「日本株は世界一有望」と結論づけられた理由は(※イメージ)
世界最大級の運用会社が「日本株は世界一有望」とする3つの理由〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160408-00000002-sasahi-bus_all
週刊朝日 2016年4月15日号より抜粋
英フィデリティ・インターナショナルは世界最大級の運用会社だ。グループ全体で400人以上が運用に携わる。毎年まとめるリポートの最新版で、「日本株は世界一有望」と結論づけた。本誌が独占入手。フィデリティ投信でアナリストを統括するポール・サイ氏が詳細を語る。
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欧州ではドイツ銀行の赤字転落を引き金にした銀行不安、中国では度重なる景気刺激策による財政赤字の拡大と、投資家の危機感が高まっています。それに引っ張られて中国向け輸出が多い豪州、ロシア、東南アジア諸国、南米諸国も先行きは厳しいでしょう。
日本も同じ環境にいます。それでも日本株が世界で最も期待できるのは、なぜでしょうか。
答えはバブル崩壊後の「失われた20年」にあります。景気が低迷するなかで、日本企業は借金の返済を急いできました。いまでは金融を除く民間企業が持つ現金・預金の残高は史上最高を更新し続け、財務体質は強くなる一方です。このお金をうまく使えば、日本企業は成長し、株価も上がる道をたどっていけます。これがリポートに書かれたフィデリティの見解です。
――本誌が独占入手した「フィデリティグローバル調査レポート2016」は、グループに所属するアナリスト全員のアンケートを集計したものだ。フィデリティでは、アナリストが投資先企業などをそれぞれ年400〜500社訪ねる。全体では1万7千社にのぼるという。そこで集めた情報に基づいて将来を予測する独自の手法を採る。サイ氏は「だから、他社が気づかない優良企業を発掘できる」と胸を張る。
そもそも企業にとって、対外的なお金の使い道は自社株買い、配当、投資しかありません。いずれも、金額を増やせば株価の上昇につながりやすい。
日本企業は、それがわかっていても腰が重かったのですが、最近これまで見たことがない変化を起こし始めています。背景には「三つの追い風」、すなわち【1】コーポレートガバナンス(企業統治)改革【2】マイナス金利【3】高齢化──これらがまさに日本株高の「三つの理由」だと考えています。
【1】は業績を伸ばし、株主への還元をより手厚くすることをめざします。金融庁などが指針をつくりました。
自社株買いでは日産自動車が2月、4千億円を上限に実施すると発表しています。企業が自社株を買うと、市場に出回る株数が減るので株価が上がりやすい。筆頭株主である仏ルノーの出資比率が変わらないように、ルノーは連動して日産株を売ります。これだけ手間がかかることに踏み出したのです。
配当では、エアバッグ部品などのダイセルが有名になりました。利益の拡大に伴って、4年連続で配当を増やす見込みです。
【2】のマイナス金利は、日本銀行や国が企業に対して、現預金の有効活用を本気で求める政策だとみています。
金利が下がれば、借金して投資しやすくなります。わかりやすい例としては不動産価格があります。3月に発表された公示地価では全国平均が上昇に転じました。3大都市圏に加えて、地方中枢都市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)でも値上がりが続いています。06〜07年ごろの「ミニバブル」と比べて、幅広い地域で買われたのがわかります。
投資家はいま利回りを探しています。マイナス金利で国債や社債は選べない。地価と一緒にリート(不動産投資信託)も高騰し、利回りは下がりました。円建ての金融商品では、もはや株しか残っていません。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が株の運用割合を高めているのは、利回りも理由のひとつではないでしょうか。
【3】の高齢化は、黒船来航からずっと危機に強い日本人に底力を発揮させました。イノベーション(技術や経営の革新)に拍車をかけたのです。
まず思い浮かぶ医薬品の分野では、例えば塩野義製薬が画期的なインフルエンザ治療薬を開発しました。世界で初めてインフルエンザウイルスの増殖を抑える効果があります。研究開発に投資を惜しまなかった成果でしょう。
高齢化は労働力の減少も意味します。日本企業はこれを見込んで、効率化や自動化で先頭を走る。産業用ロボットでは世界トップ8社のうち、日本企業が5社(三菱重工業、川崎重工業、安川電機、ファナック、デンソー)を占めます。
――「三つの理由」は最終的に、すべてアベノミクスに結びつく。【3】の高齢化も「一億総活躍社会」と銘打って政策を打ち出している。ただアベノミクスに対しては、サイ氏の見方は慎重だ。とくに【2】のマイナス金利には、「金利と一緒に地価も下がる。そういう逆方向に突き進むことだけはないと考えています」。
米国株は長期でとらえると、GDP(国内総生産)が年1〜2%伸びるのに連動して年4〜5%上がってきました。米国人には「株価は上がるものだ」という確固たる信念があります。
それに対して、日本では「失われた20年」の間、株価が狭い範囲内で上下するだけでした。昨年後半以降も乱高下が続き、日本人はすっかり自信を失っています。でも潜在力を発揮すれば、上昇基調に戻るでしょう。将来は明るいですよ。