【医師の匿名座談会】患者にはすすめても、自分の家族には絶対やらない「手術と薬」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49344
2016年08月05日(金) 週刊現代 :現代ビジネス
■糖尿病のベイスンも危ない
外科医A いまだに風邪の患者にクラビットなど抗生物質を出す医者がたくさんいるようですね。このあいだの伊勢志摩サミットでも、日本の医療現場で抗生物質が無駄に使われていることが問題になったというのに、ひどい話です。
開業医B 私も自分の家族や知り合いには、風邪で抗生物質は出しませんよ。風邪の原因はウイルスで、黴菌を殺すための抗生物質を飲んでも何の効果もないことは明らかです。
でも開業医の立場から言わせてもらうと、薬を出さないと納得しない患者が多いのです。「長い時間待たされたのに、薬もくれないなんて」と怒り出す患者も多いですからね。
内科医C 私はそういうときには、診察室でのトラブルは避けたいのでメチコバールを出しておきますよ。ビタミンB12を主成分とする薬で、関節痛、頭痛、貧血、なんにでも効くように言われていて、副作用も少ない。でも副作用が少ないということは、主作用も少ない、つまり飲んでもあまり意味がない薬ということです。
ただ、薬というのは不思議なもので、患者が効くと思っていたら本当に効く「プラシーボ効果」がバカにできない。パン屑をまるめて降圧剤だと信じ込ませて患者に飲ませたら、本当に血圧が下がったという有名な実験があるくらいです。
開業医B そうそう。だから医者の家族で薬を出されないよりも、何も知らずに意味のない薬をありがたがっている患者さんのほうが幸せかもしれませんよ。
外科医A 都内の民間大病院の心臓外科医。典型的なエリート
開業医B 首都圏で内科・耳鼻科のクリニックを開業する
内科医C 大学病院の内科医。製薬業界の内情にも詳しい
外科医A 私はそんな無駄な薬を出して、がっぽり儲けている開業医はどうかと思いますが。医療費の無駄遣いです。医師会が強いので難しいですが、いずれメスを入れないと国の財政も立ちゆかなくなりますよ。
内科医C 毒にもクスリにもならないものならいいですが、なかには危険な副作用のある薬もありますから、生半可な知識で処方するのはやめてほしいですね。
例えば糖尿病薬はたくさん種類があるので、なかなか難しい。α-GI(ベイスンなど)という種類の薬がありますが、私はこれはあまりよくない薬だと思います。腸からの糖の吸収を遅らせるのですが、ヘモグロビンをほとんど下げないわりに、お腹が張ったり、便秘や下痢の副作用がある。
でも、糖尿病に詳しくない整形外科の医者などが、「とりあえずベイスンを出しておくか」という感じで処方している。身内どころか、自分の患者にはまず飲ませませんね。
■インチキ開業医に気をつけろ
開業医B アクトス(チアゾリジン系)も怖い薬みたいですね。
外科医A アメリカでは膀胱がんが発症するリスクを隠していたということで、大問題になった。結局、製薬会社は24億ドル(約2800億円)もの和解金を支払いました。
フランスやドイツでは新規処方が禁止された。
内科医C 海外で禁止されているから危ないというのはどうですかね。アクトスは日本の製薬会社が開発した薬なので、海外の巨大製薬企業がロビー活動をして潰したという噂も聞きましたよ。逆に言えば、日本発の薬だから日本では処方され続けているという面もありますが……。
開業医B でもそんないわくつきの薬を処方していたと患者さんにばれたら、あとで何を言われるかわかりません。私の病院では処方したくない。
内科医C 日本では薬を処方することでの訴訟は起きにくいですが、むしろ薬をやめて症状が悪くなったときのほうが訴訟リスクが高い。だから一度始めた薬をやめるのは面倒くさいし、医者は嫌がるんです。
開業医B うちの病院は耳鼻科もあるのですが、よく問題になる薬があります。ステロイド注射のケナコルトです。花粉症の患者に処方されている場合がありますが、これはもともと火傷やリウマチの治療薬です。
