プエルトリコ、米国の裏庭の債務危機
2015.7.6(月) Financial Times
(2015年7月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ギリシャ危機についてユーロ圏首脳に説教している場合か
プエルトリコは数年前から財政危機が懸念され、「カリブ海に浮かぶギリシャ」とも揶揄されてきた (c) Can Stock Photo
事実上破産したことを発表するのに最適なタイミングなどというものは存在しない。だが、米領プエルトリコにとっては、6月末は大半の時期よりましだった。
6月28日、プエルトリコ政府は長らく計画していた経済報告書を発表した。
世界銀行の元チーフエコノミスト、アン・クルーガー氏が書いた報告書は、プエルトリコが財政危機にあると宣言していた。
アレハンドロ・ガルシア・パディラ知事は、島が抱える720億ドルの債務は今、「支払うことができない」と話している。
だが、発表は大きな不安の種をまくどころか、債券価格が揺らいだだけだった。というのも、ギリシャが全面的な金融危機に陥り、中国市場が急落する中で、プエルトリコが明らかにした事実はほとんど付け足しのように思えたからだ。
クルーガー報告書が浮き彫りにした2つのポイント
とはいえ、プエルトリコで起きていることを無視するのは間違いだ。クルーガー教授の報告書は2つの重要なポイントを浮き彫りにしているからだ。
まず、過剰債務やお粗末な統治、不透明な財政と奮闘している場所はギリシャだけではないということ。次に、欧州と同様に米国も是非とも、公的部門の過剰債務に対処するにあたって、より想像的――そして実際的――になる必要があるということだ。
プエルトリコを苦しめている問題は、単に720億ドルの債務の山だけでなく、債務を再編する明確なメカニズムが存在しないという事実だ。プエルトリコは地方債市場で大荒れの時期を迎えそうだ。イリノイ州など、債務に苦しむ他の組織も近く嵐に巻き込まれるかもしれない。
これを理解するためには、プエルトリコの数字を見るといい。20年ほど前、人口350万人の米領プエルトリコは健全な成長率を謳歌していた。大規模な米軍のプレゼンスと米国本土の企業を引き寄せた優遇税制が成長の原動力となっていた。
だが、その後、優遇税制が終わり、軍事予算が削減された。2005年以降、経済生産は実質ベースで10%前後縮小した。
通常であれば、この状況は債権者のパニックをもたらしたかもしれない。だが、世界市場は流動性で溢れかえっており、地方債は米国人投資家に税控除を認めていることから、むしろマネーが押し寄せた。
おかげでプエルトリコは手厚い福祉制度と、(ひいき目に言っても)非効率で(最悪の場合は)縁故主義がはびこる統治文化を維持することができた。
一方で、プエルトリコの経済生産に対する債務比率は100%を突破した。年金などの積み立て不足の支払い義務を含めると、債務比率は150%に達する。
このパターンは持続不能だ。そのためクルーガー教授は――全くもって賢明なことに――2つの構想を提案している。プエルトリコは福祉支出と人件費の削減などの構造改革を実行しなければならないが、より持続可能なレベルに債務を再編する必要もあるということだ。
プエルトリコの悪夢のシナリオは「アルゼンチン」
だが、ギリシャの場合と同様、プエルトリコ政府に緊縮を受け入れる覚悟があるかどうかは定かでない。なお悪いことに、プエルトリコの債務構造は驚くほど複雑だ。債券が多数の異なる機関によって発行され、保証の種類もさまざまだからだ。
こうした債権者は互いに連携する意欲を見せていない。それどころか、お互いを、そしてプエルトリコを提訴すると脅している。だから今、プエルトリコを悩ませている悪夢のシナリオは、ギリシャというよりもアルゼンチンのそれだ。資本市場から締め出されたまま、何年も法的に宙ぶらりんの状態に置かれるシナリオである。
解決策はあるのだろうか。元米財務長官のローレンス・サマーズ氏が言うように、理論上は、国際通貨基金(IMF)が介入することが1つの解決策になる。だが、プエルトリコは主権国家ではないため、IMFは介入しない。
米国政府はそうと決めればIMF流の役割を果たすことができる。プエルトリコは米領として連邦制度の一部を構成しているからだ。
しかし、オバマ政権は介入を望まない方針を明確にしている。
このことは、残っている選択肢のうち最もましなものは、債権者に妥協を強いる経済計画を監督してくれる第三者の法的レフェリーを見つける道だということを示唆している。米国には、そのための既存のモデルが1つある。地方公共団体に破産法による保護を与える米連邦破産法第9条(チャプター9)の枠組みだ。
