1月25日、昨年来の市場混乱で、本来は火消し役になるはずの中央銀行がその役割を果たせずにいる。北京で21日撮影(2016年 ロイター/Jason Lee)
焦点:市場混乱を中銀が助長、対話不全に募る不信 米中に火種
http://jp.reuters.com/article/cbk-forex-idJPKCN0V30D5
2016年 01月 25日 14:29 JST
[東京 25日 ロイター] - 昨年来の市場混乱で、本来は火消し役になるはずの中央銀行がその役割を果たせずにいる。市場との対話が思うように進まず、予期せぬ大変動を各地で引き起こしている。
リーマンショック後に弛緩した金融政策の限界が露呈しつつあるとの危惧も膨らむ中、市場の不安定化が実体経済に悪影響を及ぼす可能性もある。金融正常化を急ごうとする米国、不慣れな金融自由化の歩みに戸惑う中国という2つの経済大国が、ミス・コミュニケーションのリスクを抱えている。
<揺らぐG20声明の精神>
今年の金融資本市場で、官民ともに最大のテーマとして議論に挙がるのは「金融政策の非同期性」。正常化へ軸足を移す米英と追加策も辞さない日欧。世界が瞬時に影響しあうグローバル経済下で過去に例のない政策かい離が、資本移動を極端な一方向へ傾けるリスクがあるためだ。
民間はそうしたマネーの流れを見定めて利潤を狙う一方、当局は資本逃避やマネーの集積先で発生するバブルを警戒する。混乱回避には政策変更の意図を十分説明する「明確なコミュニケーション」が有効とされるが、20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議が繰り返し声明で言及したこの取り組みが揺らいでいる。
<ECBの構造問題、日銀のカード切れ疑惑>
関係者がまず指摘するのが12月の日欧の動き。欧州中央銀行(ECB)は昨年12月の追加緩和策で慎重派のドイツ勢が反発、小規模な措置しか打ち出せず市場に大混乱が生じた。「(政策は)市場の期待に応えるためのものではない」と平静を装ったドラギ総裁だが、剛腕中銀家「スーパーマリオ」でもまとめきれない対立を水面下に抱えるECBが今後、効果的な追加策を機動的に打つのは難しいと読む声が増えた。
ECB内部では「追加策が必要との判断に至っても、どの国の債券を買うかとなった途端、利害が鋭く対立し議論が紛糾する」(国際金融筋)とされる。ECBに付きまとう制約は金融技術論のみでなく、議論が常に欧州統合という同床異夢の薄氷上で行われること。年末に行われたぎりぎりの議論は、そうした懸念をあらためて浮き彫りにした。
日銀も12月の量的・質的金融緩和(QQE)補完措置発表時に市場を激しく動揺させた。発表資料の注意書きまで読み込まなければ理解できない全容が理解を得るまで時間を要したためだが、なぜ誤解を招くような情報開示をするに至ったのか。参加者の間にはいまだに疑問がくすぶり続けている。
QQEの巨額国債購入はいずれ修正を迫られるとの見方が少なくない。国会論戦でも政策の手詰まり懸念を追及する声が次々に上がる。「実は追加緩和のつもりだったのではないか」(ヘッジファンド幹部)。市場に生じた「カード不足」の疑念は、今でも完全に払しょくできていない。
<世界に広がる中銀不信>
中銀不信はこれら一部主要国にとどまらない。昨年来カナダやブラジル、トルコなど複数の国で予想外の政策決定が相次ぎ、各地の市場が動揺する一因となった。カナダは原油安、ブラジルは急速な景気後退や政治混乱など政策変更を見送った理由は様々だが、総じてにじむのは暴風雨が吹き荒れる市場の前に、なすすべなく立ちすくむ姿だ。
「世界市場で不安定性が増しているため」。金融政策手段の改定を予定しているトルコ中銀が新制度導入を見送り続けている理由が、外部環境の変化にもろい新興国のぜい弱性を象徴する。同国の政策は複数金利の組み合わせが複雑すぎると投資家の批判が相次ぎ、単一の金利操作制度を導入する方針だった。
<爆弾抱える米国、中国は英ポンド危機再来の予兆>
現在、中銀の姿勢が世界経済すら左右しかねないのが米中だ。米は12月の9年半ぶり利上げを無事に乗り切ったものの、今年の利上げ見通しは連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが示す年4回に対し、懐疑的な市場の織り込みは2─3回程度。このミスマッチは必ず「収れん時に市場のボラティリティが上昇する要因となり得る」(IMFアジア太平洋局アシスタントディレクターのリュック・エフェラールト氏)。米市場は現時点ですでに、市場急変という爆弾を抱え込んだ状態にあるといえる。
年始以降の混乱の直接的な引き金となった中国に対しても、参加者の見方は厳しい。金融自由化を受け入れながら市場へ強く関与し続けようとする当局の方針に疑念は強まるばかりで、92年9月の英ポンド危機と同様の混乱の再来を警戒する声も上がる。
ユーロの前身である欧州為替相場メカニズム(ERM)下で実力以上の水準だったポンドを、米投資家ジョージ・ソロス氏が徹底して売り浴びせ、ERM脱退へ追い込んだ史実。当時の英国と現在の中国を重ね合わせて見る声は少なくない。通貨の歴史が示すのは「地力にそぐわない通貨高を人為的に保とうとする行為は、最終的に大混乱と共に修正を迫られる」(みずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔氏)ことだ。
(基太村真司 編集 橋本浩)