英国総選挙について
http://blog.livedoor.jp/analyst_zaiya777/archives/52702364.html
2015年05月08日 在野のアナリスト
英国総選挙、与党・保守党が単独過半数をこえる勢いです。労働党が、スコットランド独立党とくんで…とのネガティブキャンペーンにより圧勝した、とも伝えられますが、もう一つ重要なのは、ウィリアム王子とキャサリン妃の間に、シャーロット・エリザベス・ダイアナが誕生したことです。お祝いムードのとき、何となく現状変更をを躊躇うのは、どの国の国民も同じ。それが与党への追い風となり、不人気とされながら保守党躍進のキッカケになったのでしょう。
日本では猿の名前にシャーロットとつけ、批判が集まっていますが、的外れです。日本と異なり、名前の選択肢が少ない海外、特に厳格なカトリックは聖書に登場する人物名しか名前にできません。米国はプロテスタントの国ですから、時折変わった名前も見かけますが、英国の正教会の名づけに関する考え方は、カトリックに近い。貴人と動物を同じ名前にするのはけしからん! などとしていたら、それこそ選択肢がなくなります。ちなみに、シャーロットはゲルマン系・カールから変形した名前です。カールの原義は『男、農夫』であり、奴隷とは異なる一般市民という意味になります。カールは英語ではチャールズとなり、伊語ではカルロになり、このカルロから派生した女性名でカロリーナ、シャルロッテ、それが英語名シャーロットとなります。日本人にはまったく別々の名前のようにみえますが、元は同じなのです。このように、欧州の名前はほとんど発音の差、訛りの違い程度でしかなく、日本名のように無限の組み合わせをつくれるわけではありません。だから三つ重ねたり、愛称を正式に通名としていたり、といった変化をつける。そうしたことも知らず、日本の常識を当てはめてみても、海外からは笑われるだけです。
英選挙で驚くべきは、スコットランド独立党の躍進です。労働党の地盤とみなされていたスコットランドで、圧倒的な強さを見せました。先にスコットランドの国民投票では、英国からの独立を見送りましたが、これは火種として燻る問題として残ります。英国のEU離脱、英国の分裂、と2つの問題を抱え、キャメロン首相は先のネガティブキャンペーンの後始末とともに、難しい政権運営を迫られることでしょう。これはここまで成功してきた経済運営にも影を落とします。
英国では、財政健全化をすすめるため増税、富裕層への減税という政策をすすめた結果、ロンドンなど大都市圏の不動産バブルを生み、それが経済成長を促し、リーマンショックを乗り切ってきた、という経緯があります。ロンドンなどでは一般市民が不動産に手を出せなくなり、労働者もルームシェアなどで、高い賃料を賄うほど。健全な状況からは大きく乖離しています。
そしてこうした富裕層優遇、労働層へ負担、という経済政策をとると、必ずといっていいほど賃金が低い水準に抑えられまる。理由は不明ですが、世界で同じことが起こっているので、必然といっても差し支えない。それが保守党への批判となって現れる、というのが今回の選挙の事前の読みでした。ごく一握りの富裕層は票になりにくく、圧倒的に労働者の数が多いからです。
しかし労働党は今回、対案を示せなかった。これも世界で同時に起こっていることで、この新自由主義的な手法に一旦手をだすと、巻き戻すときの負の影響もあって、簡単に変えることも難しくなり、対案をだしにくいといった問題もあるのです。この手法を終焉した途端、国の経済が破綻するかもしれない。そんな危機感もまた、与党への追い風となって機能したのでしょう。
現状はトリクルダウン理論を否定し、与党のとる政策に不満も高まるのに、選挙になると与党が強い。それはこうしたことからも起きていることであり、日本も同様といえます。北欧神話に『リーグの歌』というものがあります。リーグは旅をし、3軒の家に泊まるとそれぞれの家に子が生まれます。それぞれ奴婢、自作農、貴族に別れますが、その二番目の自作農の名が、カールです。英国では今、移民も問題視されていますが、中間層であるカールの名をもつ王室の女の子が誕生した。三つの階層が大きく分離されている今の英国を、一つにまとめられるか? 保守党もここからが正念場、ということでもあるのでしょうね。