“デフレの申し子”復権の兆し見えず 吉野家とマック、新たな価値訴求に苦戦
http://www.sankeibiz.jp/business/news/150723/bsd1507230500004-n1.htm
2015.07.23 SankeiBiz
低価格を武器に、かつて外食市場を席巻して“デフレの申し子”と呼ばれた吉野家と日本マクドナルドが苦境に立たされている。吉野家は昨年12月の値上げが響いて、来店客数の減少に歯止めがかからない。マックは昨年7月に発覚した、使用期限切れの鶏肉問題なども影響して既存店売上高は6月まで17カ月連続で前年実績を下回る。それぞれ価格以外の新たな価値訴求に苦戦しているのも客離れの背景にあり、“外食の雄”復権に向けた道のりは平坦(へいたん)ではない。
◆「健康」前面も…
吉野家は22日、9月末までの期間限定商品「麦とろ牛皿御膳」を今月27日から販売すると発表した。とろろと麦飯、オクラといった食物繊維豊富な食材と牛皿を一緒に楽しめる定食で、価格は580円。長イモを粗くすり下ろしサクサクとした食感を引き出したのが特徴で、麦飯にはとろろとの相性が良い押し麦を使用した。河村泰貴社長は同商品で「期間内に300万食の販売を狙う」と意気込んだ。
吉野家は昨年12月に主力の牛丼並盛りを1杯300円から380円に値上げ。その後、価格に敏感な客の流出が続き、1月以降、既存店客数は前年同月比2桁減が続く。反転に向け打ち出したのが「健康」を前面に打ち出したメニューの開発だ。
5月には野菜をたっぷり使った「ベジ丼」を投じ、累計170万食を販売した。しかし、インターネット上の投稿サイトでは「吉野家に健康的なメニューは求めていない」との投稿も多く、むしろ「メニューを増やさず、牛丼を値下げしてほしい」との意見も目立つ。2001年に牛丼の並盛り価格を400円から一時的に280円に値下げして、客数を伸ばし「デフレの申し子」と呼ばれたイメージが強過ぎて、顧客の求める価値が価格ありきとなっているためだ。
マックはさらに深刻だ。00年に期間限定の「バーガー半額65円」キャンペーンで、売上高を伸ばし、01年のジャスダック上場時には「デフレ下の勝者」の異名をとった過去のイメージがすっかり定着。しかも、最近では画一的なメニューやサービスが顧客に飽きられ始めていた中で、使用期限切れの鶏肉問題と異物混入問題の発覚が顧客離れを加速させているためだ。都内の40代男性会社員は「週末に子供をマックに連れて行こうとしても嫌がる」と話す。
◆信頼回復が最優先
サラ・カサノバ社長は「信頼回復のための活動に取り組むことが最優先」と言い切る。その一歩として、全国のアルバイト全員にネットを使って異物混入の防止策や発生した場合の対応策の研修を実施。また実際の店舗でも、客席からキッチンの様子を見ることができる「オープンキッチン」店舗を埼玉県と大阪府のそれぞれ1店舗で17日から導入した。導入店は順次広げる計画で、さらに第三者機関による店舗の抜き打ち検査なども実施し、まずは、目に見える部分からの信頼回復に取り組んでいる。しかし、品質面での信頼回復が図れても、買いたくなるメニューなど来店の動機になる価値を見いだせなければ、じり貧状態からは抜け出せない。
コンビニエンスストアが全国の店舗網で弁当だけでなく、ドーナツやコーヒーなどの販売も強化し、イートインスペースの導入も広げる中、競争環境はより厳しい。吉野家とマックにとって、価格以外の魅力的な新機軸を打ち出せなければ、足元の苦境を脱するのは簡単でない。根強い支持層を持つ外食チェーンの両雄なだけに、反転攻勢に向けた“次の一手”をファンは心待ちにしている。(今井裕治)