トヨタの自動運転車のデモンストレーション
自動運転車、圧巻の試乗体験…急な割り込みや歩行者に対応、車線変更や合流も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151119-00010001-bjournal-soci
Business Journal 11月19日(木)22時31分配信
ここにきて、自動運転が一気に現実味を帯びてきた。しかも、日本で――。それはなぜか。
第44回東京モーターショー2015で燃料電池車や電気自動車など次世代エコカーと並んで、大きな期待とともに注目を集めたのは、自動運転車とその技術である。
トヨタ自動車は10月6日、自動運転車による高速道路のデモンストレーション走行を実施した。私は、テストドライバーが運転する「レクサスGS」をベースにした自動運転車両に試乗し、首都高湾岸線有明インターチェンジから辰巳ジャンクションを経由し、福住インターチェンジまでの片道5.5キロを走行体験した。
有明入口で料金所のゲートをくぐると、ドライバーはステアリングホイールについているボタンを押し、自動運転モードに切り替えた。ハンドルから手を放し、両手を広げるおなじみの自動運転ポーズに入った。車は、自動的に制限速度の70キロを維持して走る。
カーブにさしかかると60キロほどに減速し、ドライバーが手を動かしていないのに、ハンドルはぐるぐる回る。車線変更では、これまた自動的にウインカー指示を出し、少し減速して並走していた車を先にいかせたうえ、車線を変える。なめらかなカーブ走行といい、スムーズな車線変更といい、想像以上に感動的な走りだった。「ついに、ここまできたか」というのが実感だった。
じつは、トヨタは自動運転に対してそれほど積極的ではないといわれてきた。ところが、“自動運転積極派”に変身したのだ。トヨタ社長の豊田章男氏は、11月6日に開かれた「人工知能(AI)を研究開発する新会社の設立会見」の席上、次のように語った。
「私は以前、パラリンピックの選手は、ウェルキャブ(福祉車両)が一番、最適な車なんじゃないかと自分本位の考え方をしておりましたが、東京オリンピック・パラリンピックの支援をするなかで、いやいやと考え直しました。パラリンピックの選手から、もっとかっこいい車に乗りたいんだという声を多く聞くようになり、自動運転の活用の仕方は、私の考える以上のものがあるのではないかと思うようになりました」
トヨタは、公開されたような高速道路上で車線変更や合流、追い越しが自動でできる市販車を2020年頃に発売すると発表した。ホンダも11月、東京都内の首都高速道路でハンドルやアクセルから両手を放しても道路状況を判断して走る自動運転車の試乗会を開いた。
●圧巻の日産自動車
もっか、自動運転の圧巻は日産である。10月29日から電気自動車「リーフ」がベースの自動運転車の走行を公開した。トヨタやホンダが高速道路での走行だったのに対して、より難易度の高い一般道での自動運転だ。
私は、自動運転車両の開発責任者である日産電子技術・システム技術開発本部ADAS&AD開発部ADAS戦略企画・統括グループ部長の飯島徹也氏自らが運転する自動運転実験車に試乗した。コースは、江東区のお台場付近の一般道の17キロだ。
飯島氏がセンターコンソールに設置された「パイロットドライブコマンダー」というボタンを押すと、実験車は自動運転に切り替わった。自動運転とは気づかないほどスムーズな走りだ。速度メーターを見ると、49キロを示している。左車線を並走するバイクの追い抜き、さらには同車線からの割り込みも自動運転で減速しながら難なくやり過ごしていく。左折の途中で車両左側の横断歩道に人が入ると、これも認識して車はストップし、人の通過後に再発進した。
周囲車両とのコミュニケーション、障害物の検知などを手動運転よりも確実にこなしながら、自動運転走行を続けるではないか。信号も黄、赤をハッキリ識別する。感動ものだ。
「ハイマウントに8つ、ローマウントに4つの計12台のカメラと5つのレーザースキャナーが搭載され、車両の周囲360度の状況をリアルタイムでモニタリングしているんです」と、両手を広げたポーズで運転席に座る飯島氏は説明する。