チャプター9はデトロイト市の180億ドルの債務の山を再編するために利用された。債務再編の専門家、ケネス・バックファイアー氏は、デトロイトの再編がうまくいったのは、市の行政サービスの回復に重点を置いたからだと指摘する。債権者のヘアカット(債務減免)はこの分析に基づく結果であり、破綻した制度を支えるために課されたものではなかったのだ。
ユーロ圏首脳に説教する前に裏庭に目を向けろ
だが、プエルトリコは領土であって、市ではないことから、米国の法改正なしでチャプター9を利用することが許されない。法改正が近く行われる可能性は低いように思える。共和党の一部が、プエルトリコにチャプター9の利用を認めたら、イリノイ州などの他の米国公共団体もデフォルト(債務不履行)することになると懸念しているからだ。
このため、結果は膠着状態となる。ありがたいことに、事態は(まだ)全面的な危機の火付け役となるほどには悪くない。だが、「支払うことができない」債務の山には、信頼感と成長を損ねる危険な傾向がある。
別の言い方をするなら、米国の当局者がギリシャ問題を片付けられないことについて次にユーロ圏の指導者たちに説教をする時には、まず先に自国の裏庭に目を向けるべきだ。あるいは、例えばチャプター9の規約を改正することで断固たる措置を講じたら、なおいいだろう。
By Gillian Tett
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44219
韓国経済、膨れる経常黒字と冷え込む景況感 MERSが追い討ち、官民挙げての緊急対策でデフレ不況を防げるか
2015.7.6(月) 玉置 直司
過去最長期間の経常黒字を記録している韓国だが、決して喜んではいられない(写真は韓国の仁川港 (c) Can Stock Photo)
2015年7月2日、韓国の中央銀行である韓国銀行は5月の経常黒字が86億5000万ドルだったと発表した。これで39カ月という過去最長期間の経常黒字を記録した。だが、韓国経済は輸出と内需不振に構造的な問題まで重なり、景況感が冷え込み、なかなか明るい展望が見えてこないのが実情だ。
韓国の経常黒字はここ数年、毎年過去最高値を更新している。
2014年は894億ドルに達したが、2015年はこれを大幅に上回るペースで黒字が積み上がっており、暦年で史上初めて1000億ドルを超えるという予想も出ている。
高度成長が続いた頃の韓国は、成長率は高かったが、部品、素材、生産設備を輸入に頼っており、経常赤字に悩んでいた。1000億ドルもの黒字など本当に隔世の感がある。
「不況型経常黒字」という厳しい現実
ところが、膨れ上がる黒字だが、経済に対する楽観的な見方はほとんど聞こえない。というのも、この膨張する黒字額だが、一皮めくると、厳しい現実があるのだ。
韓国銀行の発表の前日の7月1日、産業通商資源部が6月の貿易統計速報値を発表した。それによると、輸出も輸入も1月以降、今年になって6カ月連続のマイナスだった。1〜6月の累計で見ると、輸出は前年同期比5%減、輸入は同15.6%減となった。
つまり、輸出も減少したが、輸入がそれ以上に減少して、結果として経常黒字の大半を占める貿易黒字が増えているということなのだ。6月の貿易黒字額は単月としては過去最大の102億4000万ドルだった。
39カ月連続の経常黒字は過去最長だが、これまでのタイ記録は1986年6月からの38カ月連続の黒字だった。この当時はまだ韓国経済が成長期で、黒字は画期的なことだった。
それ以上に注目できるのは、この時は、1989年7月までの38カ月間で輸出も輸入も大幅に増加していたことだ。それだけ経済活動が活発だったのだ。
今回、輸出が減少しているのは、最大の輸出仕向け先である中国の経済成長率が鈍化している上、世界景気に力強さが欠けているためだ。
輸入が鈍化しているのは、原油価格の下落と国内景気の低迷のためだ。だから、韓国では「不況型経常黒字」という言い方が定着している。
不況型であっても黒字が膨れ上がると、為替もウォン高になりがちだ。そうなると、ますます製品の輸出競争力が落ちる。こういう悪循環が続いているのだ。
輸出以上に深刻な内需の不振
「輸出立国」を掲げてきた韓国だけに、輸出が6カ月連続してマイナスとなることは経済に悪影響を与えている。それでは内需でカバーできるのかと言えば、内需は、輸出以上に深刻な低迷が続いている。
「500以上客室があるが、5月半ばまではほぼ満室だった。今は、空室率が90%だ。連日、キャンセルの連絡ばかり受けているが、8月以降は予約もない」(大手ホテル運営会社幹部)
