米大統領選で民主共和両党の候補者選びが始まったが、軍事外交は好戦派の戦略に拘束されている
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201602030000/
2016.02.03 22:57:01 櫻井ジャーナル
アメリカで大統領選が本格化したようだ。共和党と民主党の候補者選びが始まったのだが、この「2大政党」以外の政党はメディアから無視されている。しかも、2000年の選挙では投票妨害や票数のカウントでの不正が浮上、システムの電子化によって票数の操作は容易になった。そうした環境下での選挙だ。
こうした不正行為は勿論だが、アメリカの選挙制度自体にも大きな問題がある。「選択肢がない」という状態を作り出している2大政党制が維持されている原因のひとつは小選挙区制にある。その小選挙区制を日本に導入したのは「選択肢をなくす」ことにあったのだろう。その目論見は成功、今では事実上の一党独裁制だ。
小選挙区制以外にもアメリカの選挙を歪めている要素がある。選挙資金の問題だ。同国の最高裁は2010年1月、政府が非営利団体による独立した政治的な支出を規制することを禁じるルールを営利団体や労働組合などにも拡大する判決を出している。
つまり、「スーパーPAC(政治活動委員会)」を利用すれば無制限に資金を集め、使えるということであり、富豪や巨大企業による政治家の買収を最高裁が認めたとも批判されている。外国の政府や勢力が政治家を買収することも可能であり、実際、そうしたことが行われている。
際限なく政治家に寄付できるという判決を批判しているひとりがジミー・カーター元米大統領で、2010年の最高裁判決は「政治システムにおいてアメリカを偉大な国にしていた本質を壊した」と主張、大統領候補や大統領だけでなく、知事や議員を際限なく政治的に買収するという寡頭政治にしたとしている。選挙の後、資金提供の見返りとして富豪や巨大企業が臨む政策を進めることになり、そこに民主主義は存在しない。
アメリカ国内で政治家を合法的に買収する手段を手に入れた富豪や巨大企業、つまり支配階級は国外の利権を拡大しようとしている。アメリカの軍隊や情報機関を私的な欲望を実現するために使っているのだが、1980年代以降、「アウトソーシング」を推進している。「軍事会社」や「民間CIA」の設立だ。それと並行する形でワッハーブ派/サラフ主義者を中心とする傭兵の仕組みを作りあげている。
ズビグネフ・ブレジンスキー大統領補佐官(当時)の秘密工作が成功してソ連軍をアフガニスタンへ引き込むことに成功、そのソ連軍と戦わせるために傭兵は使われた。当時、西側では「自由の戦士」と呼んでいたが、その中から「アル・カイダ」が生まれる。
このアル・カイダは統一された戦略、命令に従って動く軍事組織でなく、ロビン・クック元英外相が指摘したように、CIAが訓練した「ムジャヒディン」のコンピュータ・ファイルにすぎない。アル・カイダはアラビア語でベースを意味するが、「データベース」の訳語としても使われる。つまり、アル・カイダは戦闘員の登録リストにすぎず、雇用主が計画するプロジェクトに派遣されるだけだ。その雇用主とはアメリカ/NATO、ペルシャ湾岸産油国、イスラエル。最近ではNATO加盟国のトルコと湾岸産油国の中心的な存在であるサウジアラビアとの関係が強い。
アメリカの好戦派は「穏健派」なるタグを用い、自分たちがアル・カイダ系武装勢力やIS(ISIS、ISIL、ダーイッシュなどと表記)と対立関係にあるかのように宣伝しているのだが、イスラエルは違う。例えば、2013年9月には駐米イスラエル大使だったマイケル・オーレンはシリアのアサド体制よりアル・カイダの方がましだと語っている。
今年1月19日にはイスラエルのモシェ・ヤーロン国防相がイランとISIS(IS、ISIL、ダーイッシュなどとも表記)ならば、ISISを私は選ぶと発言したとINSS(国家安全保障研究所)で開かれた会議で発言している。そのヤーロン国防相が1月26日、盗掘石油の購入という形でISに資金を提供していると非難した国がトルコ。
