7年目になるアメリカ株式市場の上げ相場、演出したバーナンキ前FRB議長の近況は photo Getty Images
米国株式市場最大のリスク、利上げはいつか? 警戒感強まる中、上げ相場の立て役者バーナンキはヘッジファンドへ
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2015年05月16日(土) 歳川 隆雄「ニュースの深層」 現代ビジネス
世界の株式市場にとって最大のリスクは、米国の利上げに尽きると言っていい。ベン・バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長による圧倒的なマネーの力で制したQE1(金融緩和第1弾)からQE3(同3弾)に至る量的緩和によって米国株は2008年9月のリーマン・ショック後6年間上がり続け、史上最高値を更新してなお上げ相場は7年目を迎えている。
■「年内利上げ」説
だが、バーナンキ氏の後を継いだジャネット・イエレン議長は5月6日、ワシントンの国際通貨基金(IMF)本部でのクリスティーヌ・ラガルド専務理事との対談で「(米国株は)一般的にとても高い」とした上で「潜在的な危険がある」と警告した。
その前日の5日、創設わずか5年足らずで資産を500億ドル(約6兆円)にした投資会社ダブルライン・キャピタルの創業者で、「新債券王」の異名を取るジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)は、賃金上昇の鈍さを理由に「年内利上げ」に反対を表明した。
ガンドラック氏は、実は2ヵ月前にも注目発言をしている。
3月18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明に「利上げに忍耐強く(be patient)」の文言が削除されたことから最速で「6月利上げ」説が急浮上した直後のことだ。
「FRBは金融・経済的な理由ではなく、思想的な理由で利上げを行うとしている」と語った上で「そうしたことは長続きしない。イエレン議長は再び政策金利の引き下げを余儀なくされるはずだ」と述べ、FRBの理念的利上げに警鐘を鳴らした。
事実、FRBは4月29日に発表したFOMC声明の中で、米経済について成長減速は一時的とした上で「緩やかなペースの拡大が続く」との見通しを堅持したものの、米GDP(国内総生産)速報値(1‐3月期)が前期比年率で+0.2%と事前の予想の+1.0%を下回り、2014年10‐12月期の+2.2%から事実上のゼロ成長に転落したと明かした。
同声明では、GDP悪化は原油安とドル高、厳冬や西海岸の港湾労使紛争などが主因であるとしたが、むしろ米経済回復の弱さはローレンス・サマーズ元財務長官が唱える「長期停滞論」で証明されている。
■米国ファクターに振り回され続ける「日経平均」
3月の貿易収支で約6年ぶりに大幅な貿易赤字となり、実質GDP改訂値がマイナス成長に陥ると懸念されて、日本の大型連休中の5月5日、米NY株式市場はダウ工業株平均が一時下げ幅を164ドルへ拡大した。
ところが8日に発表された4月分の雇用統計速報値で非農業部門の雇用者数が前月比22.3万人増となり、これを好感した同日のダウ平均は1万8190ドルまで上昇し、前日からの上げ幅が260ドル超となった。
しかし、市場関係者はいたって冷静である。株式など価格変動の高い資産を買う「リスクオン相場」に天井があることを強く意識しているからだ。換言すれば、米景気回復への過剰期待が見直されつつあるということである。
一方、FOMC声明後の4月30日の東京株式市場日経平均株価は28日終値と比べた下げ幅は一時400円超、さらにイエレン発言後の5月7日の日経平均株価は連休前1日終値に比べた下げ幅は250円超といったように、米国ファクターに振り回され続けている。
それにしても「その日」がいつやって来るにせよ、FRBによる利上げへの警戒感がくすぶり続いているのは間違いない。
そうした中、バーナンキ前FRB議長が、資産家のケネス・グリフィン氏が創設したヘッジファンド運用会社シタデル(本社シカゴ)の上級アドバイザーに就任することが決まったとの報道に接した。同社株式は保有せず、ボーナスも受け取らないとあったが、巨額な年俸報酬額は明らかにされていない。
リスクオン経済の衝撃波で通貨を切り下げ、株価を押し上げることで未曾有の世界金融危機とデフレ脅威から脱出を図る「気宇壮大な実験」を行ったバーナンキ氏がたとえブルッキングス研究所研究員を続けるにしても今後はヘッジファンドに席を置くということに、何か割り切れない気持ちが残るのは筆者だけではあるまい。