無表情、集団生活嫌い…激変した「少年院」収容少年たち
産経新聞 5月16日(土)20時5分配信
無表情、集団生活嫌い…激変した「少年院」収容少年たち
少年院で引きこもり、リーダー不在−。“現代っ子”を指導する教官たちの悩みは…。振り込め詐欺急増で変わる多摩少年院(写真:産経新聞)
お年寄りをターゲットに多額の現金をだまし取る「振り込め詐欺」に手を染める若者が後を絶たないが、若者の変質に合わせ、少年院の指導現場も変化している。収容者に暴走族が多かった昔は面倒見の良いリーダーを育て他の少年を統率する“ピラミッド型”の秩序構造だった。しかし、最近は知能犯の増加もあり集団生活になじめない少年同士が話し合いをしたり、法務教官が膝をつき合わせる“フラット型”に移行している。振り込め詐欺を始めとする「特殊詐欺」による収容者の率が高い多摩少年院(東京都八王子市)を訪ねた。
■無表情で気持ちを表現できない子供たち
「昔は暴走族や粗暴行為者が多く、やんちゃな子がたくさんいた。喜怒哀楽がはっきりしていて、打てば響く子たちばかりだったが、最近は振り込め詐欺や性非行など特殊な非行で入ってくる子が増え、元気がなくなってきた。うれしくても悲しくても無表情で気持ちを適切に表現できない。なぜ悩んでいるのか、何を考えているのかを引き出すだけでも大変になってきています」
関東近県の1都10県から主に10代後半の少年たちが収容される多摩少年院に20年勤務する生活指導主任(46)は、更生の現場の変化をこう説明する。特に、振り込め詐欺などで収容された“現代っ子”たちの急増は、教官を戸惑わせがちだという。
「成績は悪くないし、与えられた役割はスムーズにこなす。個別面接でも表向きは良いことを言うのに、教官とのユースフルノート(交換日記)に『死にたい』という言葉を書いてきたりする」と頭を抱える生活指導主任。
「暴走族出身の子供をリーダー的な存在に育てれば、他の少年たちをピラミッド型でまとめてくれたものですが、今はそういうアプローチでは逆に反発されてしまう」という。
東京郊外の小高い丘の上に建つ多摩少年院。平屋建ての寮5棟に約150人が生活をともにしているが、大正12年につくられた日本初の少年院が時代の波に洗われている。
■『1人でいたい』と単独室を希望
「ラクしてもうかる」と振り込め詐欺への加担をバイト感覚で引き受けたものの、あっという間に警察に逮捕され、少年院送致となる若者が後を絶たない。昨年、全国の少年院に収容された男子少年のうち詐欺は5・9%で3年前に比べ、3倍以上増えている。
多摩少年院に昨年中に収容された男子少年たちを犯罪種別にみると、窃盗に次いで2番目に多いのが詐欺(21・5%)だ。平成24年(5・4%)、25年(17・0%)と急増している。多摩少年院には比較的非行の傾向が低い少年が集められているため、振り込め詐欺などに手を染めた非行者が多く集まっているのだ。
暴走族を始めとする粗暴非行で収容された少年たちはある意味で集団生活に慣れているが、振り込め詐欺で収容された子供たちは色合いが違うようだ。「『一人でいたい』と希望して、半年くらい単独室に入っていた子もいます。実習や体育では集団行動しますが、ご飯を食べたり寝たりするのは1人。そっちの方が落ち着くんだそうです」(生活指導主任)という。
少年院の生活は、集団生活が基本だ。毎日午前7時に起床してから午後9時15分の就寝まで、他の少年たちと過ごす。寮では約10畳の集団室に4〜6人が同居。三食とも寮の仲間と取り、寮に1つしかないテレビをホールで見る。トラブル時の指導などを除けば、教科教育や職業訓練も原則的に集団で行われる。このため、個別対応が長期間にわたると、少年院運営にとっても負担となる。
■受け子、出し子…罪の意識が低い振り込め詐欺
一方、振り込め詐欺で現金の受け取り役「受け子」や現金自動預払機(ATM)で現金を引き出す役「出し子」といった“端役”を演じた少年たちは加害者意識が低く、更生に持っていくまでに時間がかかることもある。
「自分が詐欺に加担しているとは思わなかった」と話すのは、詐欺未遂容疑で逮捕され、多摩少年院に収容された10代後半の少年。街中で「お小遣い欲しくない?」と声をかけられ、受け子を命じられた。携帯電話で指示され、都内の路上でお年寄りの女性から紙袋を受け取ったところで警察官に囲まれた。
