伊勢神宮での植樹を終え、正殿へ向かう(左から)安倍首相、三重県の鈴木英敬知事、イタリアのレンツィ首相、オバマ米大統領=26日午前11時32分、三重県伊勢市(代表撮影)
忠実な債権国日本をなめたらいかんぜよ トランプ氏が優勢になるほど広がる恐怖
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160527-00000502-fsi-bus_all
SankeiBiz 5月27日(金)11時17分配信
いよいよ今日、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の開幕だ。テーマは「世界経済の潜在リスク共有」と議長国の日本政府筋は言うが、最大のリスクとはどうやら米大統領選で共和党の候補指名をほぼ確実にしているドナルド・トランプ氏のようだ。日本国内では、トランプ氏の在日米軍全額負担要求、日韓の核武装容認や日本製品に対する高関税が論議を呼んでいるが、米欧の市場関係者の間では、今後、11月の大統領本選にかけて、トランプ氏が優勢になればなるほど「世界不況が引き起こされる」との恐怖が広がりつつある。
問題視されるトランプ発言とは、中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)にドルを刷らせて、借金つまり国債の返済に回すというアイデアだ。FRBのイエレン議長がそれを拒否すれば、首をすげかえる、とまでトランプ氏は公言するほどご執心だ。この案は荒唐無稽だと切り捨てるわけにいかないし、妙に現実味がある。故ミルトン・フリードマン・シカゴ大学教授の弟子、ベン・バーナンキ前FRB議長が提案したことがある「ヘリコプター・マネー」政策のトランプ版である。ヘリマネーとは中央銀行がカネを刷ってヘリから民間に向かってばらまく、というフリードマン教授作の寓話(ぐうわ)に基づくが、要は財政資金を中央銀行が創出し、供給するので、トランプ案はその範疇(はんちゅう)に入る。
FRBは既存の金融政策の枠組みの下でドルを刷って市場に流通する米国債を大量に買い上げてきた。トランプ案はこの仕組みを応用して、FRBがドルを刷って国債という借金の返済に回すわけである。となると、政府は債務から解放されるばかりか、新たに発行した国債もFRBが発行するドルで元利払いが行われる。「トランプ政権」が実際に発足すれば、米国政府は債務を増やさずに国債を発行し、中間所得層以下への減税財源とする政策が実行されかねない。白人中間・貧困層の救済をうたって喝采を浴びているトランプ候補にとってまさに、この上ない秘策となる。
トランプ流ヘリマネー政策で予想されるのは、外国の対米債権国の狙い撃ちだ。米市場で流通する米国債の発行残高は昨年末で11.2兆ドル(約1200兆円)に上る。そのうち6割近くの6.1兆ドルを外国当局・国際機関が保有する。国債は通常、税収を担保にしているから、おのずと財政規律を伴うので投資家に信用されるのだが、「紙幣輪転機を回してあなた方への借金を返す」と言われて「はいそうですか」と受け入れるお人よしがいるだろうか。トランプ氏は、ドルが世界の基軸通貨だから、たとえ無理難題を言おうと、世界の誰もが保有せざるを得ないと高をくくっているかもしれないが、傲慢すぎる。
中国は、トランプ氏が大統領候補に正式指名されたら、さっさと米国債を売り逃げるだろう。習近平政権はもともとドル依存から脱却するために、人民元の国際化戦略を展開している。莫大(ばくだい)な国富であるドル資産が目減りするのを放置すれば、習氏の責任問題になりかねない。それに、実体経済は事実上マイナス成長が続き、国有企業や地方政府の債務が膨張している。ドル資産が紙切れになれば、中国経済が根底から揺らぐ。日本は同盟国として、中国にすぐに同調するのはためらうに違いない。外国の米国債保有は、中国1.2兆ドルで世界最大、日本1.1兆ドルで次ぐ。日中とも米国債を見限れば、米国債は暴落、株式市場にパニックが広がるので、日本としては売りたくても売れない。
伊勢志摩で先進7カ国(G7)が正面切って足並みをそろえ、トランプ氏牽制(けんせい)というわけにもいくまい。せいぜい、「国際金融市場の安定で協調する」というお経を繰り出すのにとどまるだろう。ならば、日本が迅速に対応するしかない。作家の石原慎太郎氏と亀井静香衆院議員はトランプ氏の日米安全保障関係に関する「暴言」に対し、「なめたらいかんぜよ」(石原氏)と凄(すご)み、「トランプではなく、花札を持っていつでも会いに行く」(亀井氏)と腕まくりしている。両氏が言うべきは、「忠実な債権国日本をなめたらいかんぜよ」ではないか。(産経新聞特別記者 田村秀男)