花粉症のシーズン前に一度、注射しておけば大丈夫ということなんですが、それは注射後3ヵ月間も体内にステロイドが残っているからで、腎臓への負担が大きい。耳鼻咽喉科学会では望ましくない治療だと注意していますが、耳鼻科以外の病院が花粉症予防にと注射しているケースがあるようです。
外科医A そもそも開業医は自分の専門でない薬を安易に処方しすぎる傾向があります。これは日本の医療制度の問題ですが、開業医は自由に診療科を標榜できるのです。
だから内科の看板をかかげている医者が、高血圧や糖尿病に詳しいとは限らない。例えば、「内科、小児科、皮膚科」なんて看板を出していれば、おそらく医者はもともと皮膚科が専門なのでしょう。しかし、それだけでは患者が来なくて儲からないから複数の看板を掲げているのです。
内科医C そういうところでは治療ガイドラインに沿って、マニュアル化した薬の出し方しかしませんよね。患者をきちんと診て、薬を加減することもない。
外科医A 面白い話を聞いたことがあります。美容整形のクリニックには精神科を併せて掲げているところが多い。それは美容整形にのめりこんでいくような人は、精神的にもバランスを崩して、「ついでに睡眠薬も出してほしい」「最近、うつっぽいのですが」と訴えるケースが多いからだそうです。そのときに精神科の看板さえ掲げておけば、指導料が取れる。
美容整形と精神科は専門領域はかなり遠いはずなのに、おかしな話です。そういう病院で、精神病に詳しくない医者に適当な処方をされるとひどい目に遭います。
■腹腔鏡手術の落とし穴
開業医B たしかにうつ病や統合失調症の薬は処方に細かい配慮が必要です。症状が改善しないからといって、次から次へと多剤投与されて、ますます症状が悪化する。
抗うつ剤のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤、パキシル、デプロメールなど)は離脱症状(禁断症状)があるので、やめたくてもなかなかやめられません。身内に投与するには相当の覚悟が必要です。
内科医C 認知症薬も投与が難しい。アリセプトが代表的な薬ですが、認知症を専門としていない神経内科などでは滅茶苦茶な処方をして、患者が攻撃的になったり、不整脈が出たりする。
65歳未満の若年性認知症の患者には認知症薬をすすめますが、80歳を過ぎたような高齢者の場合は、薬に頼るよりも家族や社会との関わりを増やして工夫をするほうが、よほど認知症の進行を遅らせるのに効果があります。
開業医B 結局、本人のためになる認知症の薬なんて、ほとんどありませんよ。私の場合は、介護している家族のことを思って薬を出している。一晩中、大声で歌を歌って家族が眠れないというような場合に睡眠薬を出すくらいです。これは患者のためではなく、家族のためです。
内科医C 身近な薬では胃薬のPPI(プロトンポンプ阻害薬、タケプロン、ネキシウムなど)も飲まれ過ぎている印象があります。昔は単に「胸焼け」と呼んでいた症状に、わざわざ「逆流性食道炎」という病名をつけて薬を売ろうとしている。
でも、そもそも胃酸は身体の中に入ってきたものを殺菌・消毒するために必要なのです。薬を飲み続けて胃の中を中性にしてしまえば、悪いものが腸まで直接届いてしまいます。PPIの効果をよく理解せず、ずっと飲み続けている人がいるのですが、胸焼けなどの症状が治まったらすぐにやめたほうがいい。飲み続けると骨粗鬆症になるというデータもあるくらいですから。
開業医B 話は変わりますが、先日80歳を超える父に肺がんが見つかりました。まだまだ自分で歩けますし、手術を受ける体力もあると思うのですが、本人が「もう十分に生きてきた。今さら体にメスを入れるのは嫌だ」というので、放射線治療をすることになりました。
外科医A 体力が十分なら手術も可能だと思いますがね。
内科医C 外科医はすぐに切りたがりますね。
外科医A いえ、ケースバイケースですよ。でもやはり、肺を切除すると術後に体力が大きく低下するので、本人の意思を優先してあげるのが一番だと思います。大腸がんなら、私は切ることをおすすめしますがね。
