『ブラックバイト』(大内裕和・今野晴貴/堀之内出版)
長時間労働、数万円の自腹買取り、元ヤン店長の暴力支配…ブラックバイトに気をつけろ
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2015.04.22. リテラ
新学年のはじまり、新しくアルバイトを始める人も多いだろう。しかし、注意したいのがブラックバイトだ。
ブラックバイトとは大学生など若者に劣悪な条件での労働を要求する仕事(アルバイト)のことだ。アルバイトにもかかわらず、社員と同様の過大な責任と負担を押し付けられ、大学の講義やゼミを休まざるをえなくなる。大学生にとって最も重要な試験前や試験期間中にも休むことを許されず、試験を欠席して単位を落とす……。こうしたブラックバイトを募集しているのは大手アパレル店に、大手牛丼チェーン、大手コンビニエンスストアと、社員を酷使し使い捨てにしてきた、いわゆる“ブラック企業”なのだ。
社員を使い捨てにするブラック企業は、今度はアルバイトにも早朝から深夜までの長時間労働に毎月数万円もの自腹買取り……と容赦のない要求をする。その厳しい現実に迫ったのが『ブラックバイト』(大内裕和・今野晴貴/堀之内出版)だ。
たとえば、大手アパレル店では、アルバイトは翌月1カ月分のシフト希望を出し、シフトが決まることになっているが、Aさんの場合、予定のない日をすべて書き出して提出したところ、あらかじめ約束した時間(週18時間程度)を大幅に超えて、週70時間にも及ぶシフトが組まれてしまった。
「元々の約束に比べて、実に四倍の長さである。この時間は、フルタイムの正社員、つまり一日八時間・週五日働く正社員よりも圧倒的に長い。週五日、朝七時から二〇時半ごろまで、一三〜一四時間ほど働いて初めて達成できる労働時間だといえば、その長さが伝わるだろうか」(同書より)
早朝6時に出社し、深夜23時に退社する日々が続くことになったAさん。
「ひたすらバイト先と家を往復し、家で過ごす時間ほとんどを休養・睡眠に充てる生活に陥ってしまった。これでは学業との両立などありえない。Aさんは『シフトを変えてほしい』『シフトを減らしてほしい』と社員に頼み込んだ。しかし、Aさんの出勤を当てにしている社員の反応は『代わりのバイトを探さなければ休めない』と冷淡なものだった」(同書より)
結局、代替要員も見つからず、授業やゼミを欠席したために単位を落としてしまった。
さらに、従業員は「動くマネキン」。自分の着ている服は「その店舗で」「その日に」販売しているものでなくてはならず、自腹購入を迫られるのだ。
「従業員が衣服を購入する場合には定価の三割引になる。だが、それなら価格は週末セールの割引とほとんど変わりない。頻繁にシフトに入っていたAさんは三着を着回すことにし、計一万円ほど購入した」(同書より)
シーズンごとに新たに購入せざるをえず、アルバイトで稼いだはずのお金がバイト先の自腹購入に消えてしまう。同様に自腹購入を迫られるのは大手コンビニだ。お中元や各種催事商品には、学生アルバイトを含めて個人ごとにノルマがある。
「アルバイト一人一人に対して、クリスマスはケーキやチキンなどを三件、お中元は三件、恵方巻き関連商品は五件、土用の丑の日に千円ほどのうな重を三件、といった具合だ。家に小さい子どもがいるわけでもないのに、ひな祭りやこどもの日の商品を買うようにも勧められた。おでんの販売を開始する九月は、おでんの具の予約を一〇〇個取るノルマが与えられた(略)出費は七千円だ。ひたすら親戚に電話をかけて買わせようとしたが、結局それでも売り切れなかった分は数回分の夕食になった」(同書より)
大手コンビニにとってはアルバイトも自社商品の「客」なのだ。
「おせち料理は一つ約二万円もする。お歳暮やお中元は一つ三千円程度から五千円以上のものまであり、それらをアルバイト一人当たり三つのノルマで買わせれば、一人一万円の売上げを確保できる。また別のコンビニの学生アルバイトによれば、土用の丑の日のうな重の販売ノルマが課せられるのだが、わざわざコンビニでうな重を購入する客はほとんどおらず、ほぼすべてのうな重を従業員の購入によって消費しているという」(同書より)
高校生のアルバイトに毎月数万円もの「買い取り」を命じていた大手ジーンズショップもあるほどだ。
しかも、ブラックバイトだとわかっても、なかなか抜け出さないような「過剰な組み込み」にがんじがらめだ。「今日、来れないか」というLINEを通じた呼び出しなどの連絡は24時間休みがないうえに、長時間労働に深夜勤務で、考える、周囲に相談する時間を与えない。大学生には「学生は高校生まで」「学生気分を捨てろ!」と要求するのだ。
「勤務時間外も職場の一員として常に臨戦態勢にあり、シフトも職場に合わせて決定され、長時間の労働があり、時には多店舗を任される。これらは、学生のアルバイトがその会社にとって重要だというだけで足りず、必要不可欠な戦力になっているがゆえである」(同書より)
暴力的な支配も横行する。
「あるとんかつチェーンでは、数店舗を束ねる店長がほとんど現場に姿を現さず(略)、たまに姿を現すと思うと『俺は昔ヤンキーだった』などとちらつかせて、実際に昔の『元ヤン』の仲間をこれ見よがしに連れてきて、従業員が店長の意思に反した行動をとったときのために、にらみを利かせることがあった。そのうえで、学生アルバイトが休みの相談をすると、学生の左耳が数週間難聴気味になるほど、一時間にわたる怒号と説教を浴びせかけたと言う。仕事のミスなどで見せしめに殴られている先輩のアルバイトを見たこともあり、この学生アルバイトは自分が休んだり辞めたりすることができるのか怖くなった」(同書より)
いざ辞める際にも、50万円を超える迷惑料や違約金を請求されるケースもあり、辞めるに辞められないのだ。当然ながらこうした請求は法的な効力は一切なく、即座に辞めることをお勧めしたいのだが。
こうしたブラックバイトは利益至上主義をとる企業の経営戦略の末路ともいえる。
「企業の利益目標はまず店長・オーナーに降りかかり、これは最終的に『戦力化』した学生に至る。業績を上げる責任が、『企業(本部)』→『店長』→『学生』と次々に転嫁し、最終的に売り上げに責任を持つのは末端の『学生アルバイト』になってしまうというわけだ。そこにはわずらわしい作業を学生に押し付けることも含む」(同書より)
社員を使い捨てしたブラック企業は、次は学生アルバイトを食い物にして肥大化しようとしているのだ。
(小石川シンイチ)