「6月以降、毎週、外国人の売上高が25%ずつ減っている」(カード会社役員)
筆者の周辺でもこんな話ばかりが聞こえてくる。
韓国ではもともと国内消費は昨年から弱含みだった。輸出の伸び悩みもあって企業業績が停滞気味だった。1000兆ウォン(1円=9ウォン)を超える家計債務はさらに増加を続け、消費の足かせになっていた。
韓国がビザ緩和、MERSで激減の観光客数挽回へ
6月17日、ソウルの金浦国際空港の税関・出入国審査室で消毒剤を散布する作業員ら〔AFPBB News〕
そこに追い討ちをかけたのが中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)だ。5月末に感染者が出て以来、外国人観光客は激減した。国内でも、外出を控える雰囲気が強まり、百貨店や大型スーパーの売上高が低迷している。
韓国に流通業界で好調なのはコンビニくらいだ。というのも、外出はできるだけ控え、買い物は近所で済ませたいという意識が強まっているからだ。
韓国が恐れる日本型のデフレ不況
5月の小売販売は前月比0%増だった。6月の統計はまだ発表になっていないが、大幅に落ち込むとの見方が強い。韓国は2014年に「セウォル号」の沈没事故後に追悼・自粛ムードが広がり、国内消費が冷え込んだ。今回は、これに加えて外国人観光客の激減などもあり、「影響はさらに大きい」との声が支配的だ。
6月の消費者物価上昇率は前年同月比で0.7%。2014年12月以降、7カ月連続して0%台だった。
「韓国は日本型のデフレ不況に陥ったのではないか」――。エコノミストの間ではこんな主張も出ている。
貿易と内需の不振で企業活動にも大きな影響が出ている。
5月の全体産業生産は前月比0.6%減となった。設備投資と併せて、これで3カ月連続のマイナスになった。平均稼働率は73.4%でリーマンショックの直撃を受けていた2009年5月以来の低水準だ。製造業の在庫率は逆に77カ月ぶりの高水準になった。
韓国銀行が調査した、6月の企業景況判断指数(BSI)は66となり、6年ぶりの低い水準になった。5月の80から一気に14ポイントも落ち込んでしまった。
干ばつで農業にも深刻な打撃
もう1つ心配事がある。干ばつだ。5月以降、本当に雨が降らないのだ。日本の九州地方では大雨の被害が出ているが、韓国では一部の南部地域を除いて「日照り」が深刻だ。
農業への打撃は避けられず、すでに一部の野菜の価格が急騰している。農家の収入に深刻な影響が出ることは必至だ。
経済を取り巻く環境はとても「経常黒字過去最大」を肯定的にとらえられる局面ではないのだ。
政府もこんな状況を放置しているわけではない。
7月3日には、総額22兆ウォンの景気対策を実施すると発表した。6月末に、政府は2015年の経済成長率見通しを3.8%から3.1%に下方修正した。
追加予算を編成して財政措置を講じることで何とか3%台の成長を実現させたい考えだ。
だが、民間シンクタンクなどはすでに成長率が2%台に落ち込むとの見通しを相次いで出している。2%台の成長なら高いではないかと思われるかもしれない。だが、韓国の潜在成長率が3%台であり、一部の財閥に経済力が集中している現状では、2%台の成長では庶民経済にとっては深刻な問題だ。雇用にも大きな影響が出かねない。
また、22兆ウォンの景気対策とは言うが、このうち5兆ウォンは税収不足を補うために使うことになりそうで、その効果は限定的だという見方が強い。
さらに、懸念が高まっているのが、ここへきて政府と与党の間で不協和音が出ていることだ。
大統領の怒りが爆発、与党内で不協和音
韓国大統領、新首相に現法相を指名
朴槿恵(パク・クネ)大統領〔AFPBB News〕
景気対策を発表した6月25日の国務会議(閣議)。朴槿恵(パク・クネ=1952年生)大統領は、16分間にわたって話した。このうち12分間が政界批判だった。
この日、大統領は与野党が可決した国会法改正案に対して拒否権を行使した。一連の法案可決の経緯に対して大統領の怒りが爆発し、強い口調で政界を批判した。
国会法改正のポイントは、政府が出す施行令に対してこれまでは「施行令が法律と合致しない場合、国会は所轄官庁の長(主に長官)にその内容を通報できる」とあった。あくまでの施行令は行政の裁量権だという前提だった。
だが改正案では「国会は施行令の修正・変更を要求できる。政府はこれに基づいて処理をし、結果を国会に報告する」とある。
「行政権の侵害で、三権分立に反し憲法違反の可能性がある」――。大統領府(青瓦台)は繰り返し、法案に反対する意向を示していた。だが、与野党が一致して法案を通過させてしまったのだ。
