原発ゼロで、 なぜ電気が足りているのか?
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2015年8月12日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家] ダイヤモンド・オンライン
『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
このたび、壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が大反響となり、第4刷が決まった。
8月末に予定されている大手書店講演会も即満員御礼になったという。
なぜ、今、この本が注目されているのか?
新著で「タイムリミットはあと1年しかない」と、身の毛もよだつ予言をした著者が、驚くべき電力最新事情と安倍晋三内閣総理大臣への質問状を紹介する。
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
■「再稼働反対57%」なのに、なぜ再稼働するのか?
改めて言っておきたい。
そもそも安倍晋三が原発を再稼働すると決断したのは、昨年、2014年2月25日に、政府がエネルギー基本計画を決定し、そこに「原発を重要なベースロード電源と位置づける」とし、この時点で運転ゼロとなっている原発の「再稼働」を推進すると明記したことから始まったことである。
現在の日本の報道では、衆議院で強行採決された安全保障関連法案に対する怒りの反対世論だけがクローズアップされているが、安倍晋三に対する「不支持51%」(共同通信・毎日新聞の世論調査)より、「原発再稼働反対57%」(同日の共同通信世論調査)の数字のほうが大きいのである。
勿論、いずれも重大な問題であり、この「戦争」と「原発」の両方に、安倍晋三個人がなぜ固執してファシズム政治をおこなっているかという歴史的な謎を解いたのが、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』である。
日本政府が、国民世論の圧倒的な再稼働反対の声を無視している事実を、放置していいはずがない。
政府がエネルギー基本計画で使った言葉「ベースロード電源」とは、左の図の一番下(黒い部分)のように、一日中ずっと運転し続ける電源という意味である。
これを、「消費者の電力需要の激しい変化に追随できない原発」に任せよう、という政策である。
そして、昼過ぎにピークに達する変化する分は、火力と水力を調整しながら電力を供給しようという。
驚くべき無知である。
何度も言うが、日本は世界最大の地震国である。
左の世界地図に見られる通り、アメリカ・ヨーロッパ・ロシアにも「赤点」で示される原発は多数あるが、「黒点」で示される中規模以上の地震発生地点には、アメリカ西海岸を除いて、原発がまったくない。
つまり発電用の原子炉を開発した人間たちは、「地震のない国」だったのである。したがって、それを欧米から輸入した日本と台湾は、黒点の上に、赤点を乗せた、トテツモナイ危険な国家になったわけである。
■東日本大震災の教訓をもう忘れたのか?
4年前の東日本大震災では、津波だけがメルトダウン事故の原因になったのではない。放射能が大量に放出されたのは、配管の至るところが破壊されたからである。
そこで、日本の原子力発電所では、大地震でなくとも、中規模の地震で運転を停止するようになっている。
普通の地震が起こると、原発が運転を停止するのだから、ベースロード電源がなくなってしまうわけだ。日本全土どこでも、原発に頼っていた地域では、たちまち電力不足に陥ることになる。それを教えたのが、東日本大震災である!
その頼りない原発に日本人の生活を賭けるほど愚かな政策はない。
この馬鹿げたエネルギー基本計画を安倍晋三の頭に吹き込んだのは、経済産業省の官僚たちである。つまり日本では、「経済」も「産業」も考えずに、原発のメカニズムも知らない愚かな人間が「経済産業省」を名乗って、エネルギー計画を進めている。
原発の運転ストップによる電力不足は、一般家庭ではなんとかやりくりできても、病院や福祉施設は、電気に多くの医療機器を頼っているので、重度の障害者たちはすぐにも命にかかわる危険性がある。
多くの人命が奪われた東日本大震災の教訓の第一は、原子力発電所のように巨大な電源は、同時にいっせいに失われる、ということであった。そこで、電源は、小規模のものを分散して配置しておくほうが、臨機応変に対処でき、はるかに安全であることを学んだのである。
だからこそ、現在まで「原発ゼロ」をほぼ二年間続けてきて、春夏秋冬、すべての季節で電力不足が起こらなかった。
■この二年、「天然ガス+石炭火力」で78.5%供給の事実
では、この二年間、誰が、その電力を供給してくれたのだろうか?
2014年度の「電力会社の電力」は、この表の通り、ほとんどが天然ガスと石炭火力の合計で8割近い、78.5%が供給されてきた。ホルムズ海峡に関わる「石油」火力は、東日本大震災後にピンチヒッターとして使われただけなので、2014年度はその分の多くをさらにガスが代替して9.3%に下がり、ガスの比率がますます高まっている。
一番下にある「新エネルギー3.2%」がいわゆる自然エネルギーであり、「原子力0%」は、「必要もないのに運転されていた」福井県の大飯《おおい》原発が2013年9月15日に運転を停止してから、この通り「原発ゼロ」の静かな時代を迎えたのだ。
主力のガス火力は、大都市の台所で使われている安全なメタンガスを、きわめて効率よく(原発の二倍のエネルギー効率で)燃焼する「ガスコンバインドサイクル発電法」を柱にして、安価に生み出している。
これで明らかな通り、原発はまったく不要であり、自然エネルギーも、当面は不要である。ちょうど先月、のどかな農村の、しかも登山客などが集まる観光地帯でタクシーに乗ったところ、運転手さんが、「見てご覧なさい。どこにでも太陽光パネルを敷きつめて、ひどいもんだね……」とあきれていた。
地元では、農地に敷きつめられる太陽光パネルが、景観を破壊してひどく不評である。自然エネルギーの普及は、長期的に少しずつ、自然界を破壊しない範囲でゆっくり進めなければならない。金が入るからといって、あわててはいけない。
主力となった天然ガスは、世界的な見込み埋蔵量が、年々増加して、当面ほぼ無尽蔵だというのが、ガス業界の予測である。
イランからのガス輸入もますます有望になってきた。石油とガスを世界中に売りたいイランにとって、ホルムズ海峡を封鎖することなど、あり得ないのだ。
一体、あり得ない中東のエネルギー危機を持ち出して危機を煽り、日本の戦争参加を押し売りする安倍晋三の頭の中は、どうなっているのだ。
■日本全土の4分の1で「自家発電」が!
