東証マザーズ市場の売買の半分近くを信用取引が占める(撮影:吉野純治、写真と本文は関係ありません)
騰落レシオでみた「売られすぎ」局面こそ買いの好機だ
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151222-00097783-shikiho-bus_all
会社四季報オンライン 12月22日(火)19時21分配信
2013年12月より2年間、このコラムを書かせていただいた。週に1回ペースで2年間、新興株に絞って書かせていただいた。開始数カ月でネタが尽き(上場直後の下方修正ネタなどは尽きることはなかったが…笑)、お見苦しいコラムを多々目にされたであろう読者の方、東洋経済の方にはお詫びの気持ちしかないのが本心である。
そんな「新興株市場の深層」だったが、今回をもって最終回となる。アイドルが卒業するときよく言っているように、最後は笑って締めくくりたいと思う。書いているうちに単なる「新興株とかやめとけ」的な論調になりそうな予感もするが、そこは読者の方に「またコレか」と笑い飛ばしていただければ、それはそれでハッピーエンドである。
本コラムがターゲットとした新興株投資とは……あらためて言うまでもないが、基本的にただのギャンブルである。波を読むことが重要であって、パチンコの台選びと大差ない話である。なぜかは売買シェアを見れば一目瞭然だ。
直近のデータとして今年11月の月間売買代金を用いて示したい。11月の東証マザーズ市場における個人投資家の売買シェアは73.7%だった。個人投資家の買い注文に占める信用買い比率は66.7%。ここから計算すると、11月の東証マザーズ市場は「信用取引が49%を占めていた」ことになる。
一方、東証1部はどうだろうか。同期間の個人投資家の売買シェアは20.1%と低いのだが、こちらも信用買い比率は63.4%と高い(さすがデイトレ大国日本である)。ただ、東証1部市場に関していえば、全体に占める個人の信用取引の比率は「12.7%」程度にとどまっている。もちろん、それ以上に影響力を持つ先物、オプション市場が存在するため、東証1部市場における個人の信用取引の影響は、新興株市場に比べてはるかに小さい。
「新興株市場の約5割が個人の信用取引で形成されている」。このことを理解している新興株市場上場の経営者もいる。先日お会いした誰もが知っているバイオベンチャーの社長の言葉は素晴らしかった。「御社の株価、ものすごい上がりましたね」の問いかけに対し、「そんなの気にしてたら事業できないよ。ほとんど信用で買ってるわけだしね」。
一方で、信用取引だらけの特性を理解してはいるが、それを利用しているかのように、投資家が食い付きそうな旬のテーマを敏感に察知したリリースを多用する企業もある。前者のバイオベンチャーのような経営者の企業を探すのは困難だが、後者のような企業を避けることはできるはずだ。それでも、後者のような企業の株価が上がってしまうのが日本の新興株市場でもある。
■ マザーズ指数上昇の背景を知らない市場関係者
信用取引に関しては説明する必要もないかと思うが原則、6カ月以内の決済を前提にする投資である。本来の新興株市場には「まだ実績は十分ではないが、成長の見込めるベンチャー企業が属する市場」という大義名分がある。そういったグロース株が持つ魅力は計り知れないが、半分を信用取引で形成する構造が確立されてしまっており、ファンダメンタルズでいえば「最大でも2四半期分」の業績しか反映し得ないわけである。
ベンチャー企業の半年先……そんな短期間で企業価値がどれほど変わるものだろうか。経営者ですら読めないものを、アウトサイダーの投資家どうしで予想し合っているのである。ミスプライスだらけになるのは必然というわけだ。
そのミスプライス(割高、割安両方)を正常化させる機能があればいい。だが、新興株はアナリストのカバーが少なく、業績予想のコンセンサスが確立されていない。機関投資家が少ないため(以前は「中小型ファンド」も多かったが、今は日経平均型のブルベアタイプのETFが主流)、ファンダメンタルズで適正といえる水準に修正するような価格修正能力を持ち合わせてもいないのである。だから、ただのギャンブルなのである。「さっき売ってたら5万円プラスだったけど、1分後に投げて結局8万円マイナスだった」、みたいな機会を提供するにすぎない市場なのである。
新興株とはそういうもの、と理解したうえで「新興株投資という名のギャンブルに興じていただきたい」これが筆者からの願いである。そして、読者にはぜひ今後も「流されないでいただきたい」とも思うところである。
「流されないでいただきたい」というのは、やたらと目にする「新興株が活気づいているから注目」という市場の声に、である。今年の11月17日〜12月3日にかけて東証マザーズ指数が900ポイントを回復する堅調な地合いになった。この12営業日のうち、11営業日が上昇(下落した1日も0.5%安)という圧巻の動きだった。
この時期にはいたるところで、「新興株が活気づいている」「大型株は(原油安、米利上げ、ハイイールド市場が不安定などで)不透明感が強いため、新興株など中小型株に注目」などと言われていた。そういった話に流されず、自分なりの尺度を持っていただきたいと思うのである。
というのも、よっぽどの新興株好きでもない限り、マザーズ指数と売買代金上位ラインキングくらいしか市場関係者は見ていないからである。この間に「なぜマザーズ指数が上がったのか?」。ここがスルーされているのである。実態は、そーせいグループ <4565> 、サイバーダイン <7779> など、ごく一部の時価総額の大きな銘柄が大幅に上昇した(それぞれ買い材料があって)にすぎないにもかかわらず……。