大統領の怒りの矛先は、主に与党、特に国会運営の責任者である院内代表に向けられた。
「政治は国民のためになることを率先すべきだ。過去の政府が(違憲の疑いがあって)断念した改正案をまた成立させるという真意が理解できない」
「政治が正道を歩まず政争に明け暮れ、国民の信義に背を向けて国民生活を担保にとって利益を得ようとする旧態政治はもう終わりにすべきだ」
「政府が進めようとしている雇用関連法案や経済再生法案が国会で3年間も漂流している。与党の院内司令塔は、経済再生を進めるためにどれほど国会で協調を求めてくれたのか疑問だ」
朴槿恵大統領にしてみれば、就任以来、いろいろな法案を出して経済再生を進めようとしてきた。だが、国会で与野党が対立して審議が思うように進まないことにかねて不満を持っていた。
法案が通過しないのならと施行令で何とか対応してきた。にもかかわらず、経済法案を通さず、与野党が妥協して通したのが政府の手を縛る法案だったということが我慢ならなかったのだろう。与党は何をしているのだ、ということだ。
大統領の拒否権行使に野党は反発、経済対策の遅れを懸念
朴槿恵大統領が批判した与党の院内代表は、大統領が与党代表だった時に「秘書室長」を務めたかつての側近だが、ここ数年は疎遠になっていたという。大統領の批判を受け、院内代表は謝罪したが、青瓦台は辞任を求めている。
韓国国会、米韓FTAを批准 強行採決で催涙弾飛ぶ大混乱に
韓国国会の本会議場〔AFPBB News〕
政府与党の不協和音の一方で、国会法改正案に拒否権を発動したことに対して野党は反発している。
「経済対策は急務だが、予算措置を含んでおり、国会を通過させなければならない。政局の混乱で経済対策に遅れが出ないか心配だ」。韓国紙デスクはこう話す。
大企業も、内需低迷には気をもんでいる。政府の対策を待っていられないとばかり独自の「内需振興策」に乗り出した。
サムスンや国民銀行は独自の「内需振興策」
サムスングループは、中小・零細商店などで使える商品券を300億ウォン分購入し、グループ企業の工場などで勤務する協力企業などに配布することを決めた。農家支援のため、ソウル中心部のサムスン電子などがあるグループ本社前に野菜などの直営店を出す。
大手銀行の国民銀行はグループの従業員2万人に対して1人当たり10万ウォンずつ商品券を配布する。現代自動車も、車を購入した顧客に対する割引サービス用として商品券を購入した。
サムスングループは、外国人観光客の激減の直撃を受けた観光業界の支援にも乗り出す。中国やアジアの現地法人の優秀成績社員など1000人を今月後半から韓国に招待するプログラムを始める。
大企業がそろってこうした動きに乗り出すのは、恐らく政府の要請があったためと見られる。だが、それだけ事態を深刻だと認識しているからでもある。だが、こうした行動が、マクロ景気を上向かせるには力不足であるのは明らかだ。
空前の経常黒字の中で、韓国経済の先行きに明るい材料がなかなか見えてこない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44221
乱高下する中国株、売買の8割以上は個人投資家
Q&A 中国の株価指数はなぜ数時間で10%も変動するのか?
2015.7.6(月) Financial Times
(2015年7月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
この3週間で上海総合指数は3割も下落してきた (c) Can Stock Photo
中国には今、米国に次いで世界第2位の規模を誇る株式市場が存在する。だが、いまだに極端なボラティリティー(変動)が特徴的で、代表的な株価指数が数時間で10%も変動することがよくある。例えば、6月のある日には、中国株の時価総額が7000億ドル以上も吹き飛んだ。
■中国の株式市場の投資家の構成はどうなっている?
個人投資家が売買の80〜90%を占めている。その多くは初めて投資する人たちだ。今年5月だけで、1200万件の取引口座が開設された。
このことは、株式を売買する何百万という人たちが2007〜08年の株式市場のバブルと崩壊の直接的な記憶を、ほとんど、あるいは全く持たないことを意味している。
プロのファンドマネジャーでさえ、非常に短期の時間軸で行動することが多い。多くのファンドマネジャーは月間あるいは四半期のパフォーマンスで評価されるため、市場が動く時は、市場の値上がりを追いかけるよう圧力がかかる。
■国の政策は市場にどのような影響を与えたのか?
