も得られてやりがいのある仕事をいただき、半年ほどやってみたのですが、子育てとの両立に限界を感じてギブアップ。つい数カ月前に「このままでは家庭が破綻する」と上司に異動を申し出て、やりがいは格段に落ちるけれど業務の負荷は減る隣の部署へ。自分の意思に反した決断に、これで本当によかったのかなとモヤモヤしています。
──限界を感じたのはなぜですか?
Dさん:やっぱり周りの働き方と同じようにはできない、というのが大きかったですね。幸い上司が理解のある方で、産前よりは早く帰らなければいけない事情にも配慮してくださったのですが、一緒に働く同僚は夜中まで制限なく働ける若い子ばかり。早く帰ると「私だけ優遇されていると思われているんじゃないか……」と不安になるし、かといって彼らと同じように働くのは無理。第2子の育休復帰から間もない時期に1週間ほど夜中まで残業が続いたら、子どもが情緒不安定になってしまって……。「育児が落ち着いたら元の部署に戻してもらう」という上司との合意のもとで部署を変わりました。でも、その時期がいつになるかも分からないし、上司が代わる可能性だって十分あります。
●本音は「面倒くさい」
Aさん:やりがいのある仕事と子育ての両立、本当に難しいですよね。その理由は、大きな仕事を任せられる条件が「長時間働けること」だからに尽きると思います。気が向いた時にいつでも仕事を振れる部下のほうが使いやすくて優秀だと。ワーママは夜に会社にいないから使いづらいとレッテルを貼られる。でも、実際の仕事を一つ一つ見ていくと、急な仕事の依頼でも12時に指示してもらえれば15時には完了できるケースがほとんど。要はマネジメントの問題じゃない?と思います。私も、育休から復帰後、ルーティン業務から外されて、「中期的な企画業務をお願い」と担当を変えられました。聞こえはいいけれど、予算もつけられていない仕事でした。
Cさん:私は保育園のお迎えの都合で時短を選びましたが、結局は打ち合わせで遅くなったりする日もあるし、仕事内容としてはフルタイムとほとんど変わりません。それでも他に時短社員がいないので“浮いた存在”として上司の標的にされています。会社が業務拡大中ということもあって人手が足りず、「あなたのせいで他の人にしわ寄せがきている」とあからさまに言われたことがありました。そこからエスカレートして「仕事中に私語は禁止。笑うのも禁止」と私だけ注意されるようになりました。
Bさん:それはひどい。いじめじゃないですか? 私の職場も一昔前までは「俺の前で汗をかいてなんぼ」という体育会系上司ばかりでしたが、最近はだいぶ変わってきたなと思っています。整った制度、組織全体の風土、理解ある上司や同僚と、いろんな条件がそろわないと、ワーママが働きやすい環境は整わないのだなとあらためて思います。部下は上司を選べないので、育児に理解のある上司に当たるかどうかで、やりやすさに雲泥の差が生まれますよね。
Cさん:制度はあっても本当に使えるかどうかは上司次第。
Dさん:中途半端に環境が整うことでかえって“やさしくない制度”になっている場合もありませんか? 私の会社では全員にパソコンと携帯電話が支給されて、いつでも仕事ができる環境が整っていますが、稼働時間のすべてが管理されているわけではないんです。子どもを寝かしつけて夜中にメールチェックして仕事をこなしたとしても、勤務時間にはカウントされない。せめてアピールはしようと、深夜のメールのCCに同僚を入れたりもしますけどね(笑)。テレワークって、働いた分の給料は出るんですか?
Bさん:出ますよ。私が使い始めた時のテレワーク制度では週1回が標準だったのですが、いざ復帰してみると「2時間かけてやっと出勤したら、1時間後に保育園から発熱の呼び出し」などというパターンが何回か続いて。上司に事情を話してテレワークを利用できる頻度を増やしてもらった経緯があります。当事者がきちんと働きかけることが大事だなと強く思うんです。私の仕事は「テレワークでも成果を出せる」という結果を残すことだと思っています。上司にも「テレワークだからって評価にバッテンつけたら、制度を使う人は誰もいなくなりますよ」とハッキリ言いました。
Aさん:私も出産前に在宅勤務制度の導入を提案しました。少しでも会社にとって長期的な財産になる仕事をしたいと思ったので。でも管理職にヒアリングしていくと、本音は「面倒くさい」なんだなとあらためて分かりました。部内でたった1人のワーママの働き方を守るために、他の部員から不満が出るのが嫌なんですよね。理解を得るためにいちいち意義を説明するのも手間がかかる。でも、表向きはワーママ社員に対しても“いい人”でいたいから表面上やさしくケアして、結果的にマミートラックへ誘導してしまう。
一同:そうですよね〜。
●誰もが満たされる
Aさん:ついでに言うと、そういう上司の奥さんはたいてい専業主婦。育児と仕事を掛け持ちする生活がリアルに想像できないのだと思います。でも、そんな上司に対して「在宅勤務はあなたも使える制度ですよ」と説明すると、パッと目の色が変わる。要は当事者意識があるかないか。短時間勤務や在宅勤務がワーママだけのものになっているうちは、環境は変わらないと思います。
Dさん:ダイバーシティーとか女性活躍関連の研修に女性だけ呼ばれるのもおかしいですよね。本当に実情を知ってほしいのは、ワーママの対極にいる独身の若手や年配の男性たち。
Cさん:男性が育児の当事者になっていない状況をなんとか変えたいですよね。育児している人の半数は男性のはずなのに、会社の中でまったく存在が見えてこない。育休に関しては男性の取得義務化なんて議論も出てきていますけれど、育休明け以後に続く育児への参加も大事。「週に2回は父親が保育園へ迎えに行かなければならない制度」とか。冗談みたいですけど、それくらいの強制力がないと変わらないかも。
Aさん:ワーママが楽をするのは許されないような雰囲気があるのも気になります。仕事しながら育児していると、純粋にホッとできるのって平日のランチタイムくらいじゃないですか。その貴重な時間を楽しんで、食事中の笑顔の写真をSNSにアップしたら職場の反感を買ってしまったという知人がいて。私の周りでは「ワーママのフェイスブック離れ」が加速しています。
Dさん:分かります。いろんなことを犠牲にして必死にギリギリで頑張って、ようやく許されるような感覚がありますよね。
──「やさしくされない」理由は何だと思いますか?
