ベンチャー企業はなぜ上場を目指す?急成長を後押しするVCの意外な収益構造とは?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150427-00010006-bjournal-bus_all
Business Journal 4月27日(月)6時1分配信
3月31日付日経新聞に『IPO審査の厳格化要請 日本取引所、証券会社などに』という記事が載っていました。内容を要約すると、日本取引所グループがIPO(新規株式公開)を行う企業に対する審査を厳格化するように、証券会社や監査法人に要請する方針ということです。それには、経営者による不正取引の有無などをチェックする狙いがありますが、日本取引所がIPO関連で証券会社などに注意喚起を行うのは異例の事態です。
株取引をしていたり、ベンチャー企業に関心を持っている人であれば、このニュースのきっかけは何なのか、ピンときたでしょう。実際、この記事には「最近のIPOをめぐる主な問題例」として、具体的な企業名が書いてありました。
これについては、「規則を厳格化しても、結局、穴を探す企業が出てくるので意味がない」「もっときちんと情報開示させればいい」「不正をした経営者に対する罰則を厳しくするべきだ」など、さまざまな意見がありますが、今回はそういった議論をするつもりはありません。
そもそも、IPOとは何なのか。また、IPOの話題の際によく登場するベンチャーキャピタル(VC)について考えてみたいと思います。まず、なぜIPOをするのかという点です。IPOのメリットとデメリットは、すでにさまざまなところで論じられていますが、まとめると以下のようになります。
【メリット】
1.株式公開に当たって企業情報の正確な開示、会計の正確さの確保、株主の分散(リスク分散)が必要になり、それに伴い企業価値の上昇が見込まれる
2.上場によって資金調達が可能となる、またその後も資金調達が容易になる
3.信用の向上が見込まれる。金融機関、取引先からの信頼性が高まり、人材採用などの面でも会社に対する信用が向上する
4.企業価値の上昇が見込まれる。市場での株式取引が可能になり、流動性が確保され、創業者利益を確保できるようになる
5.一般的には、事業承継や売却が容易になる
【デメリット】
1.正確な情報開示が必要となる
2.厳格なコンプライアンス(法令遵守)が要求される
3.上場手続きおよび上場維持に付帯する経費がかさむ(監査報酬として年間1000万円、証券代行費用として年間数千万円、その他)
4.株主の意向に配慮する義務がある
【デメリット】の中には、見方によっては【メリット】と考えることができる項目もありますが、便宜上【デメリット】にしてあります。また、IPOに関する詳細な手続きや企業価値を論じ始めると、到底語り尽くせないので、興味を持っている人は、別途勉強や研究が必要になります。
●VCとは何をやっているのか?
IPOの話題になると、取引所、監査法人、主幹事証券会社といった言葉が登場します。その中でも、一般的には何をしているのかよく理解されてないVCについて説明します。
VCのやっていることを簡単に言うと、「すごいスピードで成長する株式未公開企業を探して、投資をする」ということです。もちろん、投資だけではなく、投資先の成長のサポートなどもしています。
VCはそれぞれ、規模やベンチャー企業にかかわるタイミング、投資後のかかわり方などに違いがあり、すべてが同じ動きをするわけではありません。したがって、ベンチャー企業を判断する際、「どんなVCが投資しているのか」という点に注目することによって、そのベンチャー企業がどういう状況なのかを判断する一助にもなります。
投資に対するスタンスにも違いがあります。非常に早い段階、場合によっては事業のアイデアしかないようなタイミングで投資するVCもあれば、「そろそろ株式公開するだろう」というタイミングで投資を行うVCもあります。規模の大きなVCの中には、タイプの異なる投資先をカバーするファンドを複数抱えている組織もあります。
また、投資だけを行い、あとは見守るだけというスタンスのVCもあれば、投資先の企業(経営者)と二人三脚で企業価値を向上させていくスタンスのVCもあります。さらに、「コバンザメ商法」のように、有力なVCが投資する際に尻馬に乗っていくようなVCもあります。
最近は、東京大学、京都大学、大阪大学などの有名大学がVCを作り、大学発の企業を支援するという例も増えてきています。純粋なVCとは違いますが、事業会社や商社などが自社の事業との親和性などから、直接投資するケースもあります。
もし、ビジネスを起こしてVCとの付き合いを考えているのであれば、VCのスタンスや哲学をよく知ることはとても重要です。
●VCの収益構造は、こうなっている
VCは、どうやって収益を確保しているのでしょうか。
例えば、まだ誰にも知られていないような有力企業を発掘して投資し、その後も企業価値を向上させるサポートを行った結果、その企業がIPOを行ったとします。そうすると、VCは出資分を市場で売却することで、投資した資金の何十倍、時には何百倍や何千倍というリターンを得ることができます。
しかし、IPOするまでには何年もかかる上、そもそも投資先の企業のほとんどは株式公開にまで至りません。IPOできなくても、M&Aによって投資を回収するケースもあります。しかし、VCはファンドで集めたお金を投資する先を見つけていく必要がありますし、投資先を管理監督する必要もあります。そのための資金は、どうやって賄っているのでしょうか?
