深刻度合いを増す「空き家」問題 (ゆふこ/PIXTA)
3戸に1戸の空き家危機 「負のスパイラル」の出口見えない
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160308-00000014-pseven-bus_all
NEWS ポストセブン 3月8日(火)7時0分配信
首都圏や都市部を中心に新築マンションの分譲価格が過去最高を更新し、不動産の“局所的バブル”は過熱する一方だが、日本全国に目を向けると「住宅余り」の現実、すなわち「空き家」問題が深刻度合いを増している。
2014年に発表された総務省の数字(住宅・土地統計調査)は、受給バランスの崩れた日本の住宅事情を表している。
戸建て・集合住宅を含めた日本の空き家は全国に820万戸あり、「空き家率」は13.5%。およそ7.4戸に1戸が空き家になっているという衝撃的なデータだ。東京でさえ約11%の空き家があることから、過疎地だけの問題ではないことも浮き彫りになった。
にもかかわらず、毎年の新築住宅は80〜100万戸の間で着工され続けている。さらなる少子高齢化や人口減少が避けられない状況下で、このままいけば日本中が“廃墟だらけ”になっても不思議はない。2033年に日本の空き家は2000万戸を超え、3戸に1戸が不在状態になる、との恐ろしい予測(野村総合研究所)もある。
空き家が増え続けるとどうなるのか――。住宅ジャーナリストの山下和之氏は、こんな最悪の事態を想定する。
「放火などの火災、老朽化による倒壊、不法侵入など犯罪の温床化、周辺イメージや景観の悪化など、さまざまな問題が起きる可能性があります。
空き家になっているのは、ほとんどが住宅品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)のない時代や、新耐震基準以前に建てられた築年数30年以上の住宅で、建物の構造や設備面などの基本性能が極めて低い。また、立地面でも生活しにくい、通勤・通学に不便といった阻害要因が多い物件が中心です」
では、使いものにならない空き家がいつまでも解体・処分されずに放置してあるのはなぜか。
「解体して更地にすると固定資産税が6倍になることもありますし、そもそも相続問題から管理者があいまいになっている物件も数多く見られます。そうした物件は管理されないまま一層老朽化が進み、資産価値がゼロになる。むしろ解体費を考えるとマイナスの資産になるため、負のスパイラルに陥っているのです」(前出・山下氏)
国交省もこうした惨状を見兼ねて、中古住宅をリフォームしやすくする補助金・税制の導入や、集合住宅の建て替え条件を緩和させるなどの法整備を検討、空き家増加を食い止めようと動き出した。
また、空き家の戸建て住宅や民間アパートを“準公営住宅”に指定し、生活費負担の大きい子育て世帯や、低所得・年金暮らしなどの高齢者に相場より安く貸し出す新制度も考案中だという。今後、有識者会議を重ね、関連法案の国会提出を目指す。
もちろん、国が住宅政策の一環として空き家対策に乗り出すのはいいが、その実効性には不安も多い。前出の山下氏はこんな指摘をする。
「初めから賃貸住宅として魅力ある物件や立地であれば、長い間、未利用で放置されているはずはなく、再利用や建て替えも進んでいたでしょう。現状の空き家から優良物件を見つけようというのは、簡単な話ではありません」
国交省自らが昨年出した推計でも、耐震性をクリアし、駅から近いなど有効活用できそうな空き家は、わずか48万戸しかなかった。結局、国や行政が介入を強めれば、建て替え費用や家賃補助などの財源が国民の懐から出ていくことになる。さらに、民業圧迫や又貸しの横行なども懸念される。
「民間企業でも中古住宅をリノベーションする動きが高まっています。例えば旭化成の『ヘーベルハウス』は既存の住宅を買い取ってスケルトンにしたうえで、間取り変更などが自由な〈フレーム・ヘーベルハウス〉事業を開始しています。
また、大手10社が進める〈スムストック〉は、住宅履歴や長期点検メンテナンス、耐震性能など条件を満たす中古住宅に対し、通常よりも高く査定する仕組みを整えました。こうしたさまざまなレベルで中古住宅の再利用が進めば、空き家として放置されるケースも減少していくはずです。
空き家問題は戦後の高度経済成長期から50年もかかって発生しただけに、一朝一夕に解決できるものではありません。国や自治体だけではなく、民間事業者、地域住民などが一体となって解決に取り組む必要があるのです」(山下氏)
空き家として放置される前に、売却や再利用などスムーズに進む体制づくりが必要というわけだ。
「中古住宅のイメージアップや流通促進策を強化しなければ根本的な解決は望めない」と強調する山下氏。いい加減、日本人に根付く“新築信仰”も改めなければ、受給ギャップは埋まらないまま、不動産市場全体が崩壊してしまうだろう。