中国の市場は、よく政策主導型と言われる。それは金融政策の枠を超え、証券や銀行の規制にまで深く入り込む。国営メディアの言葉も一定の役割を果たしており、さまざまな政府機関紙の協力的なメッセージがこれを裏付けている。
だが、政府の発表は自由に解釈できることが多く、何百万人という投資家が真意を読み取ろうとして、急激な上昇や下落につながる。
株式市場が政府にとっての政策手段であり、株価指数が国有企業に偏っている状況が続く限り、中国政府の締め付けが著しく弱まる可能性は小さい。
政府は、例えば外国の大手資産運用会社や政府系ファンドに従来より自由なアクセスを与えることで、長期的な機関投資家を育成しようとしてきた。だが、進歩は遅い。
■信用取引が成長の背後にある主な要因として挙げられてきたが、それは一体どのように機能するのか?
株式を売買するために借りたカネを使うことは世界中の株式市場に共通する特徴だが、中国ではこの1年、この信用取引が爆発的に増加した。
マッコーリーによれば、信用取引が時価総額全体に占める割合は今年に入って過去最高に達した。実際、歴史上、どの時点における他のどの市場のどんな水準よりもはるかに高い割合だという。
高水準のレバレッジは、株式相場がこの1年で極めて急激に上昇した理由を説明する一因になっている。だが、そうした借り入れの結果、投資家が追加証拠金の要求に応えるのに苦しんだ途端、株式市場は急激な下落に陥りやすい状態になる。
規制当局は、金融システムの中で信用取引に伴う融資の水準を下げようとした。これが最近の株価下落の主な理由になっている。
■新規株式公開(IPO)も市場を動かす一因になっているのか?
中国における新規上場のための制度は依然、当局によって厳しく統制されている。国が事実上、新株の発行・売出価格を設定しており、新株を購入できる投資家に迅速かつ大幅なリターンを事実上保証している。
上海市場が急落した時でさえ、新規公開株は大抵、44%の値幅制限いっぱいまで上昇していた。
その結果、投資家は新規上場銘柄が登場する前に市場から資金を引き揚げるため、数日間にわたって数十億ドルの流動性が失われることになる。これが市場を撃沈することがあるが、その後、資金が再び解き放たれた時は市場を押し上げる。
規制当局は、見直しの必要性に気づいており、IPOの承認権限を証券取引所に委譲することを約束している。
■ヘッジのための選択肢はどのようなものか?
中国は株を空売りするための制度を導入しているが、実際にはほとんど役に立たない。借り入れコストが高く、利用できる借株が限られているからだ。
持ち高をヘッジする唯一の実行可能な方法は指数先物を利用することだが、個別の銘柄やセクターを売買している投資家には助けにならない。
代わりに、トレーダーたちは、持ち高を減らしたり増やしたりするために売買する。地合いが変わった時には、これが暴走を招きかねない。
■変化の見通しは?
規制当局が空売りを導入しようとしたということは、問題を認識していることを示している。4月に小型株を空売りする手段が登場したことは、正しい方向に向かう重要な一歩だ。だが、取られた対策は必要とされるものにはほど遠く、当局が相変わらず空売りを容易にすることの影響を警戒していることを示している。
By Josh Noble in Hong Kong
[あわせてお読みください]
中国をフランケンシュタインにしたのは誰だ? (2015.6.26 宮家 邦彦)
中国が株式バブルを膨らませている理由 (2015.6.11 Financial Times)
減少が始まった中国の原油輸入 (2015.6.19 藤 和彦)
世界経済の減速の兆し:円安のインパクト (2015.6.9 The Economist)
「モルヒネ注射」で痛みを忘れる中国経済 (2015.5.5 姫田 小夏)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44225
ギリシャ国民が大差でノー、次は何が起きるのか?
次のヤマ場は7月20日、ECBへのデフォルトはユーロ圏離脱への道
2015.7.6(月) Financial Times
(2015年7月5日付 FT.com)
ギリシャ国民投票、「緊縮策に反対」は61.31% 最終結果
ギリシャ国民投票の開票速報が伝えられた後、首都アテネの同国議会前で喜ぶ少女たち〔AFPBB News〕
ギリシャの投票所が閉まる前から、フランスのエマニュエル・マクロン経済相は、日曜夜に国民投票の結果が「ノー」と出たとしても、ギリシャの左派政権とユーロ圏債権団の間の協議は再開されなければならないと主張していた。
だが、新たな救済合意は数日内にまとまるというギリシャ閣僚らの予想にもかかわらず、マクロン氏と他のフランス閣僚を別にすると、ユーロ圏では圧倒的な「ノー」が継続的な膠着状態以上のものにつながると予想する人はほとんどいない。
もしそれが債権団の条件を大差で拒否したことがもたらす結果なのだとすれば、それはギリシャがユーロ圏離脱に向かうゆっくりとした行進を意味する。
ギリシャは遺書に署名したのか?
