治療をあきらめなくてもいいように…(※イメージ)
男性のがん患者数1位に? 進行した前立腺がんの治療法が進化中〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151006-00000001-sasahi-hlth
週刊朝日 2015年10月9日号より抜粋
男性のがん患者数で、胃がんを抜き1位になると予想されている前立腺がん。比較的治りやすいがんとして知られるが、根治が望めない進行がんでは死亡者数が年間1万人を超える。進行した患者を延命できる新薬三つが、昨年保険適用となった。
神奈川県在住の会社員、西田芳郎さん(仮名・58歳)は、2007年の夏、排尿時に尿が出にくいなどの違和感が強くなってきたため、近所の泌尿器科を訪れた。すると、PSA(前立腺特異抗原)という前立腺の病気の指標となる検査数値が異常に高く、横浜市立大学市民総合医療センターの泌尿器・腎移植科を紹介され受診した。すぐに精密検査を受けたところ、PSAは83.14 ng/mLだった。この数値は正常では4以下なので、かなり高かった。前立腺に直接針を刺して組織を採取し調べる針生検や画像検査もおこなった。その結果、がんの悪性度を示すグリソンスコアが8と悪性度が高く、病期はT3bという、精のうまで広がる進行した前立腺がんだった。
西田さんの担当医である上村博司医師はこう話す。
「西田さんには、手術や放射線治療などの局所療法ではがんを除去できない状況であることをお伝えして、ホルモン療法を受けてもらうことにしました。LH‐RHアゴニストという精巣からの男性ホルモンを抑える薬と、ビカルタミドという男性ホルモンが前立腺に作用するのを防ぐ薬です」
前立腺がんの薬物治療は、ホルモン療法の効果が高いので、ホルモン療法を先におこなう。しかし、ホルモン療法はいったん効果が出ても長く治療を続けるとがんが再燃する。抗がん剤はホルモン剤が効かなくなってからおこなわれる。西田さんもまずホルモン剤で治療をおこなったところ、約半年でPSAの数値は正常範囲の1以下に下がった。
ところが、09年に恥骨に転移が見つかり、ホルモン療法とともに放射線治療を受けた。その後、ホルモン剤を変更して、症状を抑え込んでいたが、10年の終わりごろから、再びPSAの数値が上がり、12年3月には16.65と正常範囲を大きく上回り、同時期に胸椎転移が出現した。
このときの診察で、西田さんは上村医師から新しい薬の治験があることを聞き、参加することにした。
西田さんには、当時治験がおこなわれていたアビラテロンというホルモン剤が投与された。アビラテロンは、男性ホルモンであるアンドロゲンの合成に関わる酵素をシャットアウトすることで、前立腺がんの増殖を阻止する働きをする薬だ。
治療を始めると、西田さんのPSAの数値は下がり、骨転移の症状も抑えられた。それから約3年経過するが、現在も、働きながら日常生活を支障なく送っている。
「西田さんは、かなり治療がうまくいっているケースです。ホルモン療法はアビラテロンに加え、エンザルタミドという薬も使えるようになり、治療がやりやすくなりました」(上村医師)
二つのホルモン剤は、14年に保険適用となり、従来のホルモン剤が効かなくなった患者でもホルモン療法が続けられるようになった。いずれも飲み薬で、副作用も強くないため、高齢の患者の福音となっている。
また、ホルモン療法の効果がなくなったときに処方する抗がん剤も、ドセタキセルの進化形である、カバジタキセルという薬が保険適用になり、最終手段として使えるようになった。
「去勢抵抗性と言われる、ホルモン療法が効かなくなった患者さんに対しては、従来は、ドセタキセルという抗がん剤しかなかったのですが、選択肢が増え、生存期間を延ばすこともできるようになり、患者さんが治療に希望を持てるようになりました」(同)
現在、アビラテロン、エンザルタミド、ドセタキセルの三つの薬の優先順位については科学的根拠が確立していないが、患者の状態や副作用を考慮しながら処方することで、去勢抵抗性の前立腺がんも治療をあきらめずに延命を模索できるようになってきた。