4-6月期の個人消費は、前期比0.8%減だった〔PHOTO〕gettyimages
消費税は5%に戻すしかない 〜このままでは「失われた20年」に逆戻りする チャイナ・ショック!世界経済の「明日」を読む (3)
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2015年09月08日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
この2年、株価は上がったが、国民にその恩恵が行きわたっているわけではない。その「主犯」の一つが昨年4月の消費増税であることは、もはや言うまでもない。
■もう一喜一憂したくない
「今回の『チャイナ・リスク』で、日本経済は大きなダメージを受ける可能性が高い。その状態を引きずって、'17年4月に消費税を10%にすれば、昨年、増税したときよりも、日本経済は深刻なダメージを受けるでしょう。
'97年の増税の際は、東アジアの経済危機が同時発生して、日本では金融危機が起こりましたが、そのときと同程度のショックになる可能性があります。いまの段階では現実的ではありませんが、本当なら消費税は、5%に戻したほうがいいのです」
上武大学ビジネス情報学部の田中秀臣教授が指摘する通り、日本経済は外的要因で良くなったり悪くなったりする状態が続いている。
確かにこの2年あまりで株価は上がったが、日経平均が一日で1000円も上下するように、不安定極まりない。トヨタやメガバンクを筆頭に、大企業は何社も「過去最高益」を達成しているが、これも円安を受けた「数字のマジック」という側面が大きい。国民一人ひとりに、その恩恵が行きわたっているとは言い難い状況だ。
いつになったら「株価」や「為替」に一喜一憂せず、確かな回復の実感を得られるようになるのか。
その「主犯」の一つが、昨年4月に実行された消費増税であることは、もはや言うまでもない。
「消費税が8%に上がって以来、それまでゆるやかに回復していた個人消費がガクンと落ち込みました。この年の4-6月期の『民間消費』は、前期比の年率換算で19%減という非常に悪い数字でした。その後は、四半期ごとに前期比2%くらいで改善してきましたが、当初の落ち込みがあまりに大きく、伸びは非常に弱い」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員・片岡剛士氏)
金融緩和をして、需要を喚起しようとしながら、一方で増税をして消費を冷え込ませる。安倍総理が選択した「アクセルとブレーキを同時に踏む」という政策は、「アベノミクス」の効果をすっかり相殺してしまっている。
身の回りを見れば、いまは様々なモノや商品の値段が高い。これまでは気軽に入れた、マクドナルド、吉野家といった価格帯の安い店でも、気がつけば、円安と消費増税の影響を受けて値上げが起きている。
以前は「一人勝ち」をしていたユニクロでさえも、今年6月、売上高が、前年同月比で10%以上低下した。
日本国内での新車の販売台数は、今年7月には約42・5万台だったが、これは'14年から3・5万台減、'13年からは4・7万台も減っている。
■来年夏が分かれ道
円安による物価高に消費増税が重なったことで、政府の想定をはるかに超える「買い控え」が起きているのだ。
「国民の懐は厳しい。現在、特定の商店街で使える、お得な『プレミアム付商品券』が人気ですが、多くの国民が節約志向になっている証拠です」(早稲田大学政治経済学部・若田部昌澄教授)
明治大学政治経済学部の飯田泰之准教授は、昨年4月の段階で、消費増税はタイミングが早すぎると考えていた。
「まだまだ企業の業績が上がり、人手不足になって、賃金が上がる余地があったのに、そこで増税し、景気を冷やしてしまった。あのタイミングでの増税は間違っていたと素直に反省すべきです」
8月17日発表の4-6月期のGDP成長率は年率換算で1・6%減だった。しかし、甘利明経済再生担当相は、まったく危機感がない。
「一時的な要素はかなり大きいと思います。天候不順、特に6月は低温で降雨量が非常に多かったわけであります。そこで、エアコンを中心とする白物家電の伸びがかなり落ちました」
天候不順など、外部要因のせいにしてばかりで、政府の失策を真摯に反省するということをしない。
しかも、この数値はあくまで速報値であって今後、下方修正がなされることも十分に考えられる。
また、現在の「世界同時株安」の様子を見れば、7-9月期、さらにこの数値が悪くなるのは目に見えている。
そんな状況で、'17年4月に消費増税が迫っているのだ。増税すれば、「失われた20年」に逆戻りすることは明白だ。
安倍政権は躍起になってインフレを進めようともしている。不況と物価上昇が同時に進む、スタグフレーションという最悪の事態に突入するのは間違いないだろう。
「'14年の結果を見れば、あのタイミングでの増税が間違いだったということはハッキリしています。現段階でも、'17年までに景気がよくなる要因はない。増税は避けたほうがいいのではないかと思います」(前出・若田部氏)
脆弱な日本を待ち受けるのは、2020年の東京五輪だが、そんな状態で、果たして五輪を満足に開催することができるのだろうか。
仮に、無理をして五輪を行った場合、「その後」がさらに怖い。五輪後の経済破綻がささやかれているからだ。
現在は、五輪に向けて、大きなインフラ整備など、需要を押し上げる事業が多く、なんとか内需が保たれているが、五輪後は、この需要がピタリと止まってしまう可能性が高い。
'04年のアテネ五輪後、ギリシャは無理な公共投資が原因で財政が悪化し、不況に苦しむことになった。それが現在の危機にもつながっている。東京五輪でも、同様の事態は想定できる。
政府は、いますぐにでも、対策をする必要がある。田中氏は財政政策に積極的だ。
「すぐに補正予算を組むなどして財政政策で対応をすべきだと思います。最低でも10兆~20兆円の幅で、事実上の減税を行う。社会保険料の減額や所得控除などです」
'16年の夏には、参院選挙が控え、場合によっては衆院とのW選挙の可能性もある。
こんな状態が続けば、そこで消費増税が争点となることは間違いない。
増税か、棚上げか、はたまた減税か。その選択次第で、国の行く末が変わる。'16年夏は、日本経済の分かれ道だ。
「週刊現代」2015年9月12日号より