「ギリシャは自殺の遺書に名前を書いたところだ」。リスクコンサルティング会社ユーラシア・グループで欧州分析部門のトップを務めるムジタバ・ラーマン氏はこう言う。「フランスだけが今回の国民投票から何かを救い出そうとするだろうが、ユーログループ(ユーロ圏財務相会合)での議論に勝つことはできないだろう」
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は次に取るべき対応策についてフランソワ・オランド大統領と協議するために、月曜日にフランスへ飛ぶ予定になっている。
目先、ギリシャの国民投票に対する最も重要な反応が示されるのはフランクフルトだろう。フランクフルトでは、欧州中央銀行(ECB)の政策理事会が月曜午後に会合を開くことになっている。
ギリシャの有権者がはっきりと救済提案を拒否したことから、ECBの政策立案者らとしては、ギリシャの銀行が緊急融資の担保として利用しているギリシャ政府保証証券はデフォルト(債務不履行)に向かっているという、多くの理事会強硬派、特にドイツ連銀のイエンス・バイトマン総裁の訴えに抵抗するのが難しいかもしれない。
今回の危機における重要な日程は今、7月20日になった。ECBが保有するギリシャ国債について、ギリシャが35億ユーロ相当を償還する期日だ。
この国債でギリシャがデフォルトすれば、ECBがギリシャの銀行から担保を受け入れ続けることがほぼ不可能になり、890億ユーロの緊急流動性支援(ELA)が打ち切られ、ギリシャの銀行部門に大打撃を与えるだろう。
中央銀行がユーロを供給しないと、ギリシャは銀行の営業を再開するために独自の通貨を印刷することを余儀なくされ、ユーロ圏からの「グレグジット」への道のりの賽(さい)が投げられる。
ECBは6日、デフォルトへの道筋がずっと明白になったことから、現行の890億ユーロの命綱を維持するために、追加の担保差し入れを要求しなければならないとの決断を下すかもしれない。
すでに担保が不足している銀行――ギリシャの4大銀行のうち1行は欧州連合(EU)当局の警戒リストに入っているとされる――にとっては、これで崖っぷちから転落し、破産に至る恐れがある。
だが、ECBが月曜に完全に緊急融資を打ち切るというドラスチックな対応を取る可能性は低いだろう。
前回、2012年半ばにギリシャが今と同じくらい「グレグジット」に近づいた時、ECBのマリオ・ドラギ総裁は、これは選挙で選ばれたわけではない中央銀行家が下すには重大すぎる決断だとし、EUの政治指導者に対し、彼らが究極の決断を下さなければならないと警告した。
注目されるECBの判断
欧州中銀、債務危機国の国債買い入れへ 1〜3年債を無制限に
ECBのマリオ・ドラギ総裁〔AFPBB News〕
2人のユーロ圏高官によると、2012年7月、ドラギ氏は欧州委員会、欧州理事会、ユーログループの代表に向かって、各機関はELAと引き換えにギリシャの銀行が利用しているギリシャ国債および他の政府保証証券を保証するよう求められると語ったという。
もしそれを拒めば、ELAは打ち切られ、その後にグレグジットが続く。
その時は、当時のギリシャ首相のアントニス・サマラス氏が方針を転換し、新たな1720億ユーロの救済に従うことに合意した。現首相のアレクシス・チプラス氏は方針を転換する意思は全く見せていない。国民投票で明白な勝利を収めた後は、なおのことだ。
ユーロ圏の当局者らは、今後2週間、7月20日の期限に向けて、似たような出来事が繰り広げられると見ていると話している。ある高官は、ユーロ圏首脳会議の開催が最も可能性の高いシナリオで、その場で各国首脳がギリシャ国債を保証するかどうかを決めなければならないという。早ければ今週にもサミットが行われる*1。
チプラス氏は、ギリシャ有権者の支持があれば、ユーロ圏の指導者たちはギリシャの要求に譲歩し、期間2年のあまり条件が厳しくない291億ユーロの新たな救済措置に合意することに前向きになると語っている。
だが、大半の財務相はその主張を否定しており、多くは7月20日以前に合意が成立する可能性はないと見ている。
たとえ7月20日の国債償還がデフォルトしても、即座にグレグジットにつながるわけではない。ギリシャのヤニス・バルファキス財務相が繰り返し指摘したように、EUの条約にはユーロという共通通貨から国を追放するための条項が存在しないからだ。
代わりにギリシャは何カ月間も宙ぶらりん状態に置かれ、厳密にはまだユーロ圏内にとどまりながら並行通貨を流通させることになるかもしれない。EUの法律家はすでに、このジレンマから抜け出す方法を見つけるために必死に働いている。
だが、グレグジットへの道のりは、そもそも平坦なはずがなかったのだ。