「書類を受け取る仕事だといわれていたので『だまされた』と思い、誰も信じられなくなった。被害者のことも逆恨みしていました」。短髪に白い運動シャツ。今は快活に話す少年だが、収容後しばらくは同じ寮の誰とも話さず、教育・訓練もまじめに取り組むことができなかったという。
多摩少年院で社会復帰支援を担当している専門官(35)は「最初は『誰も傷つけていない』と言って反省しない子も多い。お年寄りや弱い人たちからお金を取っているというところまで思いがいたらないんです」と振り込め詐欺の端役をさせられた少年たちの気持ちを代弁する。
このような状況下ではまず、自分の家族関係に置き換えて考えさせたり、何年かかっても返済できない大金であることを被害弁済の視点から認識させるようにしているという。さらに、「ラクしてお金が入るのはおかしい」「働くのはお金のためだけではない」と労働の意義を教え、再び非行に走らないよう指導している。
少年はその後、「迷惑がかかったのは自分ではなく、被害者や母親だった」と気付いた。多摩少年院では、サッカー大会や演劇祭などの行事が行われているが、運動会で寮の仲間が優勝を目指して一致団結したことで、集団生活への違和感も消えた。ワープロや溶接の資格を取得し、出院後の就職先も決まった。「いまはここに来てよかったと思っています」
■30秒で済んだ指導が3〜5日かかるように…
収容者の多様化が進む少年院の指導現場だが、人間関係がドライな時代が少年たちの“リーダー不在”の原因ともなっているようだ。生活指導主任は「最近は、リーダーの資質、人間的な魅力のある子がいない気もします。他人のことが考えられないというか…。やったことは悪いが、仲間は大切にしたい、守りたいという子がいたものです。強力なリーダーが生まれづらい時代です」と打ち明ける。
そこで多摩少年院では、「処遇の個別化」と「集団生活を通じた社会化」を処遇の原則としている。
少年それぞれの特性に合わせて何を求めているのかを見つけ、教官が個別に指導したり、トラブル時に少年同士で話し合いの場を設けるのが「処遇の個別化」。集団生活の中で「運動会で優勝する」といったような1つの目標を据え、団結する中で社会性を身につけさせるのが「集団生活を通じた社会化」だ。
指導が綿密になった分だけ、時間もかかるようになった。「昔は30秒で済んだ話が、3〜5日かかるようになりましたが、少年たちにとっても気づきが多く、より有効だと思います」と話す生活指導主任は仕事のやりがいを感じている。
「一皮剥けば、子供たちの素の姿は変わっていない。そこにたどり着くための時間がかかるようになったということでしょうか」
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最終更新:5月17日(日)1時47分産経新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150516-00000515-san-soci
【衝撃事件の核心】
地方の暴走族少年「出稼ぎ」はオレオレ詐欺!? 貧乏出張で酷使、使い捨ての残酷
2015.1.22
「モノを運ぶだけの仕事」。先輩の誘いを断れず、わずかな報酬をつかまされて大阪から東京へ。着慣れぬスーツに身を包み、向かった先は高齢者の自宅。暴走族の少年らが請け負った仕事はオレオレ詐欺の現金受け取り役の「受け子」だった-。暴走族の少年らを受け子として利用していたオレオレ詐欺グループのメンバーが一昨年から今年にかけ、大阪府警に逮捕された。オレオレ詐欺は受け子など、逮捕されるリスクの高い“現場”には未成年者らが勧誘されるケースが多い。だが近年、東京での事件摘発が相次いだたため、受け子らのなり手が枯渇気味という。今回逮捕された少年らも、大阪でスカウトされ、東京で犯行に加わっており、地方がオレオレ詐欺の人材供給源と化している現状を浮き彫りにした。
■受け子は暴走族
「東京でオレオレ詐欺をした」
きっかけは暴走族の少年の告白だった。
平成25年1月に大阪市港区の国道127号で6台のバイクに分乗し、集団暴走をしたとして、大阪府警は同年2月以降、暴走族の少年ら10人を順次逮捕した。この事件の取り調べの中で、1人の少年がオレオレ詐欺に加担していたことを自供。少年計3人がオレオレ詐欺に関与していたことが判明した。
