公開すればパニックに?年金(GPIF)が保有株式より前に開示すべきもの=近藤駿介
http://www.mag2.com/p/money/7829
2016年3月10日 MANEY VOICE
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用に関して開示しなければならないのは保有株式ではなく、将来国が支払わなければならない年金支給額(年金債務)だ。それができないのは、公開すると社会がパニックを起こす状況にあるからだ。
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるメルマガ『近藤駿介〜金融市場を通して見える世界』がまぐまぐ大賞2015メディア賞を受賞。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が抱える2つの問題点
■「保有銘柄を開示」意義は高くない
GPIFの運用のほとんどは「インデックス運用」と「(インデックスをベンチマークとした)ベンチマーク運用」だから、ルール通り運用しているなら保有銘柄を開示する意義は高くない。
塩崎恭久厚生労働相は8日の閣議後の記者会見で、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の投資先について『個別銘柄を含めて一定期間後に開示する方向性を議論してきた』と述べ、保有株式を公開する考えを示した。
出典:GPIFの投資先、厚労相『保有株式を開示』 – 日本経済新聞(2016年3月8日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS08H1C_Y6A300C1EAF000/
公的年金の運用に関して開示しなければならないのは、将来国が支払わなければならない年金支給額(年金債務)だ。これを開示しない限り、GPIFがどれだけの運用利回りを出す必要があるのか分からない。
これが分からないということは、GPIFのポートフォリオが適正なものか否かの議論もすることはできないということ。
保有銘柄よりも国が抱えている年金債務を公開するべきだ。それができないというのは、公開すると社会がパニックを起こす状況にあるからだ。
安倍総理はGPIFは「世界最大の機関投資家」だと豪語しているが、それは「世界最大の年金債務を抱える機関投資家」の同義語でしかない。
■将来世代にツケを残す形で「クジラ」を動かすな
「年度末にかけ株価テコ入れ策が出てくる」。市場でこんな思惑が浮上している。<中略> 約140兆円の資産を持ち、「クジラ」の異名をとる巨大投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による買い支えも取り沙汰され始めた。
出典:クジラ、年度末に動くか 夏の選挙控え、市場に思惑 – 日本経済新聞(2016年3月8日)
http://www.nikkei.com/markets/column/scramble.aspx?g=DGXLASGF07H12_07032016EN1000
「将来世代にツケを残すな」というのが民意なのだとしたら、GPIFを利用した株価テコ入れ策には反対する声が上がってきてしかるべき。
「力ずくで株価を押し上げてもヘッジファンドなどに売りの好機を提供するだけ」という専門家の指摘が紹介されているが、こうした低次元の議論を繰り返しても意味はない。
自分で株価を引上げても、それによって生じた評価益を実現益に変えることはできない。年金支給に必要なのは評価益ではなく実現益(cash)だ。
「世界最大の機関投資家は、その評価益を実現益に変えることは不可能に近い」
こうした現実を知ったうえで、公的年金の運用のあるべき姿を論じなければならない。
セミナーで冗談交じりにお伝えしていることは、
「将来世代の人にとっての公的年金は、平均寿命を越えて長生きした場合のお祝い金となる(支給開始年齢が80代になる可能性がある)」
「将来世代の人に対する年金給付は現物支給(年金を現金ではなく株券/投信受益権で受け取る)になる」
ということ。
そして、「将来年金が受け取れなくなる可能性があるから自分で投資をしなければならない」と考えている方には、投資に対する基本的考え方をお伝えしている。この辺のことは12日に「勉強カフェ関内スタジオ)で開催する「家計を守るマネー講座」(http://eventinfo.benkyo-cafe.net/event/20918)で。