もっと大きな希望がある。
実は、さきほど示したガス・石炭など電源別のシェア分布の数字は、電力会社の分だけである。2013年度の資源エネルギー庁電力調査統計によると、「自家発電」の発電量は、すでに全発電量のうち24.5%を占めているのだ。
自家発電?
そう、東日本大震災後、主に一流の大企業が電力会社から電気を買わずに、自社で発電して、工場などでの大量消費電力をまかなうようになっているのだ。それがすでに日本全土の4分の1を占めるまでになっている。
これは大変な数字である。
その主力電源も、ほとんどがガスと石炭である。勿論、原発の電気は1ワットも入っていない。自動車メーカーのトヨタ、ホンダをはじめ、通信業界のNTT、ガス大手の東京ガス・大阪ガス・東邦ガス・西部《さいぶ》ガス──これらの優秀なエネルギー企業が、来年4月からの電力完全自由化でいっせいに動き出す。
そして電力会社よりはるかに安い値段で、われわれ一般家庭に電気を売ってくれる時代に突入するのだ。
■ニューホープ!「ガスヒートポンプエアコン」の躍進
もうひとつ、ガスヒートポンプエアコンの活躍も、めざましいものがある。
日本のオフィスでは驚いたことに、夏場の電力消費の40%がエアコン(つまり冷房)に食われてきた。
左の図のように、北海道を除けば、夏の一日の電力の消費者の分布は、昼過ぎ2〜4時あたりに電力消費のピークに達するが、オフィスなどの業務用ではそのピーク電力の40%を冷房に使ってきた。
それを動かすのが、電動エアコンであった。
ところが、ガスヒートポンプエアコンを使うと、このピーク電力の90%をカットできるのだ。そこで2013年度には注文が殺到して、震災後に売り上げがほぼ倍増の急伸中である。安価なガスを使うことによって、まったく節電などせずに、今まで通りエアコンを動かして、ますます電力の消費量が減ったのである。
安倍晋三がやろうとしている、再び原発を動かす暗黒時代を、読者は求めますか?
ガス火力であれば、運転を停止しても、すぐに運転を再開できるが、原発は地震で運転を停止すれば、当分動かせない不細工な発電所である。
ちょっとした地震で、その電力不足を起こすのだから、日本の産業機能と社会生活を破壊する発電所だ。
電気は、日本の江戸時代、1800年代に現在の発電法の基本技術が発明されて、昔から使われてきた貴重なテクノロジーである。決して、「電気を使うこと」に問題があるのではない。
パソコンであれ、インターネットであれ、電話であれ、テレビであれ、冷蔵庫や洗濯機の家庭電化製品であれ、あらゆる工場の機械であれ、福祉用の医療機器であれ、電気なしには日本人の生活は成り立たない。
よくここまで使いこなしたものだと、人間の知恵に驚嘆するほどだ。
その発電法を、核分裂に頼るところから、まったく別の深刻な問題が生まれるのだ。したがって、これは、電気の問題ではない。発電法の選択の問題にすぎない。
安倍晋三に尋ねる。
電気が足りているのに、なぜ原発を動かす必要があるのか!
ガスヒートポンプエアコンの威力を知っているのか?
自家発電企業のすぐれた努力を知っているのか?
原発は、限りなく危険なものであることが実証されたのだから、廃絶すればいいのだ! こんなことも分らずに、よく「国民の命を預かる」総理大臣でいられるものだ。
こんな人間を党首にかつぎだす自民党の腐敗と堕落は、もはや国民の忍耐の限度を超えている。連立を組む公明党も同罪だ。
電力会社も電力会社だ。自分がつくった物を売るのに、ほとんどの消費者が「いやだ!」と言っている原発をわざわざ選んで使うとは、消費者の存在を無視している独善的企業だ。顧客の意思を考えずに物を売るとは、企業人として、完全失格だ。
一般の企業であれば、「お客様は神様」だから、ユーザーを怒らせるこのような非常識は、まったく通用しない。
なぜ電力会社だけが、いつまで、「社会悪」のラベルを貼られ、「誰からも嫌われる企業」から脱却しようとしないのか。人間としての常識を、どこで欠いたのか。
■なぜ、『東京が壊滅する日』を緊急出版したのか
このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。
現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超。2011年3〜6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文科省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。
東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951〜57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。
1951〜57年に計97回行われた米ネバダの大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発〜東京駅、福島第一原発〜釜石と同じ距離だ。
核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウム以上にタチが悪い。
3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。
不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない。
最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?
同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。
51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。
「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!
よろしければご一読いただけると幸いです。