50メートル、80メートル、150メートルと焦点距離の異なるカメラが搭載され、障害物のほか、車線や信号、標識などを認識することが安全な自動運転につながっているのだ。もっとも先端的なのは、米シリコンバレーのASC製のレーザースキャナーだ、と飯島氏は続ける。
「このレーザースキャナーは、世界初の搭載です。高速であれば車間距離が広がりますから、1メートル単位でいいのですが、一般道では車との距離が詰まってきて、例えば横のバイクとの接近距離が1メートルを切ることもある。そうなると、2、3センチで距離を測りたい。それができるのが、このレーザースキャナーなんですね」
実際、自動運転車が走行中に減速し、軽くブレーキが作動する場面があった。カメラが歩行者を認識したためである。この自動運転車両の一台の開発費用は、約1億円だという。私は、自動運転車の実用化は意外と早く実現するのではないかと感じた。
日産は、自動運転車を三段階を踏んで市場に導入する計画だ。まず、16年に高速道路の同一車線上での自動運転システム、18年に危険回避や車線変更を自動的に行う、複数レーンでの自動運転技術導入。そして、20年にはドライバーの介入なしに、十字路や交差点を自動的に横断できる自動運転システムを搭載した車の発売を計画している。
●日本の先端技術
日本の自動車メーカーが自動運転の分野で世界をリードする存在なのは、いったいなぜなのか。
第一に、日本には世界に冠たる半導体、人工知能、センサー、カメラなど、最先端技術がある。それを今回の東京モーターショーで見せつけた。指摘するまでもなく、現代の車はカーナビなどの情報収集にとどまらず、安全確保に電子機器をフル活用することが求められる。いまや電機メーカー、ITメーカーなくして車そのものが成り立たない。ましてや、自動運転となれば余計にそうである。
であるとしたならば、日本の電機メーカーの出番は、限りなく増えてゆく。それどころか、米国の自動運転をリードするグーグルに象徴されるように、日本でも11月13日、日立が自動運転の実験車のテスト走行を行った。
今回の東京モーターショーには、日立オートモティブシステムズ、三菱電機などの電機メーカーがブースを構え、さまざまな電子車載機器を出展していたのが目を引いた。
日立オートモティブシステムズ会長兼CEOの大沼邦彦氏は、モーターショーのプレスブリーフィングの席上、安全性に加えて、省エネ、乗り心地に配慮した「スマートADAS(先進運転支援システム)」を開発中だとして、次のように説明した。
「走行中、カメラの画像認識や地図情報をベースに必要な駆動力を予測して、エンジンを停止したり、また、ステアリング、ブレーキなどを制御して、スムーズな挙動で快適性を向上するシステムを提案していきます」
日立グループは15年9月から、市街地での自動運転走行を視野に、米国ミシガン大学キャンパス内の「Mcity」において、この「SMART ADAS」の実験を行っている。「Mcity」は、信号機や標識などのほか、雪や氷などの過酷な路面を含めて、実際の市街地に近い環境が再現されるなど、自動運転車両が市街地走行時に直面するさまざまな状況のシミュレーション施設が整備されている本格的な実験場である。
●多数のメーカーが注力
三菱電機は、自動運転のコンセプトカー「EMIRAI3 xAUTO」を出展し、周辺監視技術、人工知能技術、高精度位置把握技術を用いた、リモコン式自動駐車、夜間対応自動ブレーキ、車線維持、車間通信合流支援など、技術の展開例を披露した。また、高度運転支援技術を紹介するコンセプトカー「EMIRAI3xDAS」では、3次元ヘッドアップディスプレイなどの表示装置、視線移動低減ヒューマンインターフェイスなどを紹介した。三菱電機専務執行役の大橋豊氏は、こう語った。
「三菱電機の自動車機器事業は、80年の歴史があります。高度な予防安全技術、自動運転、高度運転支援に向けて、より安全で安心なシステムを実現します」
モーターショーにこそ出展しなかったが、パナソニックは車載事業の売上高を18年度に2兆1000億円とする目標を掲げている。
