元大統領ルラの逮捕と、ブラジル支配層の危機
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2016年3月11日 マスコミに載らない海外記事
2016年3月9日
先週、拡大するペトロブラス・スキャンダルに関連して、元大統領で、労働者党(パルティード・ドス・トラバハドーレス-PT)創設者のルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバが拘留され、尋問されたことが、ブラジル与党のみならず、ブラジル全体のブルジョア支配の危機を劇的に激化させた。
ルラは、このエネルギー・コングロマリットとの契約の見返りにブラジルの建設会社から利益や、リベートを受けとっていたとされ、ペトロブラス賄賂の“主な受取人の一人”であると非難されている。
PTはブラジル資本主義の主要政党として登場して、十年以上、権力の座にあり、国内・海外の金融・大企業オリガーキー支配勢力の権益を擁護し、ブラジル債務をウオール街に返済すべく、何百億ドルもの社会的資源を忠実に回している。
最初はルラ 、次は彼自ら厳選した後継者、現在のジルマ・ルセフによる大統領支配は、かなりの部分、中国とインドの産業化と、ブラジルがその先頭の一国である“新興市場”への外国資本投資の狂乱によって加速された、未曾有の商品相場急騰と重なった。
この現代の経済環境が中南米における、いわゆる“左転換”の基盤となり、ブラジルから、ベネズエラ、ボリビア、アルゼンチンやエクアドルに至るまでの政府が、左翼民族主義的姿勢をとりながら、階級間の緊張緩和を狙う限定的な社会福祉プログラムを推進した。
商品相場の急騰は、中国成長の減速とともに行き詰まり、金融市場の元寵児ブラジルが、ウオール街の格付け機関によってジャンク状態に格下げされることになった。
ブラジルのPTの危機は、ベネズエラのチャベス主義、アルゼンチンのペロニズムや、ボリビアのエボ・モラレスの社会主義運動政府の危機と並行しており、このいずれも正に同じ資本主義体制の世界的危機によって動かされている。
これら全ての政治運動の中で、中南米最大の国と経済を支配し、大多数のブラジル国民が物心ついて以来、労働党政権のもとで暮らして来たPTは最も重大で揺るぎないものだ。
ブラジルの20年間の軍事独裁を致命的に不安定化させた大規模ストライキの戦闘的な波の後、1980年に設立されたPTと、それが提携する労働組合連合CUTは、ブラジル労働者階級の革命闘争を逸らし、ブルジョア国家支配下に押し返す手先として機能した。
組合幹部、カトリック活動家や学者とともに、似非左翼組織のお仲間連中が、PT創設で重要な役割を演じ、労働者階級の大規模な革命政党構築の代案として、労働者党を推進した。ヨーロッパにおける彼らのお相手役、特に歴史的に、エルネスト・マンデルのものだとされる修正主義的傾向のUnited Secretariatと提携する集団が、同様な政党の発展のモデルとして、PTを国際的に推奨した。
これら似非左翼集団のなかには、益々右に移り、PTから追放され、現在PSTU (統一社会主義労働者党)に集まっているモレノ派もある。内部に残ることに成功した他の連中には、農業改革相となり、現在、ルセフの大統領首席補佐官で首席報道官のミゲル・ロセトを指導者とするマンデル派のデモクラシア・ソシアリスタ(民主社会主義者)集団がある。
こうした流れで、追放された連中と、内部に残った連中とが演じた重要な役割は、徹底的に反動的で腐敗した資本主義政党に“社会主義”の装いを与えることだった。彼等はPTのみならず、いずれもブラジル労働者階級の戦いを、ブラジル資本と国際資本権益の利益に従属させる役目のCUT労働組合や様々な飼い馴らされた“社会運動を推進した。
約35年前、ブラジルの軍事独裁に反対して登場した革命運動の歴史的裏切りが、今や、指導者連中全員が ペトロブラスを巡る20億ドルの賄賂と政治献金スキャンダルの泥沼に引きずり込まれつつあるPTの根本的危機と不名誉という完成表現になったわけだ。
先週、ペトロブラス・スキャンダルにからんで、昨年11月逮捕されたPT指導者の一人、ブラジル上院議員デルシディオ・アマラルが検察との司法取り引きに応じて、ルラは捜査で、証人を沈黙させようとし、ルセフがペトロブラスが、テキサス州パサデナの老朽精油所 途方もない水増し価格で購入し、何百万もの収入が、幹部、政治家や、PTの金庫に注ぎ込まれたた取り引きについて“十分承知していた”と非難したと報じられた。当時ルセフは石油会社会長だった。
ルラ尋問とともに、こうした訴えが、ルセフを弾劾しようとするブラジル右派の動きを復活させた。この日曜、PT大統領の追放を要求する全国での大規模デモを呼びかけている。同じ日に、ルラとルセフを擁護するPT支持者も集会を呼びかけており、暴力衝突の可能性があるという警告もある。
ブラジル人労働者にとって、1930年代の大恐慌以来最悪の現在の危機は壊滅的な影響をもたらしている。2015年、100万以上の雇用が喪失したが、その多くは自動車や関連産業だ。何百万人もの若者が、就職の見込みも無しに大学を卒業している。10パーセントのインフレ率は実質賃金に食い込み、昨年、家計支出は、4パーセントも減り、不況への落ち込みを更に悪化させている。
危機に対するルセフ政府の答えは、年金や社会的支出を攻撃する一連の緊縮政策で、労働者階級の状態を更に悪化させている。PTの右派反対勢力は弾劾を推進することを狙った政治戦術として、こうした施策を阻止しているが、彼らの処方も同じか、よりお粗末だ。
ブルジョア経済学者や資本主義シンクタンクが推進するブラジル経済が直面する本当の難題という主張は、軍事独裁後施行された1988年憲法に含まれている限定された社会的権利をブラジル国民から奪い、ブラジルを限りない国際資本による支配に開放するものだ。
そのような施策が平和裡に実施されることはありえない。おそらく先週のルラ短期拘留を巡る最も重要な進展は右派ブラジル日刊紙オ・グローボの数人の記者が報じたものだ。
オ・グローボ紙のリカルド・ノブラトが、逮捕時、サンパウロの軍大隊が、抗議行動の抑えが効かなくなった場合に備えて警戒態勢に置かれたと報じた。
ノブラトによれば“軍最高司令部のメンバーが、過激政治集団との紛争が一番起きそうな州の知事たちに電話をかけ、社会平和の維持の必要に備えさせた”。弾劾支持の趣旨で、コラムニストは、将軍たちは“憲法で予想されているように、法と秩序を保障すべく介入するよう要請され”たいとは思っていないことを確認した。
オ・グローボのコラムニスト、メルバル・ペレイラは、まさに同じ憲法上の軍の“任務”に触れ、もしPTに反対する右派諸政党が“民主的危機脱出策を求めて団結しなければ、組織的退化の脅威に直面する”言い換えれば軍事独裁への回帰となることを警告した。
現在、ブラジル労働者が直面している危険な手詰まりに対する責任は、これを推進した労働者党や様々な似非左翼組織にある。この危機に対する答えは、社会主義と国際主義的視点に基づき、PTや、その擁護者の政治に対する容赦ない戦いによって作り上げられた、労働者階級の新革命指導部を構築する戦いの中にあるはずだ。
記事原文のurl:http://www.wsws.org/en/articles/2016/03/09/pers-m09.html