このトルコがシリア侵略軍に拠点を提供していることは2011年春の段階で指摘されていたが、その後、トルコからシリアへ兵站線が延び、シリアやイラクで盗掘された石油がトルコへ運び込まれていることも知られるようになった。それをイスラエルの国防相が指摘したわけだ。
アメリカ、トルコ、サウジアラビア、イスラエルなどの支援を受けたアル・カイダ系武装勢力やISは勢力を拡大させていたが、昨年9月30日にシリア政府の要請を受けたロシアが空爆を始めると戦況は一変、侵略軍は敗走しはじめた。盗掘石油の関連施設や輸送車両も破壊され、トルコ政府の利権もダメージを受けた。
そうした中、国連主導という形で和平交渉がスイスのジュネーブで始まったが、その直前、1月23日にジョー・バイデン米副大統領がトルコを訪問、シリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると語った。アメリカやトルコはシリアのバシャール・アル・アサド大統領の排除を目指していたが、ロシア軍の登場でそれは難しい状況。公正な選挙が実施されたならアサド大統領が続投することになるのは間違いないからだ。そこで、そうなった場合、アメリカはシリアに軍事侵攻するというように聞こえる。
このバイデン副大統領もトルコとISとの関係を知っている。彼自身、2014年10月2日にハーバード大学で、シリアにおける「戦いは長くかつ困難なものとなる。この問題を作り出したのは中東におけるアメリカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、UAEだ」と述べているのだ。あまりにも多くの戦闘員に国境通過を許してしまい、いたずらにISを増強させてしまったことをトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は後悔していたとも語ったのだが、そうした状況は続いてきた。その仕組みに打撃を与えているのがロシア軍だ。
バラク・オバマ政権では国防長官が昨年2月にチャック・ヘイゲルからアシュトン・カーターへ、また統合参謀本部議長が9月にマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代して好戦的な布陣になった。現在は自分たちが使っている侵略軍がロシア軍に押され、援軍を送り込んでも戦況を変えるには至っていない。
ロシア軍の空爆はアメリカ支配層にとってふたつの衝撃を与えた。ひとつは配下の侵略軍が敗走させられていることだが、もうひとつはロシア軍が予想以上に強かったということである。時代遅れの兵器しか持っていないと思い込み、ロシアと戦争になっても簡単に勝てると考えていたのだが、アメリカを上回る能力があることがわかったからだ。
ロシアの空爆を止めさせ、シリア北部の制空権を握ろうとしたのか、昨年11月24日にトルコ軍のF-16戦闘機がロシア軍のSu-24爆撃機を撃墜したが、最新の地対空ミサイルを配備され、ロシアに制空権を握られてしまった。とりあえず話し合いで時間稼ぎするしかない状況だ。
本ブログでは何度も書いてきたが、この撃墜は待ち伏せ攻撃。内部告発支援グループのWikiLeaksによると、エルドアン大統領がロシア軍機の撃墜を決めたのは10月10日。また、11月24日から25日にかけてトルコのアンカラでトルコ軍幹部とポール・セルバ米統合参謀本部副議長が会談したことも注目されている。
エルドアン大統領がロシア軍機の撃墜を決めた直後、ロシア軍の情報機関はその計画に関する情報を入手、ウラジミル・プーチン大統領へ報告していたと伝えられている。それほど無謀なことをトルコがするとプーチン大統領は考えず、報告を無視したと言われているが、侵略軍への攻撃を止めるわけにはいかず、打つ手はなかっただろう。
ロシア軍機撃墜の黒幕がアメリカの好戦派だった可能性は高いのだが、アメリカ大統領選の有力候補者は軍事や外交の分野において、そうした好戦派の戦略に従うとみられている。これまで最悪の事態を避けられたのはロシア政府が巧みに軍事衝突を避けてきたからだが、アメリカの大統領選挙が終わって時、新政権がアクセルを踏み込みすぎることはありえる。世界には絶望的な気持ちでアメリカの大統領選挙を見ている人が少なくないだろう。