内科医C 内科医の立場からは抗がん剤治療ということになるのですが、さすがに80歳を過ぎてから重い副作用と戦うのは大変です。高齢者のがんは延命よりもQOL(生活の質)を優先して治療するのが正解だと思います。
開業医B 前立腺がんもそうですね。進行が遅いですし、術後に勃起機能を失ってしまうケースもある。自覚症状がなければ放っておいてもいいがんの代表格です。
外科医A でも最近ではダ・ヴィンチという最先端の手術支援ロボットがあり、かなり機能を温存できるようになっていますよ。
内科医C ほら、やっぱり切りたがる。
開業医B ダ・ヴィンチを扱うのも相当技術が必要になりますよね。
外科医A もちろん、私もきちんとした施設で、技術のある外科医のもとでないと受けたくない。ただ、前立腺がんは全部放置しておけとなってしまえば、医療否定になりますから。我々だって医療の進歩に貢献しているんですよ。
もっともヘタな医者がやる腹腔鏡手術を見ていると、医療技術の進歩が必ずしも患者のためになっているか不安になるときもありますがね。
内科医C 腹腔鏡は傷が小さいと言いますが、けっこう痛いですから。私も昨年、大腸がんの手術を受けました。
外科医A 腹腔鏡がもてはやされるようになってから、開腹手術は時代遅れみたいに言われてますが、とんでもない間違いですよ。手術は美しく合理的に、患者にとって最小の負担で行うべきもの。技量のある外科医にとっては、患者の内臓の状態がよくわかり、急な出血にも対応できる開腹手術が安心なのです。
■心臓カテーテルに要注意
開業医B 結局は手術の部位や進行度によって、いろいろな術法があるし、それができる技量があるかどうかも重要な問題。理想の外科医を見つけるのは本当に難しいです。
外科医A 外科医が皆、ゴッドハンドなわけではないですからね。心臓外科医が皆、天皇陛下の執刀医になった天野篤氏のような技量を持っていればいいでしょうが、そうもいきませんから。
内科医C 天野さんといえば心停止をせずに冠動脈のバイパス手術を行う「オフポンプ・バイパス手術」が有名ですね。
外科医A 非常に高度な手術で、もはや芸術の域ですが、果たしてこのような手術が一般的に行われるべきなのかというと、別の問題だと思います。
外科手術には二つの領域があります。天才的な医師が行うとても高度な手術。もう一つは、誰でも比較的安全に行える安価で良心的な手術。誰もが前者の手術を受けられるわけではありません。
開業医B 経験の少ない外科医がオフポンプをやると言い出したら、私なら逃げ出しますよ。
内科医C その点、内科医が行うカテーテル手術は比較的安全です。詰まった血管に細い管を通して、ステントを置いてくる治療です。
外科医A いや、カテーテル手術は内科医の都合で行われることが多いから気を付けたほうがいい。ステントを置いてきたはいいけれど、結局また詰まって、どうにもならなくなってから外科に助けを求めてくるケースが多いから。
内科医C 内科としてはできるだけ低侵襲(体に負担をかけない)の治療を目指していますからね。なんでも「切った貼った」の外科とは違う。
外科医A ただね、内科が何度もカテーテルを通した血管はもろくなっていて、あとでバイパスを通すのも大変なんです。
開業医B まあまあ、お互いに患者のためを思っていることは事実ですから。ただ、無駄な治療や手術が患者の寿命を縮めてしまうということも本当でしょう。
ひどい場合は、病気を防ぐはずの検査のせいで死期を早めてしまうこともある。いい例が脳ドックです。
検査を受けて、まだ破裂していない小さな脳動脈瘤が見つかったとする。これはいつか破裂するかもしれないし、しないかもしれない。でも見つかった以上、不安なので取りましょうということで手術して失敗し、半身不随になってしまうこともある。
内科医C 今の健康診断システムは本当に無駄が多いですからね。私の家族は人間ドックも受けてません。
開業医B 患者の意識が変わらないと医療の仕組みも変わりません。もっと医療に関心をもって、賢い患者になってほしいと思います。
「週刊現代」2016年8月6日号より
http://www.asyura2.com/16/iryo5/msg/238.html