必ず衰退する企業の共通点…世界的優良企業元トップが明かす
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2016.03.11 文=新将命/国際ビジネスブレイン代表取締役社長 Business Journal
「学問に王道なし(There is no royal road to learning)」 という格言がある。「勉強には楽な方法や近道はない。学を修めるためにはたゆまない努力が必要である」という意味だ。もうひとつの王道は、物事を進めていくときに取るべき正しい道という意味である。王が、徳を基として国を治めるという、儒教が説く理想的な政治のあり方である。
王道の対極に位置するのが、覇道である。徳をもって治める王道に対して、武力や権謀術数を用いて国を治めるという支配や統治の仕方をいう。いいかえると、王道は正道であり覇道は邪道である。
経営の世界にも王道の経営と覇道の経営がある。この両者の違いは何か。
まず何よりも、王道の経営には大義(great cause)がある。大義とは人の踏み行うべき大切な節義であり、人倫の大きな筋道のことである。大義は企業経営の場合に「経営理念」というかたちで表わされる。理念の内容には、「我が社はそもそもいかなることを果たすべきなのか、何を考え何を行うことにより世のため人のためにお役に立つのか」という使命(ミッション)がある。そもそも企業が生きているに際しての存在理由(レーゾンデートル)は何か、という思いである。
理念のもうひとつの重要な側面は、「我が社は、打ち立てた使命を果たすためにはいかなる会社にならねばならないか」というビジョンである。「我が社のあらまほしき姿」という夢や理念である。企業でも人間でも夢や理想を失った時から老化現象が始まる。そもそも夢も理想もないという会社や人は、生まれながらの老人である。
一方、覇道経営には大義も理念もない。当面の金儲けだけに明け暮れている。肉体はあれど魂は通っていない。
●正しい道を歩む
第2に、王道経営の特徴は「正しい道(ステップ・プロセス)を歩む」ということである。
企業経営には利益は必須である。利益を出さなければ会社は早晩立ち行かなくなる。仕入れの資金に困り、社員の給与も払えなくなる。将来の成功を担保するための投資の余裕もない。だが、ここで大きな違いが出てくる。
王道経営は、利益を結果と考える。この場合の結果とは、正しいプロセスを経た上での結果である。まず社員の満足度、ヤル気を高め、次にお客様(顧客)の満足度を高める。高い品質の製品やサービスをリーズナブルな価格で提供することにより、お客から評価され感謝される。満足度の高いお客様は我が社の製品を納得づくで買ってくれる。結果として売り上げが伸び利益が出るというプロセスである。
対するに覇道の経営は利益、それも短期的な利益の追求のみに明け暮れている。目的のためには手段は選ばないというブラック企業である。
●短期志向の罠
第3の違いは、王道経営が短期に加え中長期志向であるのに対して、覇道経営は短期志向であるという点である。いわゆる「四半期経営」というアメリカ企業によくある代物である。
インサイダーではないので詳しい内情は知るよしもないが、イメージ的にいえば、王道経営の代表格にはトヨタ自動車が挙げられるのではないか。リコールの問題等でときどき躓くことはあるが、基本的には正しい道を進んでいるような感じがする。結果としてユーザーの信頼を得て世界シェア1位の座を維持している。目を見張るばかりの利益を出している。ちなみに利益とは顧客満足の総和であり、顧客満足とは社員満足の総和である。
一方、覇道経営の見本には東芝が挙げられる。経営者が道を誤っている。見るも哀れ、聞くも無残という溜息を禁じ得ない。
経営者が大義や徳を失って覇道を歩み始めた時に、企業は衰退の道を辿り始める。
(文=新将命/国際ビジネスブレイン代表取締役社長)