例えば、強みのセンシング、画像処理技術を生かして、ADAS事業の強化を打ち出している。また、車の電子制御システムをサイバー攻撃から守る技術の開発にも着手している。車載情報端末の起動時に不審な動きを1秒以内に検知する技術で、ハッキング対策に有望といっていい。さらに、14年9月、スペインの自動車部品大手フィコサ・インターナショナルを買収したが、これは自動運転車に搭載する電子ミラーを共同開発するためである。
ソニーは、自動運転技術の中核部品である画像センサーの生産に乗り出した。現在の一般的な車載用センサーとくらべて10倍の感度をもつ車載カメラ用センサーを開発、半導体子会社の熊本工場で15年後半から量産を開始する計画だ。
「将来の自動運転車の普及をにらみ、自動車分野を強化する」と、15年1月に開かれた米家電見本市「CES」で、ソニー社長の平井一夫氏は語っている。
●開発立地の適地
日本の自動運転技術が世界をリードする背景として、第二にあげなければいけないのは、日本が開発立地の適地であることだ。
ご存じのように、日本の道路は交通量が多く、車と人が混在するなど道路環境が複雑だ。しかも、高齢社会を反映して、ドライバーも歩行者も高齢者が多い。実際、13年の内閣府の統計によると、日本における交通事故の死者は65歳以上の高齢者が年間2303人ともっとも多く、次いで50〜59歳の420人、40〜49歳の395人と続く。死者数のうち65歳以上の高齢者が占める割合は52.7%である。また、死者数は歩行中が1584人ともっとも多く、次いで自動車乗車中が1415人で、両者で全体の68.6%を占める。
この数字は何を意味するのか。つまり、自動運転技術を磨くうえで、残念ながらというか、日本は最適な立地条件にあるということだ。
「自動運転が比較的容易にできる道路環境といえば、まず、アメリカのフリーウェイですね。日本の一般道が一番難しい。交通量が多いですし、道路に車両や人や自転車が混在していますからね」と、前出の日産の飯島氏もいう。
日本の複雑な道路事情が、自動運転技術を促進するとするならば、難易度の高い日本で自動運転技術を習熟させれば、世界のどこへいっても通用する高いレベルの自動運転技術を確立できることになる。
事実、そこに目をつけたのが、今回のモーターショーに出展したドイツの部品メーカー、コンチネンタルだ。コンチネンタル取締役のヘルムート・マッチ氏は、プレスブリーフィングの席上、日本で自動運転技術に力を入れる理由を次のように説明した。
「日本は、歩行者の数が多い。しかも、車道に歩行者や自転車が混在しています。それから、諸外国に比べて夜間の交通量も多い。加えて、日本での交通事故の死者は65歳以上が半数以上を占めています」
コンチネンタルは14年夏、高度自動運転技術を備えた実験車両が日本のナンバープレートを取得、同10月から公道での走行実験を開始した。「日本の公道における自動運転モードでの走行距離は、7000キロを超えました」と、マッチ氏は同席上、語った。
●自動運転がもたらす大きな効果
自動運転の実現には、まださまざまなハードルがあるのは確かだ。例えば、自動運転車が事故を起こしたら、ドライバーとメーカーのどちらが責任をとるのか。また、現在の道路交通法や製造物責任法で対処できるのか。また、そもそも社会は自動運転をどこまで許容するのか。
しかし、自動運転が交通事故削減、交通渋滞緩和、環境負荷の軽減などにもたらす効果は小さくない。それに、日本が高齢社会に向かうなかで運転をあきらめざるを得なかった人が、自動運転車によって移動の自由を確保できるようになることは、自動車メーカーの大きな社会的使命といえる。
政府は20年の東京オリンピック・パラリンピックを目指して、17年までに公道での自動運転の実験が可能になるよう整備を進める方針を打ち出しており、自動運転をめぐる環境は揃ってきた。世界でも際立って急速に少子高齢化が進む日本は、かねてから“課題先進国”といわれているが、自動運転に関しても、まさしくフロントランナーとしての役割を担っているといえよう。
文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家