要介護になる老人、共通して不足していたものとは?
Business Journal 7月21日(木)6時2分配信
超高齢社会の健康問題の核心である「老化」は、一生涯にわたる対策で取り組まなければならないことに気づき始めた方も多いと思う。老化に対する耐性を身につけるために、若い頃の筋肉量を増やす運動(スポーツ)の経験が大きな役割を果たすのはその好例である。
しかし、若い頃にいかに運動に打ち込んだとしても、悲しいことに私たちの体の筋肉量は30歳から70歳までの40年間で10年ごとに3〜8パーセントずつ減少することがわかっている。そして70歳以降はさらに減少率が指数関数的に上昇する。この減少は老化によるものであるが、個人差が極めて大きいのが特徴である。
そこで、筆者らはこの差を生む原因を特定するため地域の元気なシニアの方々の協力を得て、老化の進む速度を決めているライフスタイルをはじめとするさまざまな要因を明らかにする研究をこれまで続けてきた。
病気の発症リスクを高める原因をみつけだす研究では、調査開始時に体の医学的プロフィールやライフスタイルなどを一斉に調べ上げ、その特徴であらかじめグループ分けしておく。そして、標的にした病気の自然史に合わせた追跡期間を設け、どの特徴のグループから発症するかチェックすれば原因を特定できる。
これに対し、老化研究は身長であればその縮み具合が問題になるため、調査の参加者全員に対して定期的に同じ計測器を使って測定し続けなければならない。研究の参加者への負担が大きく膨大な研究費がかかる大変さがある。
しかしながら、30歳頃を起点に進み始める老化は、病気と違い普遍的な変化のため、病気の原因をみつけだす研究ではまずはみえてくることのない、生涯私達が実践しなければならない良好な生活習慣や人間としての生き方の本質を垣間みることができる。
●老化の速度と体のたんぱく質栄養レベルに密接な関係
本連載で、「老化とは栄養失調になってゆく変化」と表現したが、研究が進むに従い、漸次進行する老化の速度と体のたんぱく質栄養のレベルが予想以上に密接に関係し合っていることがわかってきた。
そこで、老化のレベルが鋭敏に反映される最大歩行速度とたんぱく質栄養の相関関係を示すデータを紹介しよう。体のたんぱく質栄養を評価する指標にはさまざまなものがあるが、精緻な量反応性(dose-response)を備えた指標として血清アルブミンが最良である。
量反応性とは、わずかな数値の差でも、表出する変化に違いがみられることをいう。なお、血清アルブミンの詳細については次稿で解説する。
地域の元気なシニア約350名の協力のもと行った8年間の縦断研究である。初回調査で採血し血清アルブミンを測定して、値の高くたんぱく質栄養の良いグループ(4.3g/dL以上)、中位グループ(4.2〜4.1g/dL)、低いグループ(4.0〜3.8g/dL)に分け、その後8年間の各グループの最大歩行速度が低下する程度を比較した。
その結果、たんぱく質栄養の良いグループに比べ、低いグループは約40%最大歩行速度の低下量が大きいことが明らかになり、中位グループはその中間の20%程度の低下量であった。血清アルブミンと最大歩行速度の低下の関係は直線的なこともはっきりした。たんぱく質栄養の良いシニアほど老化の速度が遅く抑えられ、足腰の衰えがわずかで済んでいることを示している。
この関係は、運動習慣があるかないか、年齢は何歳か、あるいは太っているか否かなど他にも関係している項目の影響を加味酌量しても、変わらない明瞭なものだった。たんぱく質栄養が良好なシニアほど、体の虚弱化が予防され要介護リスクが低いのである。
この縦断研究で示された老化とたんぱく質栄養の関係は、その後アムステルダム在住のシニア集団の研究でも確認され、現在では国際的な共通認識となっている。最近、健康食品の広告で「たんぱく質」という栄養用語を目にすることが多くなった。筆者にとっては遅ればせながらの感は否めないが、よい潮流である。
(文=熊谷修/人間総合科学大学教授)
最終更新:7月21日(木)6時2分
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160721-00010004-bjournal-soci&pos=1