マイナス金利政策の導入決定直後に記者会見した日本銀行の黒田東彦総裁。自身を含む政策委員9人の投票で、反対が9人というきわどい決定だった/1月29日 (c)朝日新聞社
兜町は「晩年のマイケル・ジャクソン」状態? 詰む寸前の日本経済〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160222-00000011-sasahi-bus_all
AERA 2016年2月29日号より抜粋
この3年、株価を強引に押し上げてきた「黒田バズーカ」。マイナス金利はその威力の衰えを示しただけでない。世界不安の火に油を注いでしまった。
「アベノミクスはもう終わった。そんな雰囲気が個人投資家たちの間に広がっています。これまでのもうけを確定させて、株のトレードから撤退する人が相次いでいますよ」
ツイッターで1万8千人のフォロワーがいる専業の個人投資家、ぱりてきさすさん(35)はこう話す。
投資家など900人ほどのブログをウォッチし、市場の空気を読む。風向きが一変したと感じたのは2月初めだった。
年明けからの急速な円高・株安を受け、日本銀行が1月29日、「マイナス金利政策」という新しい金融緩和手法の導入を決定。それから日経平均株価の終値は2日連続で上昇したもののすぐに下落基調へ戻り、2月12日には1年4カ月ぶりに1万5000円を割り込んだ。年明けから4000円余りの値下がり。この日までの下落幅(21.4%)は2008年のリーマン・ショック時(41.3%)には及ばなかったものの、00年のITバブル崩壊時(22.0%)にほぼ並んだ。
「日銀が緩和策を打ち出すたびに株価は右肩上がりに戻っていたのに、今回、日銀効果は2日しかもたなかった。これで投資家たちの心は折れたんです。これまで政府が何もしてこなかった一方で、日銀は仕事をしてきた。でも、日銀頼みはもう限界です」
直近では株価に下げ止まりの兆しも見え、2月19日の終値は1万5967円。市場はひとまずパニック状態から脱したようにも思えるが、荒い値動きが続く。ぱりてきさすさん自身は先行きは厳しいという見方だ。
「政府がこのまま無策なら、将棋に例えれば日本経済はもうすぐ詰むかもしれない状態です」
アベノミクスのもとで景気は盛り上がりを欠く状態が続いている。2月15日に発表された15年10〜12月期の実質国内総生産(GDP)の1次速報は前期比年率で1.4%減。2四半期ぶりのマイナス成長に陥った。特に個人消費と輸出の低調ぶりが目立つ。クレディ・スイス証券によると、過去8四半期の平均成長率から日本経済の勢いを見る「2年トレンド成長率」は、安倍政権の発足後では初めてマイナスに転落した。
ここでアベノミクスとは何かをおさらいしたい。日銀による大規模な金融緩和(第1の矢)と、公共事業の大盤振る舞い(第2の矢)で景気を押し上げて時間を稼ぐ間に、規制緩和などによって企業がビジネスしやすい環境を整え(第3の矢)、中長期的な経済成長を促す。これが基本的な考え方だった。なかでも最も効果を上げてきたのは、日銀が刷ったお金で国債やETF(上場投資信託)を大量に買い入れ、市場をお金でじゃぶじゃぶにする「異次元緩和」。日本円の量が増えてその価値が下がり、大幅な円安に。海外での売り上げの円換算額が膨らんだ企業の業績が改善し、株価上昇につながった。
アエラ本誌が繰り返し指摘してきたように、大規模な金融緩和は劇薬だ。株価を一時的に押し上げて世の中のムードを明るくすることはできるかもしれないが、深刻な少子高齢化や新興国の台頭によって落ち込んでいると言われる日本経済の成長力自体を引き上げる効能はない。しかし、第2の矢は先進国で最悪レベルの財政状況や建設業の人手不足が足かせに。最も重要な第3の矢にいたっては、既得権を持つ人々をおびやかす規制緩和によって敵をつくりかねないため安倍政権は及び腰。体質改善は置き去りにしたまま、日銀バブルとも言える状況が続いてきた。
「兜町は、いまや晩年のマイケル・ジャクソンのような状態になっています」
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長はこう指摘する。
「キング・オブ・ポップ」と呼ばれたスーパースターは09年、薬物中毒で急死。手術時に使われる強力な麻酔薬「プロポフォール」まで使っていたといわれる。
「日銀の金融政策の効果は明らかに薄れています。マイケルの主治医は次第に強いクスリを投与したにもかかわらず、痛みが去るのは一時的で、安らかな睡眠が訪れることがなかった。それと同じような現象です」
(アエラ編集部)