ウクライナ政権、苦境に マイナス成長、インフレ加速
【モスクワ=田中孝幸】ウクライナの親欧米政権の苦境は深まっている。クリミア危機に続く東部紛争では地域の3分の1を親ロシア派武装勢力の支配下に置かれ、支持率は低迷。経済情勢が急速に悪化する中、国内政局の混乱も続き、後ろ盾だった欧米諸国も不満を強めている。
ポロシェンコ大統領は17日、ブリュッセルでドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領と会談。独仏首脳は当面の対ロ制裁の継続とクリミア編入を認めない立場を確認した。
ポロシェンコ氏の今回の外遊は「欧州に見放され、対ロ融和論が広がることへの危機感の表れ」(欧州外交筋)と受け止められている。政権内の内紛を背景に、欧米が支援の条件とした構造改革は停滞。欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は3日、ウクライナが目指すEU加盟は「20〜25年は無理」と語っていた。
政府推計によると15年の同国の実質経済成長率は前年比でマイナス12%に落ち込み、インフレは年率43.3%に悪化した。EU内ではウクライナよりもロシアとの経済関係を重視する意見も少なくない。イタリアとギリシャのエネルギー企業は2月下旬、ロシア国営ガスプロムと天然ガスの新パイプライン建設に向けた覚書を調印した。
[日経新聞3月19日朝刊P.7]
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ロシア、クリミア編入2年の代償 制裁響き経済低迷 プーチン氏、現地視察
【モスクワ=田中孝幸】ロシアが武力を背景にウクライナ南部・クリミア半島の編入を一方的に宣言してから18日で2年がたった。武力による現状変更を非難する欧米は対ロ制裁に踏み切ったが、支持率を急上昇させたプーチン政権はウクライナ東部への介入にも踏み切り、愛国主義路線を加速させた。ただ、制裁下でロシア経済は低迷を深め、生活水準は悪化。市民に編入のコストが重くのしかかっている。
「交通インフラを整えなければならない」。18日、プーチン大統領はクリミア半島とロシア本土をつなぐ橋の建設現場を視察。ロシアの実効支配を誇示した。モスクワなど全国各地ではクリミア編入を記念する大規模な集会が開かれた。
プーチン大統領の支持率は編入を機に20ポイント程度上昇し、現在も8割台を維持している。編入の正当性を否定する声はロシア国内ではほとんど聞かれない。反体制派の急先鋒(せんぽう)である野党指導者のアレクセイ・ナワリニー氏ですらウクライナへの返還に否定的な立場を示している。
ロシア政府は政権の愛国主義の象徴となったクリミアのインフラ整備に重点投資する方針。2015〜20年の6年間に6580億ルーブル(約1兆円)を充てる振興計画をまとめた。年金など社会保障費も含めると政府の半島向けの支出は年2千億ルーブルを超えるとの試算もある。
連邦統計庁によると半島住民の15年下半期の実質平均給与は前年同期比で1割程度増加した。とはいえ、国際的には孤立を深め、外資系企業の大半は撤退。15年の直接投資も前年比で約1割減少した。
クリミアはロシアと地理的に切り離されており、社会インフラの維持のために敵対するウクライナ政府に依存する構造から抜け出せていない。昨年11〜12月にはウクライナ本土からの電気供給が途絶し、約1カ月にわたって半島全域で停電する事態となった。
クリミア危機とウクライナ東部への軍事介入を受けた欧米の対ロ制裁はロシア経済の大きな足かせとなっている。15年の実質経済成長率はマイナス3.7%に落ち込んだ。クドリン前財務相の試算によると、制裁は成長率を1.5%下押しする効果をもたらしている。
主要輸出品の原油の価格下落もあり、市民の生活水準は悪化している。政府統計によると15年の実質の平均所得は約4%減少。貧困層はこの1年で約200万人増え、人口の約13%に達した。財政難で今年は年金支給額は実質ベースで減少する見通しだ。
経済低迷を背景に、政府への抗議行動も増えつつある。昨年11〜12月にはモスクワ近郊やロシア南部、極東など全国各地で大型トラックへの増税に抗議する運転手たちの大規模デモが頻発した。
クリミア半島に巨額の資金投入が続くことへの市民の不満も根強い。独立系調査機関レバダセンターの2月調査によると「編入がロシアに恩恵をもたらした」とする回答は全体の62%で、昨年3月に比べて8ポイント減った。
経済的に恩恵を受けているクリミア半島でも新たにロシア国籍を得た住民の多くが西側への旅行や将来の移住のためにウクライナのパスポートを持ち続けているという。
[日経新聞3月19日朝刊P.7]