日経平均株価(C)日刊ゲンダイ
マイナス金利導入は金融恐慌の入り口 日本経済一歩先の真相 高橋乗宣
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/175560
2016年2月19日 日刊ゲンダイ
終値で1000円を超える上げ幅は「奇策」が始まる前日に記録された。週明け15日の東京株式市場は終日全面高の展開となり、平均株価は一時1200円以上も値上がりした。この急激な株高は、マイナス金利の適用スタートと密接に連動している。
先々週に当欄は、マイナス金利の導入で民間銀行はダブついた資金を株式運用や海外融資に回すしか道はない、と指摘した。いくら日銀が民間銀行に融資をけしかけても、資金需要が乏しく、有力な貸出先も見つからない現状は変わらないためだ。
15日の記録的な急騰は、マイナス金利の導入直前、民間銀行が慌てて株式運用に振り向けた“駆け込み投資”がもたらした結果とみるべきだ。
では、海外融資の方はどうかといえば、変化はみられない。海外展開のために銀行が大量の円をドルに替えれば、その分だけ円安進行は加速する。現状はひと頃の猛烈な円買いが和らいだとはいえ、円安に大きくは振れていない。
その背景には「海外要因」が横たわる。この言葉は最近、安倍首相や黒田総裁たちの経済失政の逃げ口上と化しているが、確かに地球儀をいくら俯瞰してもめぼしい融資先は見当たらない。
欧州は日本に先んじてマイナス金利を導入するほど景気は冷え込み、中国は景気減速に歯止めがかからない。中東の潤沢だったオイルマネーも、原油価格の急落で目減りするばかり。唯一、景気回復に向かっていた米国経済も常に先行き不安がつきまとう。
かくしてダブついた資金の行き場が株式運用1本に狭まると、この先は「株バブル」が発生する公算が高い。
■怖いのは顧客企業への破綻連鎖
とはいえ、銀行だってホンネは常に安全運用を心掛けたい。大胆な株式運用で、マイナス金利に伴う収益減少の解消に打って出るわけにはいくまい。
ましてや、マイナス金利が導入されたからといって、銀行は預金金利をマイナスにはできない。金利を極端に下げても、他行に顧客を奪われてしまう。マイナス金利の導入で確実に銀行収益は圧迫されるが、それを取り戻す手段はほとんどない。
特に地方銀行や信用金庫など小規模の金融機関は深刻だ。マイナス金利による収益の圧迫に耐えきれず、経営難に直面することになる。メガバンクの経営だって行き詰まらない保証はない。再び金融再編の動きが活発化するかもしれないが、その前に金融機関が次々と破綻してしまったら、それこそ元も子もない。時の政権の掲げる政策によって突然、職場を奪われる行員たちだって、たまったものではないだろう。だが、それよりも怖いのは、顧客企業への破綻の連鎖である。これはまさに、金融恐慌の入り口にほかならない。
どうやら、日本経済はマイナス金利の導入によって重大な岐路に立たされてしまったようだ。政権担当者たちは、株バブルに浮かれている場合ではない。