ルンバ885(「アイロボット 公式サイト」より)
ルンバ、世界的大ヒットの裏に14個の失敗例 技術より大切な、仮説と検証の愚直な繰り返し
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150705-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 7月5日(日)6時0分配信
ロボット掃除機「ルンバ」は、アイロボット社の主力商品だ。ルンバの大成功を見ると、私たちは「なるほど、ロボット技術を生かしたお掃除ロボットか。アイロボット社も、良いところに目をつけたな」と思いがちだ。
しかし、アイロボット社は、たまたまロボット掃除機を作ったわけではない。2014年には全世界で売り上げ5.57億ドル(約668億円)、利益0.38億ドル(46億円)を稼ぎ出している同社は、自社の強みであるロボット技術をビジネスにつなげられず、苦しんだ時期がある。
アイロボット社のコリン・アングルCEOは、14年に明治大学で行われた講演で、その苦しんだ時期について語っている。講演の中で、アングルCEOは「失敗したビジネスモデル」と呼ぶ14件のプロジェクトについて言及している。以下がそれだ。
(1)映画化の権利を売った上で、月面へのロボットミッションを遂行する
(2)研究段階のロボットを大学や愛好家に売る
(3)おもちゃのロボットのロイヤルティーで稼ぐ
(4)血管の中で血小板をきれいにする極小ロボットを開発し、技術をライセンス供与する
(5)油田の生産工場のために石油業界にロボットを売る
(6)原子力発電所の検査用ロボットを売る
(7)博物館に教育ロボットを売る
(8)工場のフロアを掃除するロボットの技術をライセンス供与する
(9)スマートホーム・ソリューションを開発し、スーパーマーケットに販売する
(10)「ロボット戦争」スタイルの位置情報付きエンターテインメント体験を売る
(11)地雷除去ロボットを売る
(12)ロボット用のオペレーティングシステムを開発し、ライセンス供与する
(13)インターネット経由でデータセンターを管理できるロボットを売る
(14)惑星探査機を開発して売る
月面ミッション、血管の中に入る極小ロボット、エンターテインメント、惑星探査……。「こんな荒唐無稽なプロジェクトを本当に考えていたのか!」と驚いた人も多いのではないだろうか。
一方で、原子力発電所の検査用ロボット技術は、福島第一原子力発電所事故の際に現地に提供され、地雷除去ロボットもルンバとの共通技術を活用して開発されている。これらは「失敗したビジネスモデル」というより、むしろ「現在進行形のビジネスモデル」といえるだろう。
●日本企業が見習うべき「マーケティング思考」
現在のアイロボット社は、ルンバに代表されるロボット掃除機が売り上げの7割以上を占めているが、その大成功の裏には、これら14件のビジネスモデルがあったのだ。
つまり、同社がルンバで成功したのは、単なる幸運ではないということだ。アイロボット社は、自社の技術的な強みを生かした上で、その強みを必要とする対象顧客を絞り込み、顧客の課題をいかに解決してビジネスにつなげるか、いくつもの仮説を考え抜いて検証してきたのである。
つまり、テクノロジー企業であるアイロボット社が実践してきたのは、「モノづくり」ではなく「マーケティング」なのである。
我々が学ぶべきは「ルンバという製品」ではなく、「アイロボット社の考え方」だ。そして、その「アイロボット社の考え方」は、実は同社の専売特許ではない。オーソドックスなマーケティング思考で「顧客が買う理由」を仮説として考え、愚直に検証してきた結果だ。
考えてみれば、日本企業が持っているような優れた技術の蓄積は、一朝一夕に真似できるものではない。一方で、マーケティング思考は考え方を変えれば、身につけるのは難しくない。アイロボット社の成功は、「モノづくり」にこだわってきた日本企業に、「モノづくり思考」と「マーケティング思考」の両輪で考える大切さを教えてくれる。
(文=永井孝尚/ウォンツアンドバリュー永井代表)