府警は4〜6月に詐欺容疑で少年3人を再逮捕すると、関連捜査で、ほかの不良グループの少年2人の関与も割り出し、6〜7月、詐欺容疑で逮捕。5人はいずれも現金を受け取る役割の「受け子」だったため、府警はさらに中核へ向けて捜査を広げ、犯行現場で少年らを監視したりする「管理役」や、少年らが被害者からだまし取った現金を受け取る「現金回収役」らも逮捕し、逮捕者は芋づる式に計10人に上った。
「電車の中に会社の金が入ったかばんを忘れた。このままじゃ契約に間に合わない」。10人は、25年2月に東京都日野市の80代女性に息子を装って電話し、現金640万円をだまし取ったとされるなど、同月中に都内の高齢者計6人から計約3400万円をだまし取っていたという。
■「社会人」に変身
暴走族の少年らはもともと、暴走族OBでもある地元の先輩から「東京でモノを運んで数万円もらえる楽な仕事だ」と勧誘されていた。
先輩後輩の縦のつながりを嫌う暴走族も増えてはいるが、いまだ「先輩の言葉は絶対」との感覚を持つグループや不良少年は少なくない。
逮捕された少年らは先輩の勧誘を「命令」と受け取ったといい、調べに対し「先輩が怖くて逆らえなかった」「断ったらしばかれると思った」と明かした。
こうして誘いに応じた少年らはまず、大阪で暴走族OBの先輩から、それぞれ1万〜2万円を渡された。東京への片道の交通費と1泊分の宿泊費だ。帰りの交通費は向こうでもらえるらしい。少年らは足が出ることも考え、新幹線ではなく、夜行バスに乗り込んで東京に向かい、1泊3千円程度の宿を探し出したという。
東京に着き、ホテルにチェックインすると、入念な準備が待っていた。
受け子は被害者から現金を受け取る際、「会社の上司の知人」や「弁護士の見習い」といった社会人を演じないといけない。即席で社会人になりすまして信憑(しんぴょう)性を持たせるため、茶髪を黒く染め上げ、ホテルに備え付けの整髪料を髪になでつけた。スーツは、詐欺グループの「衣装担当」からレンタル料1万円の有料で貸し出された。使い慣れない敬語も勉強し、セリフも練習した。
準備が整うと、貸与された携帯電話が鳴り、指示に従って受取場所に移動。被害者から現金を受け取ると、すぐに現金回収役に取り上げられ、そこで任務は終了。受け子の行動を監視していた管理役から帰りの交通費を渡され、帰阪するのだ。
■使い捨ての未成年
半ば強制的に受け子として雇い入れられた少年ら。だが彼らをスカウトした暴走族OBも勧誘役にすぎなかった。
このOBら勧誘役のまとめ役として、関西から受け子を派遣する窓口になっていたとみられるのが、元格闘家で自称自営業の吉田圭多容疑者(33)=詐欺容疑で再逮捕。少年らを監視していた管理役や現金回収役、連絡用携帯電話など犯行に必要な道具を貸し出す「道具屋」らも、吉田容疑者の配下だったという。
だが、吉田容疑者もグループのトップではない。グループの拠点は関東にあり、吉田容疑者が関東からの要請を受けて、少年らを受け子として派遣していたという構図だった。
危ない“現場仕事”に未成年が駆り出される-。オレオレ詐欺事件では、未成年者の摘発が目立って増加しており、昨年上半期(1〜6月)に全国の警察がオレオレ詐欺を含む「振り込め詐欺」事件で摘発した未成年は137人(前年同期比23・4%増)で、21年の統計開始以降で最多となった。21年(22人)と比較すると、約6倍にまで激増しており、大半は受け子だった。
■地方が人材供給源
大阪府警によると、ここ数年、東京では詐欺グループの受け子や出し子の摘発が相次ぎ、こうした人員の現地調達が困難な状況に陥っている。
そこで目を付けられたのが「地方」。全国に点在する詐欺グループのメンバーが地方の不良少年らを集め、東京に派遣して犯行に加担させる「出張型」が増加しているといい、警視庁が昨年、受け子や出し子として摘発した少年の約6割が都外在住者だった。
大阪府警に逮捕された少年らが被害者から受け取った現金は、回収役がその8割を回収し、上役が指定したファストフード店やパチンコ店のトイレに置いていた。その後どのように金が回収、配分されるのかは解明されていない。一方、「大阪グループ」の取り分は、残りの2割だ。
受け子らには勧誘段階で1回3万〜6万円の報酬が約束されていたという。だが、府警幹部は悲しい現実をこう明かす。
「まとめ役や勧誘役などが次々にピンハネし、取り分はほとんどなかったようだ」
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