*1=この記事が出た後の発表によると、ユーロ圏首脳会議は7日に開催されることが決まった
By Peter Spiegel in Brussels
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44228
ギリシャの手中にある欧州の未来 国民投票の結果にかかわらず、EUは永遠に変わる
2015.7.5(日) The Economist
(英エコノミスト誌 2015年7月4日号)
今回のギリシャ危機は、どのような結果になろうとも、EUを永遠に変えることになるだろう。
財政緊縮策への賛否を問う国民投票始まる、ギリシャ
ギリシャ・アテネで、緊縮財政策への賛否を問う国民投票の投票を終え、記者団の取材に応じるアレクシス・チプラス首相〔AFPBB News〕
欧州連合(EU)で、ここ8日間のギリシャのような状況が生じたことは、過去に1度もなかった。
シャッターが下ろされた銀行、資本規制、先進国による初の国際通貨基金(IMF)に対するデフォルト(債務不履行)、数十億ユーロ規模の救済プログラムの破綻、ギリシャのユーロ離脱を加速させかねない国民投票の計画、そして貧窮する国民――。
利害がこれほど大きくなければ、これまでの緊急サミットや土壇場の要求は、茶番劇と見なされたことだろう。
ギリシャだけの悲劇では済まない
だが、これは茶番劇ではなく悲劇だ。双方が望まないと口にする結果――ギリシャのユーロ離脱――の可能性がますます高まっているように見える。
このカオスは、ギリシャにとってユーロ離脱が破滅的であることを裏づけている。ユーロを離脱したギリシャが破滅する大きな理由は、デフォルトと通貨切り下げにより得られる多少の利益よりも、政治経済の不安定化による影響の方が圧倒的に大きいことだ。
ギリシャ以外の欧州にとっても、ギリシャのユーロ離脱(いわゆる「グレグジット」)には、繰り返し語られてきたリスクが伴う。欧州大陸の東南隅に破綻しかけた国が存在するリスクについては、特に詳しく検討されてきた。
だが、ドラマが絶望の度合いを深めるにつれ、欧州の人々の心配は逆に小さくなっているようだ。
彼らは、ギリシャの機能不全はギリシャ特有のものであるという事実に安心を見いだしている。ギリシャとの交渉は、駆け引きと、繰り返される誤算に蝕まれてきた。今では多くの人が、ギリシャがいない方がユーロ圏は安定するだろうと考えるに至っている。
残念ながら、それは間違っている。ギリシャの先に目を向けてほしい。ユーロ圏内でのさらなる軋轢という脅威は、ほぼ不可避と言える。ギリシャの離脱はユーロが解消不可能ではないことの証となるものの、どのようなルール違反が追放につながるのかは、誰にも分からない。また、救済において必然的に生じる債務国と債権国の二極化も解消されないだろう。
ユーロが改革の必要性に正面から向き合わなければ、今回の危機か、あるいは次の危機の中で、さらなるギリシャ、さらなる大失態、さらなる悲惨な1週間が生まれるだろう。やがてそれがユーロを、そしてEUそのものを破壊することになる。
機を逸するな
現在のところ、この議論は、ギリシャの急進左派連合(SYRIZA)が率いる極左政権とばかげた国民投票のせいで、分かりにくいものになっている。
7月5日に国民投票が実際に実施されたなら*1、ギリシャ国民は債権者の改革案(もはや交渉のテーブルに載っていない案)と債務持続可能性分析(この評価には経済学の学位が必要だ)を評価することになる。
*1=国民投票は違憲だとの見方もあるが、ギリシャの行政裁判所が7月3日に違憲判断を求める申し立てを却下し、実施が確実になった
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ギリシャのアレクシス・チプラス首相は、改革案に反対すれば債権国との交渉が有利になると主張しているが・・・〔AFPBB News〕
ギリシャのアレクシス・チプラス首相は、改革案に反対すれば債権者との交渉が有利になり、ギリシャがユーロに残留しやすくなると主張している。
それに対して欧州諸国の首脳は、反対票を投じれば、事実上、ユーロ離脱に票を投じることになると反論している。
賛成多数となっても、チプラス首相が政権に居座る可能性はあるし、辞任してもSYRIZAが再び選挙に勝利するかもしれない。どちらも反対を呼び掛けていたにもかかわらず、だ。そうした事態は、プラトンを生んだ国にふさわしい見せ場ではない。
現在の状況に目を戻そう。ギリシャでは今、資金が尽きかけている。欧州中央銀行(ECB)はギリシャの銀行に対する緊急流動性支援(ELA)枠の引き上げを拒み、ギリシャの銀行はぐらついている。ギリシャが7月20日にECBの保有する35億ユーロ(39億ドル)の国債を償還できなければ、現在行われている支援についても撤回の圧力が強まるだろう。
