消費増税と財務省人事の関係 悲願の増税に向けて
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43989
2015年07月05日(日) ドクターZ 週刊現代 :現代ビジネス
■財務省の悲願・消費増税
昨年夏の財務省人事は、木下康司事務次官が退任し後任に香川俊介氏、主計局長に田中一穂氏といった布陣だった。これは、8%から10%への消費増税の決定にむけて、盤石の増税人事のはずだった。
ところが、いま振り返ってみると、安倍首相はその時点で秋の消費増税延期、冬の解散総選挙の構想を描いていたようだ。
そして今夏、消費増税ができなかった香川氏が1年で退任し、後任には田中氏が就任。財務官に浅川雅嗣国際局長、国税庁長官に中原広理財局長、主計局長に福田淳一官房長など、最新の財務省幹部人事が固まった。
財務省の悲願は、'17年4月に予定されている8%から10%への消費増税をなにがなんでもやり遂げることだが、今回の人事は最強の布陣となっているだろうか。
まず、ポイントは田中次官。安倍首相は田中氏を次官にするとしばしば漏らしてきたが、これは田中氏の力量を買っての発言ではなく、安倍首相自らの政治力を示したい意図が透けて見える。
思い返せば、財務省のいうことを無視した政治家は、これまでたった一人しかいない。グリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)をつぶした故金丸信氏だ。金丸氏はその後、税法違反で政治家生命を絶たれた。その両者に関係があるのかどうかは定かでないものの、政治家は財務省権力の強大さを思い知ったはずだ。
しかし、安倍首相は、消費増税延期の解散総選挙で大勝し、財務省にリベンジの隙すら与えなかった。
■安倍政権のもくろみ
次に興味深いのが、佐藤慎一主税局長だ。同氏は昭和55年入省の「55年組」。有力同期はほぼ退官しているので、55年組の唯一残った事務次官候補だ。
一期上の「54年組」は、木下、香川、田中氏と3人も財務事務次官を輩出した。過去にも財務省(大蔵省を含む)で同期から2人の事務次官を出したことはあるが、わずかに「28年組」、「49年組」ぐらいだ。3人も出したのは、財務省の歴史始まって以来だろう。
実は、加藤勝信内閣官房副長官も「54年組」であるので、「54年組」のパワーは突出している。その煽りを食ったのが、「55年組」ともいえる。
主税局長から事務次官になった例はあるが、数少ない。最近では、薄井信明氏('99年7月)、小川是氏('96年1月)、尾崎護氏('92年6月)があるが、いずれも国税庁長官を経由している。佐藤氏が直接主税局長から事務次官になれば、高橋元氏('81年6月)以来である。
財務省の伝統的な考え方からいえば、来年7月の参院選で自民党が消費増税を公約して、勝利することがいい。その際、民主党にも消費増税を公約させて、どっちに転んでも、消費増税になればベストである。その直後の人事で、佐藤事務次官誕生というシナリオはありえる。
ただし、安倍政権としては、佐藤氏に事務次官のニンジンを目の前にぶら下げて、消費増税を政治的な駆け引きに使いたいだろう。来年の参院選の勝利、つまり憲法改正のために、衆参とも連立与党を含めて3分の2以上のために、あらゆる手段を講じてくるはずだ。
場合によってはダブル選挙もありうる。そのために、佐藤氏がどこまで安倍政権のために働くか。それが次官昇格を決めるだろう。
『週刊現代』2015年7月11日号より