ドル崩壊で日本沈没。中国主導のAIIBは「ノアの方舟」?〈dot.〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150508-00000008-sasahi-int
dot. 5月8日(金)16時8分配信
中国主導の国際開発金融機関であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の行方に注目が集まっている。米国と日本が参加を見送るなか、創設時加盟国の申請締め切りである3月末にかけて、英国をはじめ仏独など主要国が次々と参加を決めた。メディア上では様々な意見が飛び交っているが、“覇権の多極化”、“米国ドル覇権の崩壊”という世界史の大きな流れを踏まえると、どのような構図が見えてくるだろうか。
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北京に本部を置く「アジアインフラ投資銀行」(以下、AIIB)は、アジア地域の道路や港湾、発電所などのインフラ開発に国際投資する事業を行う予定で、中国が2013年秋から設立を提唱し、14年10月に正式発足した。当初、創設時加盟国の参加申し込みを14年末に締め切る予定だったが、欧州勢の参加する可能性があったためか、創設時加盟国の申し込みを今年3月末まで延長していた(創設時から加盟した方が、銀行の基本的な運営に対する発言権が大きくなる)。
これまで、国際金融機関といえば国際通貨基金(以下、IMF)と世界銀行という「ブレトンウッズ機関」を筆頭に、米国の覇権運営を補佐する存在だった。アジアではIMF世銀体制下に、日本が歴代の総裁職を占めてきたアジア開発銀行(ADB)がある。近年、中国やインド、ロシア、ブラジルなどの新興諸国(BRICSなど)が経済力をつけ、米国とその傘下の日欧の発言力が圧倒的な国際金融機関の運営体制を変えてほしい、新興諸国の発言力を増加してほしいと要請していた。2010年、IMFで、中国など新興諸国の発言力(出資比率)を増やす改革の方針が決まり、米政府(民主党オバマ政権)も署名したが、共和党主導の米議会が批准を拒否したまま、改革が座礁している。
経済協力として見ると、アジアへのインフラ投資が足りないのだから、設立者が中国だからという理由で米日がAIIBに入らないのはおかしい。中国は、日本にも米国にも、AIIBへの加盟を誘っている。国際協力の経験が豊富な米日など先進国がAIIBに入り、中国による運営の下手なところを助けてやるのが筋だ。
しかし、この話を国際政治として見ると、これまで米国は中国が台頭して自国の覇権を崩すことを嫌い、IMFにおける中国の発言権拡大を拒否している。そこで、拡大を断られた中国がAIIBを創設したが、米国は関係諸国にAIIBに加盟するなと圧力をかけてきた。しかし、米国の衰退と中国の台頭を予測する欧州勢は米国の圧力を無視してAIIBに加盟し、対米従属と中国嫌悪に固執する日本だけが米国に追随してAIIBに入らない、という流れに納得がいく。
歴代総裁が日本人であるADBは、米国が、自国の覇権下で対米従属の日本がアジアを主導するかたちをとった組織となっている。経済協力として見ると、AIIBができてもADBにマイナスでないが、国際政治として見ると、AIIB(中国)が拡大するほどADB(日本)が縮小する。日米以外の関連諸国がこぞってAIIBに入りそうな現状は、アジアの盟主が日本から中国に代わりそうなことを示している。
フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、欧州などがAIIBに加盟する動きを、世界がドルよりも人民元を好むようになっていることを象徴するものだと書いている。通貨の分野では、中央銀行による債券買い支え(QE=Quantitative easing 量的金融緩和政策)がないと米国のドル基軸体制を維持できない状態になっている。中国などBRICSは、ドル崩壊に備え、各国の自国通貨を使った貿易体制を組んでいる。ドル基軸体制とIMF体制は同一のものだから、中国がIMFと別にAIIBを作ったのは、ドル崩壊への備えであるともいえる。ユーロ諸国が、ドルより人民元とのつながりを重視し、AIIBに入るのも自然な動きだ。
AIIBは設立まで1年半の時間しかかけていない。ちょうど、米連銀がQEを続けられなくなり、代わりに日欧にQEをやらせる動きをしていた時に、中国は、AIIBやBRICS開発銀行などIMF世銀体制の代替組織の設立を急いで準備していた。
日本は、ドルを延命させるため、日銀が新規発行の日本国債の全量を買い上げる過激なQEを続けている。いずれ日銀のQEは効果が下がる。日本国債の金利上昇とデフォルト(債務不履行)、超円安などの混乱が起こり、日本は経済破綻する可能性が増している。すでに、日銀がQEを減らして軟着陸的に終了させるのは非常に困難だ。出口はない。日本は自分を人身御供にしてドルを救おうとしているが、日本が破綻した後、ドルも延命策が尽きて破綻しそうだ。具体的に何が起きるか予測が困難だが、大変なことになる。
このきたるべき大変な事態を予測して、中国などBRICSは、ドル崩壊の大惨事が起きても自分たちが溺死せずにすむ「ノアの方舟」的な、ドルに頼らない決済体制を準備している。その一つがAIIBだ。こうした通貨の面でも、日本は負け組で、中国が勝ち組だ。最近の日本では、中国を嫌悪、敵視、批判する言論が歓迎される半面、中国を客観的、肯定的にとらえて分析する言論は、誹謗中傷を受ける。日本人は、中国を嫌うばかりで、中国に負けないようにする方策を冷静に考えることを自分たちに禁じている。中国の台頭や日本の衰退を食い止めるには、まず中国を冷静に分析することが必要だ。
※「田中宇の国際ニュース解説」より抜粋、一部修正