一般的にVCは、既述したようなキャピタルゲインのみで回っているわけではありません。そもそもVCは、誰か一人のお金ではなく、ファンドを組成してさまざまな人や機関から出資を募っています。その際、契約の中に「設立手数料」「管理手数料」「成功報酬」が決められており、それが収益となります。
例えば、あなたが一念発起してベンチャーキャピタルを立ち上げるとしましょう。そして、ファンドに100億円集めることに成功すると、契約上はどんな手数料をもらうことになるのでしょうか? 以下、一つの例として説明します。
【ビジネスジャーナル1号ファンド】
・ファンド総額 100億円
・設立手数料 2.5%/設立時のみ(2億5000万円)
・管理手数料 2.5%/年(2億5000万円)
・成功報酬 出資者に一定以上のキャピタルゲインを提供後、上ぶれした部分は○%
・ファンドの期間 10年
お金を集めて、手数料だけをかすめ取って投資をしない、というのはVCとしての役割を放棄することになるので、当然ながらあり得ません。一生懸命、有望な投資先を発掘し、投資後は10年をメドに資金を回収して、出資者にできる限りリターンを与えられるように努力します。
●VCが直面する償還期限と換金プレッシャー
一方、ファンドには7年や10年など償還期限が設けられているので、それまでに投資した結果を出さなければなりません。仮にファンドにお金がたくさん集まったとしても、ノロノロしていると大変なことになるのです。急成長が見込まれる企業といっても、株式未公開企業は投資してすぐに成果が出るわけではありません。IPOまで、どんなに早くても3〜4年はかかります。したがって、ファンドを創設して資金を集めたら早めに投資をしないと、ハイリターンを得る望みすらなくなります。
株式や企業買収など、いわゆる「ハイリスク・ハイリターン」な投資へ投入される資金をリスクマネーと呼びます。市場環境がよくなり、そのリスクマネーがたくさん供給され、さまざまなファンドが創設されるようになると、別の悩みも生まれます。それは、「有望な投資対象は限られている」ということです。短期間で急成長する企業は少なく、さらにその中でIPOに到達する企業となるとごく少数です。
ファンドがたくさん創設されると、有望な企業には資金が集中します。その結果、人気のある企業は株価が高くなります。前述のように、ファンドには償還期限があるため、「ちょっと高いな」という場合であっても、資金を寝かせておくわけにはいかないので、無理をして投資するケースも出てきます。
安く投資できればできるほど、リターンは大きくなりますが、高く投資すればその分リターンは小さくなります。投資を受ける側にとっては、少ない株式で多くの資金調達ができることになりますが、逆に投資する側にとってはあまりうれしくありません。
今の市場がどういう状況なのか、というのはそれぞれの判断にお任せしますが、VCがどんな投資をしているのかを追っていくと、現在の市況を判断する一助となるはずです。
償還期限があるということは、VCには「それまでに換金しなければならない」というプレッシャーがあるということです。投資先の企業に、期限までになんとか換金(IPOあるいはM&A)できるようにプレッシャーを与えるケースもあります。ベンチャー企業側は、まだ株式公開や売却をしたくない状況であっても、株主であるVCの要求を無視することはできません。もちろんここでも、経営者の持株比率やVCとの関係性、その他の株主の意向など、さまざまな要因があり、一概にいうことはできません。
●ベンチャー企業の成長に必要不可欠なVC
日本におけるVCの活躍はまだこれから、という意見もありますが、関係者の努力によって、かなりその環境が整備されてきたように感じます。急成長する会社へのリスクマネーの提供に、VCのような存在は欠かせません。急成長を狙った時、自己資金だけで賄える起業家はほとんどいないでしょうし、銀行からの融資だけではうまくいかない場合もあります。
そのため、急成長を望むベンチャー企業は、VCからの資金提供がなくては、その理想や夢を実現できないといえるでしょう。
ベンチャー企業は「イケイケ」「最先端」「スマート」な雰囲気が強調されているように見えますが、実際にはVCをはじめ、さまざまな力学が働いて運営されているのです。VCから資本を入れて急成長している企業の経営者は、表には見えないところでVCとやりとりしている、ということを頭に入れておくと、また違った見方ができるかもしれません。
また、気になるベンチャー企業があったら、どういう株主がいるのか、どんなVCが入っているのかを見てみるのも面白いでしょう。
文=藤原実/藤原実税理士事務所所長、内閣府所管公益財団法人生涯学習協議会認定ビジネスモデル・デザイナー(R)