[底が知りたい]国内新車販売今後の行方は 日本自動車販売協会連合会会長 桜井誠己氏 年500万台割れ定着を懸念
産業界全体への影響が大きい国内の自動車販売が振るわない。4月の軽自動車増税といった目先の要因だけでなく、人口減や若者のクルマ離れなど構造的な課題が浮き彫りになっている。販売会社の業界団体、日本自動車販売協会連合会(自販連)の桜井誠己会長(島根日産自動車社長)に見通しと対応策を聞いた。
――2015年度に入り新車販売は低調です。
「4月以降、排気量660cc超の登録車販売が前年並みで推移する一方、軽自動車は毎月大きな落ち込みが続く。今春の軽自動車税引き上げやエコカー減税の基準厳格化が響いている」
「14年春の消費増税のショックも大きく、影響は今も続いている。実際、4〜6月の国内総生産(GDP)はマイナス成長となり、景気回復の実感はない。今春の賃金引き上げが個人消費の伸びにつながっていく雰囲気もない」
「買い替え期間も大幅に延びているのも特徴だ。『車齢』(乗用車の新車登録からの平均期間)は05年の6.77年から14年は8.13年に延びた」
――国内市場を長期的にどうみていますか。
「増税前の駆け込み需要が膨らんだ13年度は569万台、反動減があったが軽が伸びた14年度は529万台だった。15年度は500万台前後ではないか。1997年度の消費増税時は96年度の728万台から1年で100万台近く減少し、その後一度も700万台を回復できていない。17年4月には消費税の再引き上げが見込まれているうえ、少子高齢化も進む。長期的には500万台割れが定着するだろうと懸念している」
――収益環境の激変にどう対応していきますか。
「販売会社は消費者ニーズをよりきめ細かく的確に把握し、魅力的な新車が生まれるようにメーカーへ提案する必要がある。顧客の心をつかんだ車がヒットする傾向は強まっている。マツダの独自環境技術『スカイアクティブ』や富士重工業の運転支援技術『アイサイト』などが代表例だ」
「店舗網を維持・発展させるには車検や整備などのアフターサービス、中古車販売、自動車保険やローンなど、新車販売以外の収益源を増やす必要がある。整備のために車を預けていただく時の『安心や信頼』度合いが、それぞれの企業の個性となり魅力となる」
――東京モーターショーが10月末から始まります。
「電気自動車(EV)などの新しい動力源や、自動運転といった新技術が披露される。消費者にはぜひ直接見て、触れてもらいたい。モーターショー前後は各社から発表される新車が市場を刺激することを期待している」
さくらい・しげき 75年(昭50年)慶大院修了。78年島根日産自動車入社、94年社長。00年日産プリンス鳥取販売社長。09年日産サティオ島根社長を兼務。14年2月自販連会長。65歳
〈聞き手から一言〉
消費者との関係、見つめ直す時機
税金など外部環境を販売低迷の理由に挙げる声は多いが、これまで本当に顧客に寄り添って走ってきたのか――。500万台割れ定着の言葉には、消費者との関係を見つめ直さなければならない時にきているとの思いが込められている。
若者が興味を持ちそうな車は増えている。時速5キロメートル刻みで指先で速度調整し前方車両を自動追尾する機能は、IT(情報技術)機器を扱う感覚のようだ。電気自動車(EV)独特の加速感はガソリン車では得られない。従来の価値観から一歩踏み出した魅力、そしてそれをアピールする力が問われている。(松本正伸)
[日経新聞9月20日朝刊P.5]