ギリシャ政府は遠からず「IOU(借用書)」の発行による支払いを開始し、やがてはそれが並行通貨として流通していく。そうした対応が1つ講じられるごとに、グレグジットの可能性は高くなる。
加えて、ギリシャが正常な状態に戻るためには、さらに優れた知恵と技量が必要なってくる――ギリシャがこれほど混迷しているのは、チプラス首相がそのどちらも欠いているためでもある。
チプラス首相の無能さは、彼自身の責任だ。だが、1月の選挙で左派の寄せ集めとも言えるSYRIZAが勝ったのも、SYRIZA政権が瀬戸際政策という手段に出たのも、偶然のことではない。
債権者側にも責任
ギリシャの国内総生産(GDP)は過去5年間で4分の1も減少し、失業率は25%を超え、若年層の失業率に至っては50%を上回っている。その責任の一端は、債権者が押しつけた緊縮策にある。債権者は、とりわけ危機勃発当初、ギリシャの財政赤字を、あまりにも大幅かつ急激に削減しようとしすぎた。
最終的にギリシャ経済は成長に転じ始めたが、この間の不況のせいで既存の体制への信用が損なわれた。SYRIZAが政権を握ったのは、ギリシャ国民がその苦難を終わらせ、なおかつユーロ圏内で歓迎されるという幻想を抱いていたからだ。チプラス首相も、自分に交渉力があると思っていた。だが、その力が消え失せるのに伴い、同首相はますます一貫性を失っているように見える。
チプラス首相の誤算を助長しているのは、ユーロプロジェクトの中心に存在する緊張関係だ。チプラス首相は、債権者はユーロ圏の分裂阻止を決意している以上、必ず屈服するはずだと考えていた。だが、債権者が脅しに屈し、債務の返済を果てしなく滞納する国に援助をすることはないだろう。なぜなら、このシステムには規律が必要だという債権者の意思は揺るがないからだ。
チプラス首相は、民主的に権限を委任された主権国家のリーダーとして交渉に臨んできた。だが、欧州北部の首脳たちもまた、それぞれの有権者を代表している。大規模な無条件の財政移転というシステムを受け入れたことは1度もない。
もう後はない
このようなシステムでは、瀬戸際政策と危機が生じることは避けられない。これらは、場あたり的な救済に頼るユーロ圏の姿勢によって悪化し、あらゆる決断を政治化している。双方の対立を生み、債権国では軽蔑を、債務国では恨みを噴出させている。賢明なはずの政策を、土壇場まで相手に与えてはいけない譲歩の策にしてしまっている。
プロセスが失敗に終わったのも無理はない。ここぞという時に、それぞれ拒否権を持つ20を超える交渉の当事者が、それぞれ異なる目論見に従って動き、圧力の中で議論を交わしていたのだから。
同じような負のスパイラルが将来の危機でも起きると考えるのは、あまりにも当然のことだ。例えばイタリアやポルトガルなどの債務国が債務免除の要求を出しても、ドイツやフィンランドによる緊縮策の要求の前に潰されれば、政治と経済が破綻することになるだろう。
現時点でギリシャに必要なのは、新しい首相だ。不誠実なチプラス首相との関係は破綻した。チプラス首相が政権の座に留まるかぎり、ギリシャはユーロ残留に苦労するだろう。
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長期的にはユーロ圏の体制強化が必要になる〔AFPBB News〕
もっと長期的に見れば、ユーロ圏は体制を強化する必要がある。安定した通貨は財政主権とのトレードオフだ。
不況から身を守るために、ユーロ圏の加盟国は自動制御メカニズムを構築しなければならない。例えば、共同の失業保険制度があれば、景気が後退している国に追加の資金を流せるはずだ。
ユーロ圏が必要としているのは、救済プログラムではなく、リスクと責任の共有体制の拡大――なんらかの形の「ユーロ債」、つまり共同保証の公債――であり、それを現在よりも拘束力の強い財政規則により統制することだ。
変化が必要なことは、ユーロ圏も承知している。銀行同盟構想は前進している。5つの欧州機関のトップも、預金保険制度などのアイデアを盛り込んだユーロ強化の方策に関する報告書を発表している。だが、その提案は控えめなものだ。というのも、各国政府が反EUのポピュリストに悩まされているうえ、各国の国民は国の主権を今よりはるかに多く明け渡すことになると思ってユーロ導入を決めたわけではないからだ。
ギリシャの惨事の教訓は、欧州の市民が今すぐユーロの矛盾と向き合わなければならないということだ。そうしなければ、さらに破滅的な状況の中で、その報いを受けることになるだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44223