マザーズ指数は東証株価指数(TOPIX)と同じ加重平均型の指数である。東証と大証の統合以降、ジャスダックとマザーズの違いはほぼなくなり、東証1部に上がりやすいマザーズ市場を選ぶ新規公開企業が続出した。その結果、21日時点のマザーズ上場銘柄数は221(2014年の年末比で16社増加)と、過去最高の上場社数となり、社数的な厚みは生まれている。
それでも、東証マザーズ市場の時価総額は約3.2兆円に過ぎない(東証1部でいえば三菱商事 <8058> 1銘柄分くらい)。そのうち、ミクシィ <2121> 、サイバーダイン、そーせいグループ、タカラバイオ <4974> の上位4社の時価総額を合わせるとどのくらいかご存知だろうか? 約9200億円である。つまり、221分の4、社数ベースではわずか1.8%の存在だが、時価総額ベースでは約29%に相当するのだ。
日経平均採用225銘柄に占めるファーストリテイリング <9983> のウエイトの高さはよく指摘されるが、マザーズのほうがよっぽど異常な偏りになっている。そのマザーズ指数の上昇だけ見て判断した「新興株に注目」的な論調に流されないでいただきたいのである。
■ 「孤独のグルメ」のスタンスで臨もう
まして、マザーズ指数のチャート分析などはまったく意味がないものである。同指数を売買するための先物が存在せず、ETFも存在しない。TOPIXが先物主導であれ買われているのであれば、「先高期待による買いヘッジか?」と読むこともできるが、マザーズ指数はそんな概念がない。その指数のチャートを血眼になって見たところで、どうしようもないのである。
指数だけ見ていてもわからない。これはマザーズの騰落レシオ(=(25日間の値上がり銘柄数の合計)÷(25日間の値下がり銘柄数の合計)×100)からもよくわかる。マザーズ指数が12営業日のうち11営業日上昇していた11月17日〜12月3日の期間で、騰落レシオは80.70%から88.18%へ上昇したのだが……その程度なのである。
今年のマザーズの騰落レシオを平均すると83.5%だった。今年の標準的な地合いにすぎなかったわけで、これこそ(値上がり銘柄数が限られるなか)指数だけが上がっていたことをよく表しているといえる。むしろこの時期、東証1部の騰落レシオのほうが120%〜130%と安定していており、物色銘柄を選びやすかったのはこっちだったはずである。
流されることなく、自分で流れを読むためにできることは何だろうか? この難題について、「本当に新興株市場の地合いが良いときはどういうときだったのか?」「東証マザーズの騰落レシオが本格的に上向いたのはどういう時期だったのか?」という観点からヒントを探してみたい。
12年からのアベノミクス相場の開始直後を除けば、マザーズの騰落レシオが本格的に上がった場面(多くの銘柄が上昇しながらマザーズ指数が上がった場面)はこの3年で4回しかなかった。
この4回に共通するのは、誰もが目を覆いたくなるほど東証マザーズ市場が壊滅状態になった後であるということである。騰落レシオでいえば4回とも65%以下(いわゆる「売られすぎ」)のところからの突き上げだったことがわかるだろう。さらにいうと、マザーズ指数のボリンジャーバンド(日足)でいえば、「マイナス2シグマ」を割れた後で発生しているのである。
つまり、新興株市場というのは、頭で理解するのが難しいほど急落したとき、逆張りでつかみにいく戦略だけが有効な市場なのである。マザーズ指数が上がったから「新興株に注目ですよ!」とアドバイスする指数ウォッチャーの意見に流されることなく、誰もが「これアカンわ……」と見限るくらいの場面でこそ、新興株を調べ始めればいいのである。楽しそうにひとり焼肉をする「孤独のグルメ」の主役のような、そんな行動がとれたら勝ちである(自分が専業投資家だったら絶対無理だが……)。
パチンコでいうところの「ハマってる台をハイエナしましょう」的な話になってしまったが、半分が信用取引でできている新興株市場だから成り立つ話。塩漬け状態で耐えている人が我慢しきれなくなって投げた……そうした投資行動が相次ぎ、需給でいうところのふるい落としの進むことが、その後のリバウンドにつながるという意味では非常に合理的といえる。
最終回ということで力が入ってしまい、無駄に長文となってしまった。あくまで新興株投資の全体観について書かせてもらったが、個別企業でみればここ数年、本当に素晴らしい新興株が市場に出ているのはうれしいかぎりである(その逆も多いが……)。来年もすばらしい新興株との出会いが皆様に待っていることを願うばかりである。ただ……くどくなるが、新興株ハンティングは「孤独のグルメ」的なスタンスで(笑)
最後に……お見苦しい最終回にもお付き合いいただき、ありがとうございました。精進してまた出直したいと思います。その際もぜひお付き合いいただければうれしいです。
(おしまい)
※株式コメンテーター・岡村友哉
株式市場の日々の動向を経済番組で解説。大手証券会社を経て、投資情報会社フィスコへ。その後独立し、現在に至る。フィスコではIPO・新興株市場担当として、IPO企業約400社のレポートを作成し、「初値予想」を投資家向けに提供していた。
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
岡村 友哉