Business | 2016年 05月 17日 18:26 JST 関連トピックス: トップニュース, ビジネス
焦点:G7仙台会合、財政出動協調は困難 注目は為替の温度差
[東京 17日 ロイター] - 主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議が20日、仙台市で開幕する。議長国の日本は、世界経済の不透明さを踏まえ、先進国が協調する姿を打ち出したい考えだが、各国の金融や財政に関する姿勢は異なり「最大公約数的な認識の共有にとどまる」(政府筋)可能性が高い。
日米の温度差が指摘されている為替について、踏み込んだ議論は行われない見通しだが、会合後の日米財務相らの発言に注目が集まりそうだ。
<財政出動めぐる認識に溝>
「G7がいかにして協調して立ち向かうかが、大きな論点だ」──。麻生太郎財務相は17日、閣議後会見の場でG7の結束を呼びかける姿勢を示した。
仙台会合では世界経済全般に加え、難民問題や「パナマ文書」を踏まえた租税回避問題も議題になる見通しで、翌週の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)につなげる。
焦点の1つは財政政策をめぐる議論だ。安倍晋三首相は伊勢志摩サミットで、各国に機動的な財政出動の必要性を訴えたい考えだが、ドイツや英国は慎重姿勢を崩していない。
麻生財務相も、ドイツにとって財政出動は「そんなに簡単な話ではない」と述べるなど、G7が財政拡大路線で一致する可能性は低い。
20カ国・地域(G20)でも確認されている「債務残高対GDP比を健全な道筋に乗せつつ、機動的に財政政策を実施する」との認識以上には、踏み込めないとの指摘も国際金融筋から出ている。
このため世界経済には引き続き下振れリスクがあるとの共通認識の下で、持続的成長に向けた主要国の結束をアピールするとみられる。
具体的な手段は「金融、財政、構造政策を個別または総合的に用いる」とのG20合意の枠組みの中で、各国が独自に選択するとの考えが踏襲されそうだ。
<「リスク高い」為替議論>
為替をめぐる議論も必要に応じて行われる見通しだが、足元の動向や水準などには触れず「過度の変動が経済に悪影響を与えうる」(4月のG20声明)ことを追認する程度にとどまる公算が大きい。
4月のG20の際には、為替に関して麻生財務相が「一方的に偏った動き」と指摘した一方、ルー米財務長官が「為替市場は秩序的」と述べ、日米の温度差が鮮明になった。
今回、G7の協調や結束を前面に打ち出したい議長国の日本にとって、為替をめぐる議論は「各国の食い違いが表面化するリスクが高い」(政府筋)ため、踏み込んだやり取りは行われない可能性が高い。
もっとも、米財務省は4月の為替報告書で日本などを監視対象に指定。米財務省高官は16日、為替相場はこの数カ月間、秩序があるとの見解を示すとともに、全ての国は通貨安競争の回避を盛り込んだG7などの声明を順守する必要があると述べている。
仙台会合において、ルー財務長官がG20で合意した「通貨の競争的な切り下げ回避」に言及しつつ、日本を間接的にけん制するような発言をするのか、注目度が上がっている。
一方、麻生財務相とともに議長を務める黒田東彦日銀総裁は、1月に導入を決めたマイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)が国債や貸出などの金利低下を促すなど金利面での効果がすでに出ていると強調。今後、実体経済や物価面にその効果が波及していく点を説明する見通しだ。
伊勢志摩サミットでは世界経済が最大のテーマとされ、仙台会合の果たす役割は大きい。「パナマ文書」に国際的な関心が高まる中、租税回避の問題について、多国籍企業の課税逃れを防ぐための「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」をリードしてきた日本には「一日の長がある」との自負があり、得意分野を生かし議長国として議論をリードしたいとの思惑もある。
ただ、マクロ政策の面で、具体的な協調行動で合意を形成するためのハードルは高く、G7の結束を明確に示せるか議長国・日本の力量が問われそうだ。
(梅川崇、伊藤純夫 編集:田巻一彦)
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http://jp.reuters.com/article/focus-g-idJPKCN0Y80YP?sp=true
FX Forum | 2016年 05月 17日 19:32 JST 関連トピックス: トップニュース
コラム:「ドル100円割れ」リスク後退の根拠=鈴木健吾氏
鈴木健吾みずほ証券 チーフFXストラテジスト
[東京 17日] - 2週間後の週末、米国で5月雇用統計が発表される。振り返れば約1年前の6月5日、米雇用統計の結果を受けてドル円は高値125.86円を記録したが、その後は徐々にドル安円高に転じると、今月3日には105.55円と20円以上もの下落を示現する動きとなった。
この間様々な材料があったが、今後を考えるためにもここで一度、これまでの主な材料を棚卸ししてみたい。
125.86円を記録した3営業日後、黒田日銀総裁が衆院財務金融委員会で「実質実効為替レートがさらに円安に振れるとは普通に考えればありそうにない」と発言した。黒田総裁の意図はいまだに不明だが、日銀が市場の政策期待を利用した政策運営を実施してきたなかで、市場は日銀が円安阻止へ方針転換したととらえた可能性が高く、その後の下落の起点となった。