Aさん:私の実感ですが、きちんと成果を出している人は淡々と自分の仕事をしていて、ワーママを敵視しない。一番つらく当たってくるのは、毎日遅くまで残業しているのに成果が出せない人かな。そういう人からすると、時間制約のあるワーママに成果を出されると「お前たちは何やっているんだ」と批判されることになる。だから、在宅勤務のようなワーママ支援策にも否定的な意見を言うことが多い。そんな気がしてならないんです。
Bさん:誰もが満たされることがきっと大事なんですよね。全員が早く仕事を切り上げて帰れる働き方が浸透すれば「あの人たちだけなぜ」とはならない。
Cさん:ワーママが職場に登場すると職場全体が効率化しますよね。だったら最初から全員が効率化を目指せばいいのに。
Bさん:その通り!
●「ワーママ専用」は満杯
Dさん:現状は出産すると「ワーママはこちらへ」みたいな部署に異動する人が続出で、その部署ももうパンパン。産前と同じように仕事を頑張って続けようとすると、同僚にもお客さんにも「即対応できずにすみません」、子どもにも「ご飯がコンビニでごめんね」、夫にも「忙しくなっちゃってごめん」と皆に謝ってばかりで、心が折れそうになる。
Cさん:私も、味方だと思っていたシッターさんから「うちの娘は出産したら仕事を辞めますよ。できた娘なので」と言われた時にはすごく落ち込みました。
Dさん:褒められるとしたら「子どもがいるのに夜遅くまで仕事をしてエライですね」と。でも、「遅くまで働くからエライ」はちょっと違う!
Aさん:例えば一日7時間労働に規制して、超過分の残業代を今よりかなり高く設定するとか、デフォルトの長時間労働を是正する法整備は必要ですよね。私たちワーママ自身がやるべきことももちろんあって、周りと同じだけのアウトプットができる努力をしなければ。
Dさん:そう。ワーママも一枚岩ではなくて、「私は毎日17時に帰ります。ここまでしかできません」と権利だけを主張するぶら下がり社員もいますからね。
Aさん:理想は「フレックス+在宅勤務」のような柔軟なワークスタイル。子どもに負担をかけない勤務時間を基本としながら、どうしても業務に集中しなければいけない時期には夜も対応できる働き方だったら、皆と同じ土俵で成果を出しやすいと思うんです。「今日は遅くまでやるぞ」という時には送迎付きの夜間一時保育が便利なので、もっと増えるといいなと思います。
Cさん:保育園が夜に対応してくれるのはありがたい半面、「いったいどこまで頑張ればいいの?」という葛藤もあります。「遅くまで預かってくれるんでしょ」とますます長時間労働が助長される気もしますし、子どもの負担も大きいですよね。学童保育が保育園より早く終わってしまう、小学校生活とのギャップも開くばかりで、来年迎える“小1の壁”がますます怖い。
●「小1休業」を切望
Dさん:私も娘が再来春入学なのですが、今から不安でたまりません。出産のために休業するように、子どもの小学校入学から夏休みまでの時期に集中して子どもに向き合うために、一時休業できる制度ができないかと本気で切望しています。
Cさん:「小1休業」、賛成です。第1子の就学に合わせて第2子の育休を計画する人も結構いますよね。それくらい働く親にとって切実な問題になっていることを知ってほしいですね。
──後に続く女性たちにはどんな姿を見せたいですか?
Aさん:短時間でも成果を出せるという姿を見せていきたいです。
Dさん:私も同じです。今の職場でどうしたらそれが可能になるのか、まだまだ模索中です。
Cさん:低い目標かもしれませんが、会社を辞めずに働き続けること。辞めたら道が途絶えてしまうと思うから。
Bさん:私たちの先輩方がそうしてくださったように、私たちも勇気をもって会社に働きかけることで、後進の道を開ける存在でありたいですよね。働き方の問題が政府でも議論されたり、企業のダイバーシティー研修もこれだけ盛んだったりと、追い風は感じています。「もう降りようか」と諦めかけている人にも手が差し伸べられる世の中になっていくと希望を持ちたいです。
(構成/ライター・宮本恵理子)