大事なのは目的 貯蓄とダイエットの共通点
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2016/9/2 ファイナンシャルプランナー 風呂内 亜矢 NIKKEI STYLE
ダイエットをしようと思うのはどんなときでしょうか。健康が気になるとき、好きな洋服をすてきに着こなしたいとき、対人関係で好感を持たれたいときなど、色々理由があるかもしれません。
「減量そのものを楽しむ」というゲーム感覚よりも、むしろ「体重を減らしたその先に実現させたい生活」があるからダイエットを頑張るのではないでしょうか。ですから、もし痩せたとしても健康を害したり、自分が願った容姿とかけ離れたりしてしまったら、ダイエットが成功したとはいえないでしょう。この話は、お金と共通点があります。
■手段と目的が逆転
ダイエットでも減量そのものが目的であると錯覚してしまうことがありますが、これをお金に当てはめると「貯蓄額を増やすこと」が目的化してしまう人が結構、多いのです。
同じ収入なのにより貯金をしている方が偉い、お金を使わない生活の方が偉い、そんなふうに思ってしまうこともあります。確かに同じ収入なのに貯金が多いことや、少ないお金で生活ができることは「すごい」ことではありますが、「偉い」とは違うといえそうです。自分の幸せにつながる選択肢なのかどうなのかと考えると、そうでもないこともあるでしょう。
大学を卒業して60歳まで働き、日本人女性の平均寿命86歳まで生きる場合、働いてお金を稼ぐ期間は38年、給与は得ないけれど消費を続ける期間は26年となり、ひたすら消費を続ける期間も意外と長いことがわかります。
38年の間に稼いでいるお金をすべて使ってしまうのは心細く、これから迎える26年間に備えてある程度の貯蓄をすることは確かに大切です。
日々の生活は忙しくお金のことばかり考えているわけにもいきません。意識をしなければ「今月入ってきたお金は今月使えるお金」と考えてしまいがちです。こうした危険を回避するため「貯金は大切」といわれます。
しかし、長期的にみてお金に困らない算段が立つようであれば、本当は貯金そのものが大切なのではなく、願う生活や幸福を得ることが目的のはずです。貯金は手段であって、目的そのものではありません。
■貯金をしていても苦しい人
目的を見失って貯金を続けていたり、貯金に義務感を持ったりすると息苦しく感じることがあります。将来を見越して心穏やかに生活するために貯金をしようと考えたのに、貯金に気持ちを奪われて、いつも不安や「貯金ができない」という罪悪感を持ってしまうようだと逆効果ですね。
貯金を始める前に、なぜお金をためたいのか、ためる必要があるのかを考えると気持ちが明るくなったりやる気が湧いたりします。
時計を買いたい、旅行に行きたい、安心して転職活動をしたい、といった近い将来を想像してもいいですし、生活に変化があっても慌てずに安心して生活するためといった長期的な目標を定めてもいいでしょう。お金をためる理由を決めることで、必要な貯蓄額や毎月の貯蓄額を設定するといった具体的な行動につなげやすくなります。
必要な金額をためる、貯金するために積み立ての設定をするなどの行動を起こしたら、残りのお金は心置きなく使えるようになります。貯金ができていないという後ろめたさを持ったままだと、好きな物を買ったとしても本当に良かったのかと戸惑い、喜びが半減してしまうことがあります。
いまお金を使う喜びも、将来の不安をなくすことも両方手に入れるためには、使ってもいいお金をはっきりさせることが有効です。
ちなみに貯金がプレッシャーにならない人なら、貯金そのものをゲームのように楽しむのも悪くありません。それ自体が目的になったからといって、ダイエットほど危険なことも少ないでしょう。
お金をためても不安が消えない、貯金ができないことに罪悪感があり、いつも楽しくお金を使えないという悩みがある人は、まずお金をためる理由を整理してみると気持ちが晴れるのではないでしょうか。
風呂内 亜矢(ふろうち・あや) 1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、宅地建物取引士。26歳でマンションを購入したことをきっかけにお金の勉強を始める。2013年ファイナンシャルプランナーとして独立。著書に『その節約はキケンです―お金が貯まる人はなぜ家計簿をつけないのか―(祥伝社)』『デキる女は「抜け目」ない(あさ出版、9月刊行予定)』などがある。管理栄養士の資格も持つ。公式サイトhttp://www.furouchi.com/