しかし、直近5月2日に黒田総裁は「今のような円高は経済にとって好ましくない」と発言するなど円高阻止姿勢をみせており、再び方針転換したようだ。
昨年は7月にかけて、ギリシャが金融支援受け入れをめぐる国民投票を行った。支援条件である緊縮反対票が賛成票を上回るなか、同国のユーロ圏離脱やデフォルトが現実味を帯び、一時的なユーロ売りやリスク回避の円買いにつながる場面もあったが、その後7月半ばまでに支援側と合意に至り、結果として為替市場への影響は限定的にとどまった。
6月頃から上海総合指数は下落基調を強めていたが、8月に入り中国人民銀行が人民元の対ドルレート切り下げに動いたことをきっかけに中国経済に対する懸念が強く意識され、世界中の株価が乱高下するなど、金融市場の大きな混乱につながるとともに、リスク回避から円買い圧力となった。
中国に関しては今年1月にも経済指標の悪化や上海株の急落、人民元の切り下げ容認姿勢などから、再び混乱の火種となる場面がみられている。これに対し、中国当局は株式市場を監視し、人民元の安定推移を継続。加えて3月5日開幕の全国人民代表大会(全人代)では積極財政の強化、金融のリフレ政策、規制緩和などの政策を総動員して対応することを表明した。
さらに、5月11日には4.7兆元(約75兆円)規模のインフラ投資計画を発表するなど景気テコ入れに全力を尽くす姿勢を表明。引き続き構造改革と安定成長の狭間で難しい対応を迫られるものの、徐々に中国経済が過度に悪化するリスクは後退している印象が強まっている。
<原油価格反転で経常収支通じた円高圧力も短命に>
12月4日ウィーンで開催された石油輸出国機構(OPEC)総会で産油国は減産で合意できず原油価格が急落した。原油価格下落の背景には2012年頃から急激に生産が伸びた米国のシェールオイルに対し、中東産油国がシェア争いのなか増産で応戦して需給が悪化したことがある。
その結果、米ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は1月から2月にかけて2003年以来となる1バレル=26ドル台まで下落する動きとなり、リスクオフを通じた円高圧力となった。
原油安によって米国のシェールオイル企業は破たんが相次ぎ、掘削装置(リグ)数も急減するなど産油国の目論見が着実に達成されていく一方、産油国の財政赤字も深刻化したが、2月16日にはカタールの首都ドーハでサウジアラビアやロシアなどの産油国が増産凍結で合意。その後も数度にわたり産油国の話し合いがもたれるなか、徐々に原油価格は反転し、5月には50ドル手前の水準まで上昇している。
実は原油価格の反転はもう1つの経路(経常収支、貿易収支)を通じて円安圧力となる。日本の経常黒字は2014年の約3.9兆円から2015年には約16.4兆円へ実におよそ12.5兆円も増加したが、このうち約10兆円は貿易収支の改善が寄与している。
そして、その貿易収支の内訳をみると、実は輸出の増加は微々たるもので、輸入の急激な減少が貿易収支の改善をもたらしている。この輸入急減の背景が2014年に100ドルを上回っていた原油価格の下落だ。原油価格が反転しつつあるなか、貿易収支や経常収支を通じた円高圧力は短命に終わる可能性が出てきた。
<1ドル=109―119円のレンジに移行か>
前述の中国の景気減速懸念や原油価格の下落、それに伴う金融市場の混乱といった悪影響などに巻き込まれ、米国の緩やかな景気回復が阻害され、米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースも大きく遅れるのではないかとの懸念も台頭した。
実際、フェデラルファンド(FF)レート先物は昨年12月末時点で2016年末までに2回以上の利上げを織り込む状況だったが、2月11日には利上げはゼロ回という水準まで低下し、ドル安の原動力となった。逆に言えば、すでに金利市場で一度「年内利上げゼロ」を織り込み、為替市場ではこれを反映したドル安がみられた、とも言える。
これ以上のドル売り材料になるには「年内利下げ」までいく必要があるが、直近の連邦公開市場委員会(FOMC)声明でも雇用や住宅の一段の改善を指摘するなど、経済活動の拡大自体は継続しているとの姿勢を示している。米利上げペースの減速を材料としたドル売りも一巡しつつあるのではないか。
また、ドル円は今年に入り115円から120円の水準を下回ったことで、テクニカル的に下落バイアスが強まっている。これに関しては4月15日の当コラムで言及した通り、105―106円水準がターゲットとして指摘できるが、5月3日に一時105.55円まで下落し、一定の達成感を醸し出している。
こうしてこれまでの材料を並べると、あらためて様々な理由とともにドル円が下落してきたことが浮かび上がるが、いずれも一定の達成感や出尽くし感が感じられる。3月13日の当コラムで言及した通り、英国の欧州連合(EU)離脱などの新たなリスクや材料もあるものの、年初来のドル円の値幅はすでに16円を超え、2000年以降の平均値幅である15.92円を上回っている。日米ともに年後半には国政選挙を控えるなか、金融政策も為替相場も動きづらくなる可能性がある。
今後あらためて1ドル=105円を下回り、100円を目指す大相場へ突入するよりも、109―119円といった居心地のいいレンジへ小反発し、これまでの材料や値動きを消化しつつ、選挙結果や金融政策を見極める展開に移行していく可能性の方が大きいのではないか、と考えている。
*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-kengo-suzuki-idJPKCN0Y80PQ